新国立劇場《蝶々夫人》"理想の蝶々さん"小林厚子がいよいよ登場
2005年の初演から繰り返し上演されている定評ある舞台だ。
「あの舞台で演じる時はいつも、あたたかさに包まれているのを感じるんです」
同劇場の「高校生のための鑑賞教室」でもこのプロダクションで演じて、その世界観を熟知する彼女。舞台装置(美術:島次郎)はとてもシンプルだ。障子と一本の柱だけで表現された蝶々さんの家の背後に、星条旗に向かって伸びる階段。蝶々さんが生きている小さな世界をアメリカが見下ろしているようなイメージ。どちらかといえばクールな印象を受けるが、実際に舞台に立つ人の感覚は「あたたかさ」なのだ。
「以前、共演者ともすごくあたたかい感じがするよねと話したことがあるのですが、あの舞台は“胎内”をイメージしていると伺い、なるほどと思いました。装置からも光からも、何かに抱かれている中でドラマが進行している感じを受けます」
演出の栗山民也はこのプロダクション初演時のインタビューで、女の運命、女の物語という意味から、舞台を「胎内」と考えたことを述べている。
生命を包み込むもの。それゆえに舞台は丸みを帯びており、その円形を切り裂いた果てに星条旗が見えるという構造だ(会報誌『The Atre』2005年2月号)。