佐々木亮介主催"雷よ静かに轟け”第十夜は山口洋(HEATWAVE)を迎え開催「洋さんを見て思うのは、そのままでいいってこと」
Photo:シンマチダ
Text:森朋之Photo:シンマチダ
a flood of circle佐々木亮介が主催する弾き語りツーマンシリーズ"雷よ静かに轟け”。会場は、東八郎、萩本欽一、ツービート、浅草キッドなど数々の芸人が出演したことで知られる浅草フランス座演芸場東洋館。"雷よ静かに轟け”には“第一夜”のゲスト・中田裕二から始まりNalamuraEmi、奇妙礼太郎、古市コータロー、小山田壮平、詩人・御徒町凧、中村一義(Acoustic set with 三井律郎)、TOSHI-LOW(BRAHMAN, OAU)、橋本絵莉子が出演。全公演ソールドアウトの人気ぶりだ。
記念すべき“第十夜”のゲストは、活動歴46年を誇るロックバンド“HEATWAVE”のフロントマン、山口洋。歌とギター、詩情と激情、遠い声とリアルな肉声が混ざり合う、じんわりと刺激的な夜となった。
山口洋
橋本絵莉子との“第九夜”が行われたのが3月28日の春真っ盛り。あれから4カ月以上が経ち、浅草の街はすっかり夏の装い。
浴衣姿の若い人もちらほらいて、それぞれが初夏を楽しんでいるーーというにはちょっと暑すぎるが。
いつものように観光客や地元の人たちでゴッタ返す新仲見世通り~六区ブロードウェイ商店街を通り、浅草フランス座東洋館へ。“雷よ静かに轟け”で季節ごとに浅草に来られるのは何と赴きのあることよと思いながら会場に入ると、いつものように古いロックンロールが流れている。やっぱりいいなと伝統ある演芸場を雰囲気を味わっていると、“めくり”(寄席などの演芸場で、現在の出演者名を書いた紙製の札)がめくられ、そこには自筆による“山口洋”の名が。サングラスといいジーンズといいパーマの具合といい「ボブ・ディランじゃん!」と心のなかで叫びたくなる出で立ちの山口が1曲目に選んだのは「Don’t Look Back」。あまりにも滑らかなアコギの響き、と〈雨にも負け,風にも負け,組織にも負け/見上げたポーラスターがこうささやいていたDon’t Look Back」〉というラインがスッと身体に浸透してきて、此処ではない何処かに連れ去られると同時に、わが身のこれまでを振り返ってしまう。〈亮介、Don’tLookBack〉〈君は円環の洪水だ〉というアドリブも楽しい。(”円環の洪水”とは“a flood of circle”のことだそうです)
中学生のときにトルーマン・カポーティを読んで、“遠い声”が聴こえるようになって、それを追い求めてきて、今日ここに立ってるーーというMCからはじまったのは「遠い声」。
カポーティのデビュー作「遠い声遠い部屋」にも通じる、瑞々しさ、葛藤、切なさ、美しさ、苦しさが零れ落ちる声に惹きつけられる。後奏はルーパーを使ったひとりアコギセッション。背景に立ち上る、古き良きアメリカへの憧憬と“今”の生々しい現実。
「俺の記憶が正しければ、佐々木亮介が“好きなんです”と言ってくれた曲」と紹介された「トウキョウシティヒエラルキー」の後は、「God Only Knows」(The Beach Boys)のカバー。今年6月に逝去したブライアン・ウィルソンの驚異的な異才ぶりが発揮されたアルバム「ペット・サウンズ」のB面の1曲目に収められた名曲だ。緻密に構成されたコード進行、対位法を駆使したコーラスワークなどが取り入れられたこの曲を山口は、アコギと歌だけで再構築。彼自身が「ギター1本でやるの神業なんだよ(笑)」と言っていたが、原曲のエッセンスを抽出したようなギタープレイ、日本語を当てた歌詞を含め、本当に素晴らしい演奏だった。
さらにコロナ禍でのエピソード(差し障りがありそうなので割愛)がもとになった「ディスタンス」、そして、“第八夜”でTOSHI-LOWも歌った名曲「満月の夕」が奏でられる。
阪神淡路大震災を背景に、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と共作したこの曲。〈全てをなくした人はどこへゆけばいいのだろう〉という歌詞は、30年経った現在、さらに深く強く胸に迫る。福島のこと、能登のこと、ガザのことーー。
「1曲くらい佐々木亮介に歌ってもいいかな」と、最後は「Blind Pilot」。疾走感に溢れたアコギとともに〈いつだって君の運命を貫いていけ〉というラインが響き渡る。間奏ではまるで飛行機が自由に飛び回るようなプレイを披露。ソロを弾き終わり「帰ってまいりました」という言葉を差し込む演出も粋だ。HEATWAVEは現在、ニューアルバムの制作中。
8月21日(金)、22日(土)には、アルバム「1995」(1995年)30周年を記念したライブも開催される。2025年の山口洋の音楽、ぜひ体感してもらいたい。
