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髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”

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髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”


「愛を渇望する私たちのいま・ここの物語」――宣伝ビジュアルに添えられたこのコピーが、強く印象に残る。イプセンの名作『ヘッダ・ガブラー』を原案に、山本卓卓が現代日本の芸能界を舞台に描き出す本作。音楽を曽我部恵一(サニーデイ・サービス)が担当することも話題だが、髙木雄也が演じるロックスター・ジン、黒羽麻璃央が演じるエート、そして蓮佛美沙子が演じるショウコは、それぞれどのように“愛”を渇望しているのか。白井晃の演出は、彼らのどんな姿を引き出したのだろうか。3月10日の開幕を前に行われた会見と公開ゲネプロの模様をレポートする。

現代の“生きづらさ”に向き合った物語を創り上げる

髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”

左から)演出の白井晃、出演する黒羽麻璃央、髙木雄也、蓮佛美沙子、脚本の山本卓卓
会見には、脚本・山本卓卓と演出・白井晃、そしてキャストから髙木雄也、黒羽麻璃央、蓮佛美沙子が登壇。宣伝ビジュアルとは異なりブラウンのカラーリングが目を引く長髪で、いかにも“ロックスター”という出で立ちの髙木の風貌が目を引く。

まず山本に、本作を書くにあたって意識したことについて質問が飛ぶ。


「原案の『ヘッダ・ガブラー』は、当時の人たちが見えなかった女性の生きづらさをあぶりだして社会に衝撃を与えた戯曲ですが、僕にとっての見えない存在って何かと思った時に、スターはテレビとかいろいろなところに露出していて目には見えるけど、でもその人たちの心の中とかは見えない。その見えない問題を取り扱ってみたいと思いました」

髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”


執筆にあたっては幾度もディスカッションが繰り返されたようで、その過程を白井が語る。

「ご一緒させていただく作家さんの中では一番若い世代の作家さんですが、『ヘッダ・ガブラー』をどういうふうに翻案していくかということで、いろいろとお話もさせていただきました。どのような形で現在の我々の社会の中に持ち込むか、物語の展開に関してはいろいろとディスカッションさせていただきましたし、メールでも何でも往復書簡のようにしながら進めさせていただきました」
髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”


そうして出来上がった戯曲は、キャストにとっても大いに共感するものとなったようだ。主人公のロックスター、ジン役の髙木は「正直、ほとんど共感できてしまいますね。これが僕の気持ちなんじゃないかとお客様に思われてしまうんじゃないかとちょっと怖いですけど、僕自身はジンとは違う。ジンにはジンなりの誹謗中傷の受け止め方があって、僕自身はまた違う受け止め方になると思う。だから、そこは『違うよ』と観てくださる方には先にお伝えしたい」という。


髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”


ジンと同じ事務所に所属し、実は彼の元恋人であるエート役の黒羽も、本作の印象を「言葉がどんどん刺さってくる」と表現する。「僕が演じるエートという役も台本には生々しい言葉があって、この世界にいる身としては共感できる部分もたくさんありますし、この業界に限らず生きているうえでの生きづらさとか、そういうところにもいろいろリンクしていると思います」

髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”


また蓮佛は、ジンの妻であり所属事務所の社長でもあるという役どころだからこそ、少し違う感想を抱いたようだ。「芸能人を支える側、サポート側としてジンくんたちの世界を見た時に、何度か『自分が今までお世話になってきたスタッフさんたちはこういう気持ちになったことがあるのかな』と考えました。また同じ世界に身を置く者として考えると、ちょっとした誹謗中傷がお褒めの言葉よりも刺さってしまうということはすごくわかる。芸能界ってたぶんすごくキラキラした場所だと見られていると思いますけど、俯瞰して見ると幸せそうに見える人は本当に幸せなのか。実際の内実は全然違うということが、すごく生々しく描かれている作品だと思います」

髙木と黒羽は互いに、そして蓮佛から髙木に対してラブポイントを聞かれて「初めて会った瞬間にめちゃめちゃかっこいいと思った」(髙木→黒羽)、「稽古期間に男としてかっこいい部分を見せていただいて、キュンです」(黒羽→髙木)、「本当にピュアで照れ屋。自分に正直でちゃんと自分を大事にできる人だと、お芝居からも普段のおしゃべりからも感じる」(蓮佛→髙木)と回答するなど、キャスト間でリスペクトがあふれているようだ。

髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”


さらに、この世界に入って今までで一番良かったと思ったこと(髙木「Hey! Say! JUMPのメンバーと同じ時代に同じ事務所に入って出会えてよかった」、黒羽「舞台上で自分の存在意義を実感できる」、蓮佛「素敵な人たちと一緒にお仕事できてこうやってお芝居が創れる、素敵なお仕事」)、Instagramでバズったこと、ロックをやってみた感想や最高なお酒のシチュエーションなどが問われ、髙木は20歳になった時に母親に「30歳になったら一緒に飲もう」とワインをもらったエピソードを紹介。
もちろん30歳で一緒に飲み、新たにもらったワインを今度は40歳になったら一緒に飲むそうだ。

白井からは髙木をはじめキャストはみんな「真摯で真面目」だという発言も。「演劇のこういう創作の現場をしっかりと楽しんで、愛してくれている」と、幾度となく繰り返す稽古の中で、芝居を創り上げていく手応えを感じている様子だった。

