2023年11月14日 11:00
さとうほなみらが体現する、葛藤を抱えた家族の物語 □字ック新作公演『剥愛』開幕
そんなある日、父の下で働きたいという男(山中聡)がやってきたが……。
まず強い印象を与えたのは、土岐研一による舞台美術の見事さだ。2階建てで、1階は皆が出入りする作業場。上手側の流しや冷蔵庫、下手側のソファーや事務机、ストーブなど、リアリティにあふれている。ゆるっとした雑談から、血のつながった家族だからこそ容赦ない物言いをしてしまう緊迫感のあるやりとりまで、菜月たちはこの場でさまざまな会話を繰り広げる。そして階段を上がった2階は菜月の部屋。ちなみに、囲み取材の際にさとうが「かわいい」と言っていたタヌキの剥製は下手側にある。他にも鹿や鳥などさまざまな剥製が置かれ、ある意味動物たちが菜月たち家族の有り様を目撃しているかのようでもある。
菜月たちの本音や葛藤、過去に起きた出来事が、皮を剥ぎ取るかのように少しずつ明らかになっていく。かけ合いのテンポや、菜月の回想場面での兼役の巧みさなど、出演者のアンサンブルの小気味よさも印象的。中でも菜月を演じるさとうは、囲み取材で瀬戸や山中が彼女を「大胆さもありつつすごく繊細」と語っていたように、叩きつけるような荒々しさとナイーブさが同居していた。