BEGIN『お天気祭りツアー』ファイナル公演 祭り気分に浮き立つライブレポート
Photo:Viola Kam[V’z Twinkle]
Text:斉藤貴志Photo:Viola Kam[V’z Twinkle]
1990年のデビューから34周年を迎えたBEGIN。3月から全国26都市を回った『お天気祭りツアー2024』のファイナルがLINE CUBE SHIBUYAで行われた。石垣島で小学校からの同級生だった3人が生んだ、沖縄に根差す数々の名曲を披露しながら、まさに祭り気分に浮き立つライブとなった。
祭りを銘打った今回のツアー。沖縄の宴席では、幕開けにまず1曲という「座開き」の風習があるそうで、比嘉栄昇の息子でバックでドラムを叩く比嘉舜太朗が担った。ギターの弾き語りで自身のバンド・HoRookiesの「結の唄」を披露し、BEGINを呼び込む。
会場の拍手と指笛で迎えられた3人。三線を持った比嘉栄昇が「ただいま、渋谷。
帰ってまいりました」と挨拶して、1年4カ月ぶりのLINE CUBE SHIBUYAの1曲目は「がんばれ節」。手拍子に乗り、島袋優はギター、上地等はアコーディオンを奏でて、初っ端から沖縄民謡が全開だ。3人が順繰りに歌いながら、<がんばれよ~がんばれよ~>と朗々と繰り返され、リズミカルなアンサンブルも心地良い。
「皆さんの知らない曲をやります。随分前に作った曲ですけど、新曲だと思って聴いてください」と続けたのが、カントリー調の「我ったータイムは八重山タイム」。比嘉の鼻笛と島袋のバンジョーが軽快で、時間にアバウトな島人の気質がコミカルに歌われた。
盛り上がりつつ、観客が座ったままなのも初見には新鮮。見渡せば幅広い年齢層が、音楽そのものをゆったり楽しんでいるようだ。
それもまた八重山タイムか。
「皆さんが知らないオリオンビールの歌もあるんです」との振りから、「アンマー我慢のオリオンビール」へ。この沖縄ブランドをフィーチャーした曲では「オジー自慢のオリオンビール」が知られているが、こちらはお母さんの生活の中での一杯のお楽しみが描かれている。客席でもオリオンビールの提灯が振られていた。
客席に笑いが起こり、<グー ジョッキ プハァ>を繰り返して締めた。
比嘉のトークも楽しく、かつ丁寧。「もう一曲、皆さんの知らない歌をやります」と話して、「知らない歌」を続ける説明も加える。
「来年やったら怒られるだろうなって(笑)。35周年はライブで一軍と呼ばれてるような曲をやるだろうなと。ツアーのとき、毎回全部の曲を並べて聴いて『この曲は今回もセットリストに入らずダメでした』となる作業は、一番辛いかもしれない(笑)」
そして、奥の奥のほうにあった曲のひとつという「でーじたらん」について語る。15年ほど前、テレビが地デジ化する中で「デジタル社会を島唄で斬る」と作ったとのこと。“デジタル”を無理やり沖縄方言にすると“でーじ=とても”で“とても足りてる”となる。でも、それだけでいいのか?
比嘉栄昇
その頃にデジタル一眼レフカメラを買って、写真をたくさん撮って年賀状を作ろうしたら、印刷すると端が切れたりでうまくいかない。
ハガキを半分くらいダメにした、とのエピソードも交えながら、サビの<バッチャナイがズンムずんむでぃプリントぽいんポイン>がシャッター音、ズーム、プリンターのインクを買いに行って貯まるポイントだと明かした。
長く引用させてもらったが、沖縄での生活に根差したBEGINの歌が生まれる背景が垣間見えて、おもしろかった。その「でーじたらん」の曲中ではコール&レスポンスを求めて、また途中で演奏を止めながら、比嘉が「三橋美智也先生に学んだ」という民謡ルーツの島唄の歌唱法の真髄も話していた。
島袋優
三線の沖縄らしい旋律に乗り、にぎやかに盛り上げたあと、「皆さんが知らない曲を続ける気の重さといったらないんですよ」と笑ってもいたが、初めて聴いても良い曲は良いと感じさせる序盤だった。BEGINのステージ自体が、ライブには新参でもスッと祭りに引き込むように楽しませてくれる。そのうえで「これから、知ってる曲コーナー、行ってみたいと思います」と告げる。<明日は内地に行くんでしょ>と島を巣立つ少女に語り掛ける「パーマ屋ゆんた」は、「ゆいさー」「さーさー」と合いの手も入り、胸に染みわたる。
知ってる曲ということでは極めつけ、島袋が作曲してauのCMから紅白歌合戦でも桐谷健太によって歌われた「海の声」は、島袋の大人みのある歌声が会場いっぱいに響く。
サビの<空の声が聞きたくて>の3人の折り重なるコーラスも美しい。
上地等
3人は小、中、高と石垣島の同級生。上地は小学生のときに集会で歌って有名になった。島袋は顔を塗ってシャネルズを歌ってウケた。比嘉は実家の建設会社を継いでユンボの運転手が夢だったが、じゃんけんで負けてバンドのボーカルをやったら一番うまかった……といった逸話をMCで挟みつつ(今さらながら、島の同学年にプロになる才能が3人も生まれたのは奇跡か)、中盤では「皆さんが聴きたい曲をやりたいんです」とリクエストを募る。
