BBHF、約13カ月ぶりのワンマンライブ 『MELT』で見せた新たな決意 『MELT』から『ATOM』へ
Photo:SHUN ITABA
Text:吉羽さおりPhoto:SHUN ITABA
BBHF約13カ月ぶりのワンマンライブ『BBHF“MELT” 』が7月10日、渋谷WWWで開催された。この日の都内は開場時間あたりから激しい雷雨に見舞われたが、観客で埋まった会場は熱気と歓喜で満ちた雰囲気。
久方ぶりのワンマンライブに、1曲目「やめちゃる」の歪んだギターが場内に響きわたると歓声とともにフロアからシンガロングが起きた。尾崎雄貴(vo/g)、DAIKI(g)、尾崎和樹(ds)に加え、サポートで岡崎真輝(g/Galileo Galilei)とYohey(b/Newspeak)という布陣はもはや鉄壁と言っていいバンド感となっているが、それにも増して今回のライブやバンドが放つムードは高揚感に溢れ、同時にフレンドリーで、ライブの頭からその場の空気が柔らかにほどけていく感覚を帯びていた。
ライブ・タイトル“MELT”というワードがもたらす印象もあるかとは思うが、この日のBBHFとそのバンド・アンサンブルは軽やかに愛を放ち、また観客が表現する愛情もバンドが全身で享受する、その溶け合いが甘美な時間を生んでいた。
「ホームラン」演奏の後、「みんな、元気にしてましたか」と挨拶をした尾崎雄貴。この日の天気に触れて、これもまたBBHFらしいと観客を和ませながら、続くMCで雄貴は、じつはこのライブでBBHFを終えようと思っていたことを明かした。それは自分自身のなかで、BBHFの存在が大きくなってしまったからだという。
固唾を呑んで話を聞く観客に、いろいろな考えを経て今、「BBHFは不滅」だという思いに至ったことを雄貴が告げると、会場には安堵の拍手が起きた。
尾崎雄貴(vo/g)
「ここまで話したからには、絶対やめないので」とフロアに向けられた彼の柔らかな表情に、観客は秘密を分けあったような思いがしただろう。続く「メガフォン」で観客はサビの“ハーフタイム!”の掛け声を大きく響かせ、「花のように」のリズミカルなビートにハンドクラップする。さらに重みのあるドラミングからの「どうなるのかな」、そしてフィジカルなアンサンブルが観客を踊らせる「愛を感じればいい」は、今のバンドが放つ開放感と多幸感に満ちたサウンドを全身で浴びるようにフロアが大きく揺れた。
DAIKI(g)
中盤ではメンバーが大好きなThe Killersの「Mr.Brightside」の日本語カバーが披露された。この曲は、BBHFのファンであるとある海外の方の結婚式に呼ばれたときに演奏した曲だったそうだが、そこで映画のワンシーンかMaroon5のMVか(「Sugar」)というくらい大盛り上がりで大合唱となったという(日本語で歌うBBHFに対して観客は英語での大合唱となったようだが)。そんな話を聞いたらこの日の観客も負けてはいられないわけで、結果「素晴らしい盛り上がりでした。あの夜を超えた!」(雄貴)と、会場内はボルテージも多幸感もマックスとなった。
ここから後半へと折り返していったライブだが、続く「死神」からはその音のベクトルをグッと心の内側に向けていくエモーショナルさで、またアンサンブルの密度を濃くしていく。抑えた表現から、爆ぜるようなエネルギーで鼓動を響かせる「Torch」、そこに続いた「Here Comes The Icy Draugr」では、ニヒリスティックななかにも美しい輝きを求める泥臭さが、咆哮のようなギターサウンドで奏でられた。感情の迷宮に彷徨いながらも一歩、一歩、歩みを進めながら浮上していく「涙の階段」へという流れが、このステージでは健やかな風を運んでくる感覚だ。
尾崎和樹(ds)
MCは予定していなかったが、ここでDAIKIや和樹からもこの日を迎え、足を運んでくれた観客への感謝の言葉が伝えられ、また雄貴は最初の方でおかしなことを口走ったがBBHFは仲良しこよしなので、と語り、またサポートを務めてくれている岡崎やYoheyという頼もしい仲間をあらためて紹介。そしてラストの曲として「サラブレッド」を披露した。前を向いて進んでいく軽やかな疾走感、その眩しさが観客の間を縫うように駆け抜けていく。今のBBHFの目線そのままに、再びワクワクするような思いと自由さとを胸に走っていく。そんなエンディングとなった。
やまない歓声に迎えられたアンコールでは、The1975「Chocolate」のカバー(一夜で2曲のカバーを披露するのは初)を含め3曲を披露したBBHF。そして2026年4月25日に渋谷WWW Xでのワンマンライブ『BBHF “ATOM” 』を開催することを発表した。雄貴は改めて最初のMCで語った真意についても話をした。自身のなかでBBHFが大きく、大事な存在となっていくにつれ曲を作る上でのハードルが上がっていったこと。とても大事にしているものだからこそ、ここでやめようかと考えていたが、メンバーや周りの人がそれを引き止めてくれたこと。それで、自分だけの視点から、視野が開けたこともあるのだろう。
雄貴は、今日のライブを機にバンドは変わっていく、今はその過渡期だと語った。“MELT”(溶ける)から“ATOM”(原子)となって、新たな形をなしていく。
この先どう変化があるのか自分たちでもまだわからないと語っていたが、その過程をも楽しみながら、BBHFは進んでいくことをこの“MELT”でのステージで、最高に晴れやかなバンド感で伝えていった一夜。アンコールの最後に演奏した「バックファイア」は、この日はもちろん、ここまで重ねてきた時間をも思い起こさせるように美しくメロウに、そしてまだまだ続いていく夢を語り合うように響いたのは言うまでもない。
<公演情報>
BBHF『MELT』
2025年7月10日 東京・渋谷 WWW