いつもは緑茶割りを手に舞台の上がる佐々木亮介だが、この日、舞台に置かれていたのはペットボトルの水だけ。高い位置にアコギを構え、「北極星のメロディー」を弾き語る。〈ただ夢中で走ってたよな/ポラリス君と最高の景色を探していた〉という歌から伝わってきた感情はまちがいなく、山口洋の舞台と地続きだった。
佐々木亮介
そのまま〈最高お前は最高〉という歌詞が突き刺さる「ひとさらい」を奏で、最初のMC。「山口洋さん、すごいだろ。光栄です、とかって余裕ぶりたいんだけど、焦りますよね、あんなの見たら」と話したあと、この季節に似合いすぎる「Summertime Blues Ⅱ」。
もともとは2012年にリリースされた楽曲だが、〈搾取される方が悪いというシステムと暮らす〉という状況は言うまでもなく、今現在のほうが深刻。分断は進み、ヘイトを煽る輩は増え、どう考えても最悪なヘル日本……と聴いているうちにどんどん気持ちが暗くなる。本当にブルースが似合う国になってしまったな、などと考えていると再び佐々木は山口の話を始める。「2回目に会ったとき、俺が暗い顔してたみたいで。洋さん、何って言ったと思う?“亮介、久しぶり。なんだよ、恋煩い?”って、すごくない?」。笑いが起きる会場に向けて放たれたのは、「Trash Blues」。夏の終わりを舞台にした、恋煩いの歌だ。
この日の喋りはほぼ全部、山口洋のこと。「食ったり金稼ぐのは生きるために必要。でも、生きてるなって感じるのは生きのびるためにすることは真逆のことで、洋さんはそれをずっと続けてるんでしょうね。俺も探してるんですよね、そういうキラキラを」という話につなげたのは「世界が変わる日」。そして、下北沢のライブハウスで“死刑制度”について話す(映画監督・作家の森達也も参加していたという)イベントが山口との初対面だったというエピソードから「テンペスト」へ。生まれた理由とは?やるべきこととは?という根源的なテーマを含んだ歌詞をどこまでも真っ直ぐに歌う、その姿そのものがロックンロールだ。
浅草はいいところ、酒が上手い、外人いっぱい、だから居心地がいい、だってそうでしょ、見た目ではどこの国の人かわからない、だから安心する、何人だったいい、もし俺が日本人じゃなかったらどうなの?関係ないでしょ……という言葉をアコギとともに紡ぎ、佐々木亮介のソロ楽曲「We Alright」を演奏。ROTH BART BARON・三船雅也との共同プロデュースによるこの曲がリリースされたのはコロナ前の2019年。
そもそも優れたソングライターはそういうものかもしれないが、〈もうダメだって一体何度思ったの〉にしても〈寄り道ならしてもいい/だからこそ出会った君〉にしても、完全に“今”を捉えている。
“トルーマン・カポーティの原作を映画にした「ティファニーで朝食を」でオードリー・ヘプバーンが歌ったことで知られる楽曲「Moon River」を日本語でカバーし、ライブは終盤へと向かう。月つながりの「Honey Moon Song」では〈月まで届くように叫んでやる〉とロマンティックに荒々しい歌を響かせる。
「洋さんはめっちゃ先輩なんですけど、あまりに透度が高くて、14歳に見えることがあって。洋さんの曲に感動するってことは、俺らにも透度が残ってるということだと思うんですけど、洋さんを見て思うのは、そのままでいいってことなんですよね。ただ、それを忘れちゃうことがあって。忘れちゃうから、突き刺して帰りたいと思います」
そんな告白から始まったラストの曲は「白状」。これが生きる理由だ、くたばるときまで続けるんだという決意を刻んだ歌を手渡し、佐々木は舞台を後にする
アンコールを求める手拍子に導かれ、佐々木と山口が再びステージへ。披露されたのは佐々木がリクエストしたというHEATWAVEの「愚か者の船」。山口がアコギとブルースハープ、佐々木が歌。ふたりの貴重なセッションによって愛すべき人間たちへの讃歌が奏でられた。
外に出ると、なんと雨降り。次に浅草に来るのはいつになるだろう?と思いながら帰路につく。2025年8月23日(土)には上野恩賜公園野外ステージ(水上音楽堂)で弾き語り公演『佐々木亮介のひとさらい 2025』、さらにa flood of circleは、現在制作中のニューアルバムのリリース記念イベントとして、11月9日(日)に新宿・歌舞伎町でフリーライブ『I’M FREE 2025 LIVE AT 新宿歌舞伎町野外音楽堂』を開催。自分の運命を貫くように進み続ける佐々木とa flood of circleの今を感じてほしい。
<公演情報>
佐々木亮介弾き語り興行“雷よ静かに轟け”第十夜
2025年7月4日 東京・浅草フランス座演芸場東洋館
出演:佐々木亮介、山口洋