デビュー20周年、一夜限りのライブで響かせた、馬の骨の普遍性といい音楽の破壊【オフィシャルレポ―ト】
Photo:スエヨシリョウタ
昨年9月に馬の骨が20周年を迎えること、そこに向けたベスト盤の企画がスタッフからもたらされたのは4月。その時点でライブの予定は入っておらず、会場探しは実際に動き始めてからだったらしい。「だから20周年とか、16年ぶりのライブとか、大仰に構えないで」と言われても、年末の日曜日・12月28日にたまたまSHIBUYA WWWXが空いていて、多忙極まりないミュージシャンたちもたまたまこの日だったら大丈夫と言ってくれたことで実現した一夜限りのライブ、瞬く間に完売したチケット、満員御礼のフロアの熱量は開演前から嫌が応にもめちゃくちゃ高い。しかも映画『大いなる西部』の「Main Title」をバックに馬の骨が登場するだなんて、オープニングからドラマチック過ぎます。
バンドメンバーひとり一人と顔を合わせ、掲げた右手が始まりの合図。軽快なギターリフに歓声が上がり、5人のアンサンブルが1曲目の「My Stove’s On Fire」(ロバート・レスター・フォルサムのカバー)を形作っていく。続く「Fine Play」、「Someday, Somewhere, Somebody」まではベストアルバム未収録曲。そもそも1stアルバムをカバーで始めたソロプロジェクトですもんねと納得しつつ、予想も期待も豪快に超えていくセットリストに驚喜しつつ。
のんに楽曲提供したロックでブギーな「Oh! Oh! Oh!」のセルフカバーでは、のん直伝の振り付けで楽しむ強者もいて。
楽曲が求めるフレーズを丁寧に積み重ねることで、強靭なグルーヴ、美しいサウンド、豊かな音像を生み出す。それぞれがそれぞれの楽器と歌声でやるべきことを貫けば、「PING&PONG」、「クモと蝶」、「Chewing Gum On The Street」とライブが進むごとに目の前の景色はガラリと変わる。かと思えば、数日遅れのクリスマスギフト「Snow」、「Carol」からの「だれかの詩」、「季節の最後に」など、季節が巡り、曲たちは自然と連なり、ライブを通してひとつの物語を描いていくようにも感じるから不思議だ。松江潤(g)、沖山優司(b)、小松シゲル(ds)、渡辺シュンスケ(key)。センスとスキルとユーモアを兼ね備えたメンバーは、素晴らしく芸達者であると同時に、これしかできないという強さも持ち合わせていて。それがしなやか、かつ、大胆に発揮されたのが「Chewing Gum On The Street」。松江が全身から放つエモーショナルなギターソロと、その裏で繰り広げられる4人の静かな駆け引きは実にスリリングで、圧倒的だった。
どれほど圧倒的かと言うと、「めっちゃかっこいいギターを弾いてくれた松江潤!」って、堀込泰行が思わずメンバー紹介を前倒しするくらい。そしてそのことをすっかり忘れて、名曲「燃え殻」のふくよかな余韻を味わう間もなく予定外のMCを挟み込み、慌ててもう一度メンバー紹介を始めようとしちゃうくらい(笑)。
松江潤(g)
小松シゲル(ds)
馬の骨にとって、いや、堀込泰行というミュージシャンにとって、ユーモアはけっこう大事な要素だ。「リハが終わった途端、おもむろにアンディ・ウォーホルが現れた。実はベースの沖山さんでしたー」全オーディエンスがずっと気になっていたこの日の沖山優司の出で立ちを、さらりと紹介に織り込む。「最近、MCで調子を落とすっていうことが後半の課題となっていて。今日は思いつかない限りは特には……」とか言いながら、次のMCで毎年恒例の年越しイベント、テレビ東京の『ジルベスターコンサート』でここぞばかりに仮装する奏者と重ね合わせ、「その日まで我慢できなかったんですね。わかりますよ、お気持ちは。
ひとりジルベスターコンサート」と再び沖山を紹介してみたりもする。こじつけみたいだけど、この正しい・正しくない、いい・悪いではない独特のユーモア、着地点が見えぬ思考回路こそが、馬の骨(=堀込泰行)の普遍性というか。単にいい曲を歌うアーティストではなく、時代も世代も超えて心躍らせる面白い音楽にしているのだと思う。
沖山優司(b)
渡辺シュンスケ(key)
エンディングに向けて、今日イチの演奏、今日イチのボーカル、今日イチの盛り上がりを更新し続けた「枯れない泉」、「最低速度を守れ!」、「Red Light, Blue Light, Yellow Light」は、“多少ダサくても本当の想いを歌う”というコンセプトで制作された1stアルバムの収録曲で、現在の堀込泰行のライブでもお馴染みラインナップ。そして「馬の骨の中で一番気に入ってる曲」と言って、今日イチシンプルな構成で手渡したラストナンバー「River」。おおらかなメロディから哀愁と希望がじわじわと溢れ出し、心も体も満たしていく。アンコールを待つ間、なぜだか夢のかけらを片手に連れだって行った「River」の〈僕とお前〉が、16年振りの新曲「Let’s get crazy」の〈僕ら〉とオーバーラップして愕然とした。ああ、膨らむ宇宙の中で、僕らは相も変わらず小さな窓の小さな声に一喜一憂しているんだな。
堀込泰行(vo / g)
悶絶もんでカッチョよすぎたアンコールの入りについても書かせていただきたい。PA内田直之によってダブ処理されたSE「インタールード」が、よりハードに、よりクールに、超絶ホットに、バンドによる生音で体現された瞬間の高揚感たるや!堀込泰行の渾身の雄叫びと、呼応したオーディエンスの歓喜は今でも目に焼き付いている。
ベストアルバムの制作に関して、人気曲と自身のお気に入り曲と完成度の高い曲に絞ったことで、馬の骨に対する20年来の不完全燃焼感が成仏できたと話していたけれど、収録しなかった曲たちも、今日のライブ=とびきりのメンバーによる最新のアレンジ、最っ高のパフォーマンスで成仏させられたんじゃないだろうか。アンコールの並びも「少しでいいのさ」、「Let’s get crazy」、「To Be Continued」だったしなぁ。なんて考えれば考えるほどに、別れの挨拶「またお会いしましょう、いつか」の「いつか」が、そんなに遠い未来でないことを切に切に願ってしまうわけです。
Text:山本祥子Photo:スエヨシリョウタ
<公演概要>
「馬の骨」20周年記念一夜限りのスペシャルライブ
『Uma No Hone LIVE 2025 〜Back Again!!!!!〜』
2025年12月28日
東京・SHIBUYA WWWX
メンバー: 堀込泰行(vo / g)、松江潤(g)、沖山優司(b)、小松シゲル(ds)、渡辺シュンスケ(key)