ロックと落語の奇跡の共演!佐々木亮介主催 "雷よ静かに轟け” 第十一夜は盟友・春風亭昇羊との"対バン"が実現「こんな友達がいるって自慢したかったんだよね」
Photo:古谷春
Text:森朋之Photo:古谷春
a flood of circle・佐々木亮介が主催する弾き語りツーマンシリーズ"雷よ静かに轟け”。会場は、東八郎、萩本欽一、ツービート、浅草キッドなど数々の芸人が出演したことで知られる東京・浅草フランス座演芸場東洋館。
"雷よ静かに轟け”は、“第一夜”のゲスト・中田裕二から始まり、NakamuraEmi、奇妙礼太郎、古市コータロー(THE COLLECTORS)、小山田壮平、詩人・御徒町凧、中村一義(Acoustic set with 三井律郎)、TOSHI-LOW(BRAHMAN、OAU)、橋本絵莉子、山口洋(HEATWAVE)が出演。全公演ソールドアウトの人気公演となっている。
そして “第十一夜”のゲストは、落語家の春風亭昇羊。“雷よ静かに轟け”で初めての落語家との“対バン”だ。
山口洋をゲストに招き、ふたりのロックンロール詩人の歌をたっぷりと味わった“第十夜”から4カ月。歴史的な酷暑(だけど、毎年こうなんでしょうね……)となった夏が過ぎ、さらに驚くべき速さで秋が終わろうとしている11月23日、筆者は再び浅草へ。
いつも同じような書き出しで申し訳ないが、季節ごとに浅草を訪れるのはとても楽しい。この日の最高気温は15℃だったが、風がない穏やかな気候で、ロック座周辺の飲み屋は相変わらず観光客でいっぱい。“東京”の刺繍が入った赤いキャップをかぶった黒人の女性、着物を羽織って写真を撮っている白人のカップル、サンリオグッズを物色しているアジア系の家族連れ、下駄に法被姿で酔っぱらっている日本人のおじさん……といろんな人がいて妙に落ち着く。
この4カ月いろんなことがあった。プロ野球では、阪神タイガースがぶっちぎりでセリーグの覇者となったのに日本シリーズで惨敗したり、The Stone Rosesのベーシスト・マニが亡くなったり、a flood of circleの武道館公演が発表されたり(2026年5月6日(水・祝)です!)。4カ月も経つと別の世界みたいだなと思いつつ、東洋館の階段を上がる。開演前はいつも古いロックンロールがかかっていたのだが、この日はルーク・ウィンスロウ・キングやフルトン・リーなど、フォークやロックンロールを今に受け継ぐ現役アーティストの楽曲ばかり。佐々木さん、何か心境の変化かしらと考えていると、右手にマイク、左手にお茶割り缶チューハイの本人が素端を見せる。
「別に言いたいことがあったわけじゃないんですけど。初めて落語家の人がゲストに来てくれたので」と春風亭昇羊とのなれそめを説明。
じつは佐々木と昇羊は2010年前後、中野のハンバーガー屋で一緒にバイトをしていた仲。何度も春風亭一門の門を叩くも断られまくり、それでも諦めなかった彼はついに弟子入りを許され、気付けば“春風亭昇羊”になった、みたいな話をしたあと、a flood of circleの「ILOVE YOU」のメロディを使った出囃子とともに昇羊が登場。
マクラはもちろん佐々木亮介のこと。「佐々木さん、当時は本当に目が死んでいまして」からはじまり、ヨーロッパへの公演旅行でブリュッセルの日本人学校に行ったら、そこはたまたま佐々木が子供の頃に通っていた学校だったというエピソードやちょっとした小噺を挟み、いつの間にか落語が始まっていた。
この日の演目は「うどんや」。上方落語の「風邪うどん」を三代目柳家小さんが東京に移した古典だそうだが、寒い夜、鍋焼きうどん屋が江戸の町を流していると、ヨッパライがやってきて……というのがあらすじ。
筆者はまったく落語に明るくないが、ヨッパライとのやりとり、別のお客がうどんを食べている場面など、ぐいぐい引き込まれてしまった。つぎはぜひ新宿末廣亭で観たい。昇羊さん、『ひつじ旅 落語家欧州気候』という本も出していて、こちらも面白そう。
落語のために置かれた高座を舞台の奥に移動させ、佐々木亮介のステージへ。
いつもの革ジャンではなく、デニムの上下で登場した(革ジャン、忘れたそうです)佐々木はアコギを手に取り、切なくアルペジオを響かせ、《どこからか無数にのぼり海面ではじける泡よ》と歌い始める。2009年発売のアルバム『PARADOX PARADE』の収録曲「水の泡」。つまり、中野のハンバーガー屋で死んだ目をしながらバイトしていた頃の曲だ。ということは、アレ?メジャーデビューしてからもバイトしていたの?とちょっとだけ驚いていると激しいカッティングとともに「泥水のメロディー」へ。
こちらは2008年の楽曲。アコギ1本で鋭利なロックンロールを体現できる佐々木亮介、やはりカッコいい。
