「ふっかーつ!」KANA-BOON 再始動ワンマン@渋谷WWW X【ライブレポート】
(Photo:マスダカイ)
Text:小川智宏Photo:マスダカイ
メンバー脱退を受けて昨年12月にライブ活動を休止してから5カ月あまり。KANA-BOONが帰ってきた。5月14日にメンバーの地元である大阪・梅田CLUB QUATTRO、そして5月17日に東京・渋谷WWW Xで開催された復活ワンマンのタイトルは『SUPER PHOENIX』と名付けられた。さまざまな出来事を経験し、そのたびに蘇ってきたKANA-BOONはまさにフェニックス=不死鳥のよう。艱難辛苦を乗り越え、そのたびにますますタフになる彼らの最新型を、東京公演の会場で目撃した。
谷口鮪(Vo/Gt)
SEとともに登場した谷口鮪(Vo/Gt)とマーシーこと遠藤昌巳(Ba)が「ふっかーつ!」と叫んで歓声を受ける。そしてサポートメンバーであるヨコイタカユキ(Gt)と関優梨子(Ds)を紹介すると、「よっしゃ、始めるか!」とギターをかき鳴らし始めた。1曲目は「シルエット」。
どんなときでもバンド自身を鼓舞し、前に進めてきた曲だ。前のめりで分厚いサウンドがけたたましく鳴り響くなか、〈なにもないよ、笑えるさ〉と歌った谷口がすかさず叫ぶ。「泣くなよ!」。正直筆者は「シルエット」のイントロが鳴った時点で泣きそうになっていたのだが、そんなセンチメントをバンドのパワーと音を鳴らす喜びで吹き飛ばすように、ライブはどんどんテンションを上げていった。
遠藤昌巳(Ba)
オーディエンスみんなでカウントしてスタートした「1.2. step to you」、初っ端からいきなりマーシーとヨコイの見せ場が繰り広げられた「彷徨う日々とファンファーレ」。タイトなビートを叩き出しながら時折はさむコーラスが楽曲に新鮮な色を加えていく関のプレイも含め、正式メンバー+サポートという体制ではあるものの、紛れもなく「バンド」としてのパワーとコンビネーションが、この新しいKANA-BOONをゴリゴリと前進させているのがわかる。
MCでは谷口がスタジオに入るたびに4人で飲みに行った(結果、ちょっと太った)ことを明かしていたが、そうした積み重ねがステージから放たれる音にちゃんと出ている。谷口は「楽しいですね、やっぱり!」と満面の笑みだが、それは単にお客さんの前で音を鳴らせるということに加え、こうして「バンド」で戻ってこられたことに対する手応えもあるからなのかもしれない。
その後もライブはアグレッシブかつハイテンションに進んでいった。激しい照明のなかソリッドな音を響かせた「タイムアウト」、そして谷口がハンドマイクで踊りながら歌う「FLYERS」。マーシーが「もっといけますよね!」とオーディエンスを煽って突入した「フルドライブ」では谷口のギターが鳴らなくなるというトラブルも発生したのだが、「でも関係ない!」と急遽ハンドマイクで歌ってみせる。タフだ。もちろんオーディエンスの歌声も、そうやってトラブルを乗り越えていくバンドを全力でサポートし、場内の一体感はさらに高まっていった。
そんな怒涛の展開を経て、谷口がぽろんとギターを鳴らすと、途端に「おおー!」と歓声が起きる。「お腹すいたね〜」というとぼけたMCから入っていくのは、もちろん「チャーハンの歌」としておなじみ「ないものねだり」だ。待ってましたとばかりにオーディエンスが手拍子で応える。
「久しぶりに一緒に歌うか!」という声からコール&レスポンスも見事に決まり、「最高です、ありがとうございます!」と谷口は破顔してみせた。
確かに谷口の言葉どおり、「最高」である。何がって、「おかえり」「ただいま」の空気を超えたパフォーマンスを、この日のKANA-BOONは見せつけてくれているからだ。演奏に込められたエネルギー、4人の音がガチっと組み合わさったときの爆発力は、この休止期間を経て間違いなくバージョンアップしている。サイヤ人みたいにさらに強くなって、KANA-BOONは帰ってきた。そのことがとにかくうれしいし、頼もしいのだ。