そして最後に、髙木は「この『ジン・ロック・ライム』を観た時に、たぶん客席に座っている一人ひとりが違う受け止め方をすると思います。『こういう考え方をする人間がいるんだ』とかいろいろなことを感じ取って、舞台を楽しんで観ていただけたらと思います」と締めくくった。

登場人物の複雑な造形を、魅力的に表現したキャスト陣


会見後に行われたゲネプロを通して見えてきた「愛を渇望する私たち」の姿は、端的に言って、痛々しくも愛おしいものだった。イギリスのアーティスト、バグルスは「ラジオ・スターの悲劇(Video Killed The Radio Star)」(1979年)という楽曲で知られているが、本作はさながら“ロック・スターの悲劇=SNS Killed The Rock Star”。ジンは、ライブで我を失ったことがきっかけでネットをにぎわせてしまうが、作中でのエートの発言からすると、創作のうえでも酷く行き詰っている様子。
おまけに、どう見てもアルコール依存症だ。

髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”


舞台は彼の所属事務所のオフィス。ここを取り仕切っているのは、社長であるジンの妻・ショウコ。ジンの言動に振り回され、おまけに若手マネージャーのトゴシ(小日向星一)はジンにはもう耐えられないと彼のマネージャー業務から外れることを希望したり、エートは大手出版社のライター・コマ(駒木根隆介)の取材を受ける際にショウコの立ち会いを拒み、何かを意図している様子だったりと、ショウコは苦労が絶えないようだ。蓮佛は、そんなショウコを「こんな感じの事務所の女性社長、いるよね」というリアリティーを持たせ、かつ女性として人としての飾らない魅力をも多分に感じさせる造形が素晴らしい。彼女の視点で、彼女に感情移入しつつこの作品を見る観客は多いのではないだろうか。

髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”


彼らのやりとりが進むうちに、そんな彼女とジン、エートの複雑な関係が徐々にわかっていく。エートが事務所の先代社長(ショウコの父)に拾われた頃には、既にジンはショウコと結婚し子どもも生まれていたこと。
しかしジンへの想いを抱いていたエートは、ショウコに隠れてジンと深い仲になっていたこと。その関係は現在は解消し、エートには別のパートナーがいること……。そうした事実が徐々に明かされるなかで、行き詰まっているがゆえのやけっぱちなのか、アルコール依存症のせいなのか、ジンの危なっかしい言動にはショウコやトゴシでなくともハラハラしてしまう。時には気まぐれで、時には暴君で、また時には寂しがり屋の子どものようでもある。けれどショウコやエートが愛さずにはいられないことも、「ですよね」と納得できてしまう。そんなジンを、髙木は体当たりで表現している。白井が「真摯」と表現したように、とてもまっすぐだ。

髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”


そして、ジンに憧れ以上の気持ちを抱いてしまったエートもまた、ショウコ同様に非常に複雑な多面性を持った人物だ。
ミュージシャン同士であるがゆえにか、ある意味ではショウコにも入り込めないようなジンとの絆がある。いわば硬(ジン)と軟(エート)で対照的なふたりだからこそ、うまくいっていたのかもしれない。黒羽の細やかな表現が、エート自身も非常に魅力的な人物であることを伝えてくる。だが現在のジンの姿が歯がゆくて仕方ないのだろうと思われるエートは、彼と衝突。今にも泣きだしそうなエートの、なんともいえない表情が強く心に残る。

髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”


そんな彼らを取り巻く人々として、ショウコの母・アキコ(銀粉蝶)、同じ事務所に所属している新進タレント・ホムラ(永田崇人)、そしてコマやトゴシ、それぞれに存在感が光る。特にホムラはショウコやエートに見せる気づかいなど、緊迫感漂う人間関係の中での癒しポジションであり、彼がその場にいるだけでホッとするものがあった。そうした空気感を変える役どころを、永田もまた的確に表現していて好印象だ。


髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”

髙木雄也主演『ジン・ロック・ライム』開幕 SNS時代の“ロックスターの悲劇”


終盤での、王冠をかぶりながらもまったく王様らしからぬジン。ショウコやエートに愛されながらも、彼らを傷つけるようなことばかりしてしまう彼。ロックスター・ジンの悲劇は、どのような結末を迎えるのだろうか。それはぜひ、劇場で確かめていただきたい。

取材・文:撮影:金井まゆみ

<公演情報>
PARCO PRODUCE 2026 『ジン・ロック・ライム』

作:山本卓卓
演出:白井晃
音楽:曽我部恵一(サニーデイ・サービス)
出演:髙木雄也黒羽麻璃央/蓮佛美沙子/永田崇人駒木根隆介小日向星一銀粉蝶

【東京公演】
2026年3月10日(火)~31日(火)
会場:PARCO劇場

【広島公演】
2026年4月4日(土)・5日(日)
会場:JMSアステールプラザ 大ホール

【愛知公演】
2026年4月11日(土)・12日(日)
会場:東海市芸術劇場 大ホール

【大阪公演】
2026年4月18日(土)・19日(日)
会場:SkyシアターMBS

【福岡公演】
2026年4月25日(土)・26日(日)
会場:J:COM北九州芸術劇場 大ホール

関連リンク
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/jinrocklime/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2563936&afid=P66)

公式サイト:
https://stage.parco.jp/program/jinrocklime

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