新国立劇場《蝶々夫人》"理想の蝶々さん"小林厚子がいよいよ登場
そしてその胎内の中では、ふたりの「愛」も守られている。栗山はこう述べる。
「……たしかにピンカートンは欲望の対象として蝶々さんをおもちゃだと思ったかもしれない。でもあの一瞬でも、彼女に美を発見し、愛し、至福の瞬間が絶対あったはずだと思う。それがまた一瞬にしてどす黒いものに堕ちてゆく。人間のドラマというものはそういうものではないかと思うのです」(公演プログラム「Production Note」より)
蝶々さんはもちろん、ピンカートンも、刹那的にかもしれないが、日本の少女をたしかに愛したはずだ、と。直に言葉で説明することがなくても、そんな意図を敏感に嗅ぎ取った演者たちが、「あたたかい」と感じるのだろう。舞台って面白い。

新国立劇場「蝶々夫人」高校生のためのオペラ鑑賞教室公演より撮影:寺司正彦
しばしば話題にされるように、オペラの中の蝶々さんは15~18歳。まだ少女と言える年齢だが、演じるソプラノ歌手に要求されるのはドラマティックなリリコ・スピントだ。そのギャップを、どうバランスをとって演じるかが難しいと言われる。
「蝶々さんは18歳で自ら死を選んでしまうわけですが、“生ききった”人であると思うんです。