「ライブのない日々はマジで退屈でした」と谷口は言う。マーシーとふたりで旅行したり、山登りしたり、楽しいことはたくさんあったが、それでもどこか物足りなかった、と。
「ライブがないと人生楽しくないってはっきりわかった」。その物足りなさをぶっ壊し、人生に絶対に必要なものを取り戻すために彼らはステージに帰ってきた。その強い意思が音を背骨のように貫いている。
KANA-BOONにとって、谷口にとっての音楽の存在意義を歌った「MUSiC」、そしてバンドの最初期から演奏され続けてきた「結晶星」と、ファンにとってもバンド自身にとっても大切な楽曲が立て続けに披露される。「結晶星」の〈それでいいんだよ〉という歌詞を歌った谷口が笑みを浮かべながら頷いてみせる。そんな仕草に、すべてを受け止めながらバンドを続けていく彼の思いの大きさが見えたような気がした。
そして「よし!」と気合を入れ直すと、鳴らされたのは「さくらのうた」。切ない情景が、谷口が経験してきた数々の別れとオーバーラップして胸を締め付ける。
「スタンドバイミー」もそうだ。〈僕はやれる君はやれる/飛び出せ世界〉。こうしてあらゆる曲がそのときのバンドのメッセージになるのは、谷口がそれだけそのときどきの自分に正直に曲を作ってきたからだろう。苦しいときにも、悲しいときにも、うれしいときや楽しいときにも、きっと彼は彼自身の曲たちに支えられ、救われてきたに違いないと思う。この日もKANA-BOONの曲たちは、オーディエンスを祝福し、バンドを励まし、谷口自身の背中をぐいぐいと押していた。
ライブの終盤、谷口は今回のメンバー脱退に至った心境を告白し始めた。4人で始めたKANA-BOONがずっと続いていくことを願っていたこと。でもその夢は残念ながら叶わなかったこと。
いつの間にかオリジナルメンバーは谷口ただひとりになってしまったが、それでも「KANA-BOON」の名前を背負う意味は、KANA-BOONがすでに「自分だけのものではない」からだ。メンバー、ファン、スタッフ、たくさんの人の思いを背負って進んでいく覚悟。「俺の人生はボコボコの道だけど、舗装された道を歩いても面白くない。あんな人生でも大丈夫なんだって思ってもらえれば」という言葉に続いて、谷口は「俺が率いるKANA-BOONを見ていてください」と言った。
筆者の記憶が正しければ、彼はこれまで「俺が率いる」という言い方をしてはこなかったはずだ。そういう言い方は、きっと彼とKANA-BOONのバンド観にはなかった。でもこれからは違う。自分が背負っているものをちゃんと示すために、谷口はあえてそうした言い方をしたのかもしれないと思った。
〈何度も何度も何度も何度も/立ち上がり歩き出す〉と歌う「フカ」と、大変な時期にバンドを支え続けてきた「まっさら」で本編を終えると、アンコールではヨコイのギターソロも鮮やかに決まった「スターマーカー」、そして会場の全員でタオルを回した「ソングオブザデッド」を披露。そして「これからも長い旅、どうぞお付き合いください!」という谷口の言葉とともに演奏された最後の曲は「ネリネ」だった。軽やかなリズムと美しいメロディが、ここからまた始まっていく旅を彩る。
かくしてKANA-BOONという「スーパーフェニックス」は復活を遂げた。これからも人生いろいろあるだろうけど、それでもKANA-BOONは歩き続けていくだろう。新曲もめちゃくちゃ作っているとのことなので、まずはその新曲を聴ける日が来るのを楽しみにしている。
<公演情報>
KANA-BOON ONE-MAN LIVE "SUPER PHOENIX"
2024年5月17日(金) 渋谷WWW X