BUCK-TICKが希望で照らした混沌とした“今”『TOUR2020 ABRACADABRA ON SCREEN』配信スタート
写真:田中聖太郎
BUCK-TICKが、2020年に開催したフィルムコンサート『TOUR2020 ABRACADABRA ON SCREEN』の配信が5月1日20時よりスタートした。そのオフィシャルレポートをお届けする。
2020年9月にアルバム『ABRACADABRA』をリリースしたBUCK-TICKが、10月から3カ月にわたり開催したフィルムコンサートという形での全国ホールツアー『TOUR2020 ABRACADABRA ON SCREEN』。通常のコンサートで使用している音響・照明機材を設営し、臨場感溢れる映像などで話題となったが、外出自粛および県を跨いでの移動の自粛などにより観に行けなかったという声が多数寄せられたため、全世界に向けてオンライン配信されることになった。
SEの「-PEACE-」に乗せて、火の粉が時折爆発しながら生命ある龍のようにステージへと向かっていく。ARを駆使した演出もこのフィルムコンサートの見どころの一つだ。大きな魔法のランプからツアータイトルが吹き出し、やがて星が瞬く宇宙が広がる頃、ステージにメンバーの姿が現れた。
一曲目を飾るのは「月の砂漠」。
広大な砂漠とその中に建つ宮殿の映像、顔をヴェールで覆い黒いマントに身を包んだ櫻井敦司(vo)の衣装、ヤガミ・トール(D)によるイントロのトライバルなリズム、寂寥とした星野英彦(G)のコーラスと、視覚的にも聴覚的にも『ABRACADABRA』のタイトルから連想するエキゾチックなイメージを表現するにふさわしいナンバーだ。
櫻井敦司(写真:田中聖太郎)
そして櫻井と今井寿(G)のツインヴォーカルによる「ケセラセラ エレジー」の疾走感と、ダンサブルな「獣たちの夜 YOW-ROW ver.」でテンションを引き上げる。樋口豊(B)の独特なベースラインからサイケデリックな世界が開ける「SOPHIA DREAM」は、BUCK-TICKの新境地と言えるだろう。
この『TOUR2020 ABRACADABRA ON SCREEN』では、バスドラを踏むヤガミの足元のアップや、ギターやベースの運指、メンバーのカメラ目線などのシーンも差し込まれ、通常のコンサートとはまた違う視点も楽しむことができる。特に骨太なボトムのデジロック「URAHARA-JUKU」はその最たるもので、真っ赤なライティングで染められたステージの床に寝転がって歌う櫻井を上から撮った映像は圧巻であった。
「URAHARA-JUKU」の煮えたぎるような焦燥感を一気に冷却したのは次の「凍える」。冷ややかな情感をなぞっていく歌と、子守唄を歌いながら子供をあやす仕草をする櫻井のパフォーマンスに釘付けになった。その余韻を壊さないように今井の独奏が入った後、男女の駆け引きをストーリーにした「舞夢マイム」へ。
歌いながら男女を演じわける櫻井のヴォーカルと、懐かしさと場末感漂うアンサンブル、そしてバックに映し出されたBUCK-TICKの過去曲のタイトルを店の名前にした看板が並ぶ飲み屋街のビジョンも楽しい。
ひりつくようなソリッドなサウンドで聴かせたヘヴィーなインダストリアルロック「Villain」、エレクトロなダンスチューン「堕天使 YOW-ROW ver.」、妖艶でいてレトロチックなディスコナンバー「ダンス天国」と続いた後、「MOONLIGHT ESCAPE」へ。軽やかなサウンドに乗せて、逃げることへの罪悪感を解放する、櫻井の願いでもあるメッセージは、伸びやかな歌声とともに昇華された。
樋口豊(写真:田中聖太郎)
BUCK-TICKから、今の世界に向けて
そしてアルバムで一番キャッチーな「ユリイカ」では、メンバーの歌に合わせて“LOVE”“PEACE”といったワードや宇宙のビジョンがポップに彩り、アルバムのラストソングである「忘却」では、真っ暗なステージの中、一筋のスポットライトを浴びて歌う櫻井の姿が印象的だった。
ここまでアルバム『ABRACADABRA』の楽曲のみで構成していた本編のラストナンバーとして演奏されたのは多幸感広がる「Luna Park」。先行シングルとしてリリースされた「堕天使」のC/Wであった「Luna Park」を配したのは“また明日会えるかい?”という希望。こんな世の中でも、目を閉じた後はいい夢が見られますように、そんな温かな希望の音を放ち、本編を締めくくった。
星野英彦(写真:田中聖太郎)
アンコールは、既存曲の中からBUCK-TICKの真骨頂を見せつつ、混沌とした今の世界に向けた彼らからのメッセージとも言えるような楽曲が並んだ。
(画面の向こうの)観客に向けて右手を挙げる星野、ヤガミは真っ直ぐドラムセットに向かい、樋口と今井は会場の様子をスマートフォンで撮影する。いつものコンサートのアンコールと同じ光景に、スクリーンで観ていた時もそうだったが、これは生中継だったかしらと錯覚させられたものだ。
一曲目は「FUTURE SONG - 未来が通る –」。パワフルなリズムに乗って櫻井と今井のツインヴォーカルで“進め 未来だ”と歌い、続く「MISTY ZONE」では“闇の全てを笑え”と歌う。「Madman Blues -ミナシ児ノ憂鬱-」で表現した、増殖していくモンスターに侵食される世界は、まるで現在を予言していたかのようで、情け容赦なく攻め立てるような高音パートの今井と、低音の声を不気味に震わせる櫻井のツインヴォーカルも相まってゾクリとさせられる。
今井寿(写真:田中聖太郎)
一転して「GIRL」の柔らかなアンサンブルが暖かな光を放ったかと思えば、ステージ一面にキャンドルの火が灯った「ROMANCE」でBUCK-TICKゴシックワールドの真骨頂を見せた。星野のエレアコとピアノの音色が胸に染み入るバラードナンバー「世界は闇で満ちている」は、櫻井のヴォーカルも、それに寄り添うように慣らすヤガミと樋口のリズムも優しく響く。エンディング、跪いてかき鳴らす今井のギターはエモーショナルの極みだった。
そしてラストナンバーの「New World」へ。光を感じるクリーンなサウンドと力強いヴォーカルに乗せた、“無限の闇 切り裂いてゆけ”というメッセージが深く胸を突き刺した。光の中にあれば影になり、影の中にあれば光になる。BUCK-TICKの音楽はいつもそうだ。眩しくて消えてしまいそうになった時の逃げ場所になり、絶望の闇を照らす希望にもなる。今はまだ世界は闇で満ちているけれど、やがて新しい光が降り注ぐ日が来るだろう。
ヤガミ・トール(写真:田中聖太郎)
『TOUR2020 ABRACADABRA ON SCREEN』は5月7日(金) 23:59までアーカイブ配信されており、さらにGW期間中はYouTube公式とニコニコ生放送で貴重な過去のライヴ映像の配信も行われている。文 / 大窪由香
<公演情報>
TOUR2020 ABRACADABRA ON SCREEN
【日程】5月1日(土) 20:00~配信
【形態】無観客配信