「次も中野でバイトしていた頃の曲。今のところ、いちばん金になっています」と紹介されたのは「理由なき反抗(The Rebel Age)」。“金になっている”状態になったきっかけは漫画『ふつうの軽音部』で主人公の鳩野ちひろがこの曲を熱唱するシーンが描かれたことだが、一寸先が闇でも魂は渡さない、《ジェームス・ディーンになりたいんじゃない僕は僕になりたいだけ》と叫ぶこの曲はまちがいなくa flood of circleの本質とつながっている名曲だ。
「11月に秋の歌を歌うくらいは成長してしまった。成長ってさみしいもんですよ。金持ちくらいにしかなれない。
(小声で)なりたいけど」という言葉に続いたのは「カメラソング」だった。うっかりカメラロールを見返してしまって、いろんなことを思い出して、切なくなったり泣きたくなったり。誰にでもある状況を詩情豊かに歌ったこの曲は、確かにこの季節にぴったりだ。「カメラソング」が生み出したノスタルジーを引き継いだのは、やはり11月を舞台にした「おやすみシュガー」。天国に旅立ったファンに向けて書かれたメロディと歌詞を感情剥き出しで歌い上げる佐々木。感情があちこち動いて忙しい。
落語の登場人物はみんな増子さん(怒髪天の増子直純)みたいだねと昇羊に話したことや、バイト時代、昇羊が何度断られても春風亭の門を叩いたことに再び触れ、「彼にとってはその方(師匠の春風亭昇太)がオヤドリだったわけですよね。僕はもっと前から自分のオヤドリを見つけていて。
今からその曲をやります」と披露したのは、スピッツの「俺の赤い星」。草野マサムネが作詞、田村明浩が作曲を手がけたこの曲を佐々木は、ブルース濃度高めのアレンジと歌唱でカバー。知る人ぞ知る名曲だが、完全に佐々木の血肉になっていることがわかる。11月10日に恵比寿ザ・ガーデンホールで行われたイベント『THE BASS DAY 10th Anniversary Groove-Method LIVE』で田村明浩と佐々木のコラボによる「俺の赤い星」が演奏されたのだが、この曲をここまで激しく、ここまで繊細に歌えるのは佐々木だけだろう。
ガットギターに持ち替え、高座の端に座って(“座って大丈夫ですか?”とスタッフに確認する律儀な佐々木であった)「Fly Me To The Moon」を囁くように歌う。そのまま佐々木のソロ曲「Snowy Snowy Day, YA!」とマッシュアップ。2019年リリースの2ndソロアルバム『RAINBOW PIZZA』に収録された曲なのだが、時空を超えて音楽と音楽がつながる感覚が心地いい。
浅草にはいろんな人がいて、「ここに来るとなんでもいいか」って気になる。
「みなさんに“こうしろ”ってことは言わないけど、いいんじゃない? 違っても、という曲をやります」とソロ曲「大脱走/The Great Escape」へ。《君を君たらしめるのは場所じゃないジャンルじゃない役職じゃない》という歌詞には、今もっとも大事なメッセージがしっかりと含まれていた。
ここからはa flood of circleの最新アルバム『夜空に架かる虹』の楽曲が放たれた。「マイ・モーターサイクル・ダイアリーズ」では“今なら少しわかる。あのとき昇羊くんが諦めなかった意味が”というフレーズが差し込まれる。さらに渾身のロックバラード「ルカの思い出」も。ギターの弦を切りながら、美しくも激しいメロディを響かせる佐々木。これまでの“雷よ静かに轟け”のなかでも指折りの名シーンだったと思う。
「伝説の夜を君と」を歌い上げた後、「今日は来てくれてありがとう。みんな元気で。元気でいてくれないと武道館できないからさ。九段下で会おう」と笑顔で語りかけ、「夜空に架かる虹」。最後に《5月6日武道館/目を開けて夢を見ている》というフレーズを手渡し、佐々木は舞台を後にした。
鳴り止まない手拍子に導かれて再び登場した佐々木は、なぜか着物姿。舞台に正座し、丁寧に頭を下げる姿は落語家のよう。「“本革亭わすれのすけ”です(笑)」と挨拶し、昇羊が出囃子にした「ILOVE YOU」を歌う。客席からは手拍子と合唱が起き、このイベントでは珍しい(?)一体感が生まれた。演奏中に帯が落ちるほどの熱演も心に残った。
最後に昇羊もステージへ。「こんな友達がいるって自慢したかったんだよね。真打になったらまたやりましょう」という佐々木の言葉に大きな拍手が送られた。
今日もいいもの見させてもらったなと浅草駅に向かう。気持ちはもちろん“うどん”だったのが、適当な店が見つからず、駅前で餃子とビールでひとり打ち上げ。次回の“雷よ静かに轟け”は2026年3月。5月にはa flood of circleの武道館がある。その瞬間はおそらくアッという間にくるはず。そのときまでみなさんお元気で。浅草、そして九段下で会いましょう。
<公演概要>
佐々木亮介弾き語り興行 “雷よ静かに轟け”第十一夜
11月23日(日) 東京・浅草フランス座演芸場東洋館