客席からいろいろな曲名が挙がった中、メンバー同士で「やれる?」などと言い合いながら即興で、しんみりした「声のおまもりください」に「ミーファイユー」、2004年の『熱闘甲子園』テーマ曲でエモい「誓い」、そして、沖縄色(食)満載でたたみ込む「オバー自慢の爆弾鍋」と、一番ずつ奏でていった。
曲の途中でトークが入ることも含め、観客との掛け合いの中で繰り広げられるステージは親近感を醸し出す。3人の人柄といぶし銀の演奏技術もあってのものだが、ホールコンサートでこのノリとは。
比嘉は「石垣島にある大川公民館だと思って」とも言っていた。
後半は耳に馴染みの名曲を連発。ファンのみならず沖縄中で愛されていると聞く「島人ぬ宝」は、比嘉の温かい歌声に青い空と海が浮かぶ。観客は「スイ、スイ、スイサーサー」の掛け声に合わせて両手を上げて、横乗りで揺れていた。
「竹富島で会いましょう」では観客が立ち上がって、手拍子を送る。これも三線が響き、のんびりしながらにぎにぎしい島唄。ティーリ、ティーリ、ティーリイヤサッサーとエイサーを踊る人もいた。何とも良い気分。
さらに「オジー自慢のオリオンビール」では提灯がまた揺れて、さらに沸き立つ。沖縄言葉と<野球応援甲子園><夜から応援しておくさ>などと生活感が溢れる歌に、LINE CUBE SHIBUYAが那覇のビアガーデンになったよう。
ラスサビ前の歌詞はアドリブで歌う。そこからまた比嘉の曲中MCが始まり、「この場所に集まるときは、関係なく楽しんでください」と歌に戻ると、<あっり乾杯>を連呼。最後は会場一体の乾杯ポーズで締めた。
そのまま島袋のギターストロークから「かりゆしの夜」になだれ込む。比嘉は力強くも滑らかに歌って、「イヤササ」「イヤササ」、「ティーリ」「シターリ」の掛け合いで華やぐ。最後はテンポアップしていき、上地はエイサーの手振りを見せる。<かりゆしの夜よ~>のロングトーンから、上地がジャンプしてキメた。
ああ、沖縄に行きたい!たぶんにわかの想いだが、このライブで島唄を浴び続けて、不意にそんな気持ちが湧いてきた。
ラストは「三線の花」。ステージの背景が星いっぱいの夜空に。オジーの形見の三線に蘇る思い出が、ノスタルジックなメロディで綴られていく。大事に紡ぐようなボーカルと演奏。<秋に泣き冬に耐え春に咲く三線の花>と悠久を感じて、心洗われるフィナーレとなった。
アンコールの拍手に応え、すぐ比嘉がひとりで再びステージに。肩に掛けたトートバッグからグッズを取り出して紹介。今回のツアーでは、ずっとやらないと言い張っていた同期(機械と生演奏で一緒に音を出す)をやることにしたものの、「2回でやめました(笑)」との裏話も。この日の自由なライブを観ていたら、いかにもな話だ。
「アンコールという名の30分間のメドレーをやります」と告げて、用意されていたのは「マルシャショーラ」のコーナー。サンバの起源のリズムの「マルシャ」と八重山諸島の言葉で“しようよ”を意味する「ショーラ」を掛け合わせ、恒例になっている。
島袋と上地、それに着ぐるみのマルシャンも法被にねじり鉢巻きでステージに入ってくる。「ビートに乗ってリズムの波を船のように漕いで、30分のクルージングを楽しみたいと思います」と、「わっしょい!わっしょい!」の掛け声から「東京音頭」でスタート。マルシャンが踊り、「炭坑節」に美空ひばりの「お祭りマンボ」と華やかなアレンジで続けていく。小林旭の「自動車ショー歌」はオリジナルを彷彿させる歌いっぷりで、比嘉がひときわ楽しげだ。
さらに都はるみの「好きになった人」と昭和歌謡の大御所のカバーを続けてから、島袋のボーカルでサザンオールスターズの「勝手にシンドバッド」、上地のボーカルでゴダイゴの「銀河鉄道999」、ゲストのケンジロウ(Y.A.B)のボーカルでRCサクセションの「雨あがりの夜空に」と、J-ROCKのスタンダードへ。
ノリノリのまま、BEGINのオリジナル曲「国道508号線」、そして「笑顔のまんま」と繋げていった。
「最後まで辿り着きました。一緒に歌いましょう!」とオーラスで披露したのは「涙そうそう」。言わずと知れた夏川りみのカバーが大ヒットした名曲。上地のアコーディオンが安らぎ感を生み、比嘉がウォッシュボードを叩きながら伸びやかに歌い上げた。
大きな拍手を浴びている最中に、ステージ左右から「祝3/22大阪城ホール3/30日本武道館」との垂れ幕が落ちる。来年「さにしゃんサンゴSHOW!!」のタイトルで行う35周年記念公演の発表。
「俺たちはサンゴ礁みたいなバンドなんです。皆さんがお魚さんで遊びに来てくれて。たまに集まって、ひと時を過ごしましょうよ。動いているみたいだけど、本当はずっと同じところにいる。大きいところでBEGINがやるんじゃなくて、仲間が集う。遊びに来る。そんなピクニック気分で、35周年のお祝いをやれたらいいなと思います」
比嘉がそう語り、「また会いましょう。こうやって集えることを心待ちにしています」と、3人は手を振りながらステージを後にしていった。楽しかった夜が終わるのが名残り惜しくてならなかった。
<公演情報>
BEGIN『お天気祭りツアー2024』
2024年6月22日(土) 東京・LINE CUBE SHIBUYA