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【レポート】笑いと謎とノスタルジーが絡み合う、爽快なミステリーコメディ『月とシネマ2023』

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【レポート】笑いと謎とノスタルジーが絡み合う、爽快なミステリーコメディ『月とシネマ2023』

撮影:加藤幸広



中井貴一主演、G2作・演出の舞台『月とシネマ2023』が上演中だ。本来なら2021年春、再始動したPARCO劇場のオープニング・シリーズの掉尾を飾るはずだった公演である。当時の取材で、中井が「コロナ禍で人の心が殺伐とすることが怖い。そうさせない、心を動かす何かを作りたい」と語った言葉に深く同意したことを思い出す。しかし舞台は新型コロナウイルスの影響により、開幕直前に無念の全公演中止となった。2年を経て、作品は大幅に改訂されて登場人物が増え、パワーアップして再生。舞台上には中井が目指した、人々の心を温め、繋がりを信じさせてくれる、そんな可笑しく、切なく、優しい世界が広がっていた。

【レポート】笑いと謎とノスタルジーが絡み合う、爽快なミステリーコメディ『月とシネマ2023』

『月とシネマ2023』より、左から)藤原丈一郎(なにわ男子)、中井貴一撮影:加藤幸広
敏腕映画プロデューサーの並木憲次(中井)は、30年以上も絶縁状態にあった父親の訃報を受けて、父が遺した故郷の映画館を訪れる。
映画館を継ぐ意思などない並木は早々に地元の不動産屋・佐々木(金子岳憲)に売却の見積もりを頼むが、ここで長く働く映写技師・黒川(たかお鷹)も、並木の仕事仲間の映画会社宣伝マンでこの映画館の特別会員だという小暮(藤原丈一郎)も大反対。市の職員の瑞帆(清水くるみ)が映画館をメインとした町起こし、その目玉となる映画作りの企画を進めているという。そこに気鋭の映画監督として呼ばれたのは、並木と過去に因縁のある榊(今井朋彦)だった。瑞帆の上司・村上(木下政治)や同僚で婚約者の深野(奥田一平)、謎めいた街金の男・児玉(村杉蝉之介)、そして並木の元妻でフリーライターの万智子(永作博美)と、ひとクセありそうなキャラクターが続々登場。昭和の香り漂う映画館を舞台に、それぞれの思惑がぶつかり合う。

【レポート】笑いと謎とノスタルジーが絡み合う、爽快なミステリーコメディ『月とシネマ2023』

『月とシネマ2023』より、左から)永作博美、中井貴一撮影:加藤幸広
映画館存続の問題を引き金に並木の生い立ちの真実を探るミステリーコメディで、巧みな展開にグイグイと引き込まれていった。主演の中井を取り巻く上記のキャスト、すべての人物の造形が粒立っていて、その繋がりの妙が秀逸だ。現在と過去の回想シーンのシームレスな転換も心地よく、ここではとくに、ひたむきな表現が好印象の藤原、明瞭な声と安定感が光る清水、ふたりの若き実力者が鮮やかに多役をこなして大活躍を見せる。
たかおのボソッと放つ破壊力ある一言が爆笑を誘い、今井の憎らしいほど巧い嫌味な表現もその奥には創作への真摯が覗く。永作は正義感あふれる快活さで、さまざまな真実を突き止めていくさまが爽快だ。そんな周囲のクセ者たちに振り回される並木だが、中井の反応の一つひとつが可笑しくも、その振る舞いからは人生経験による度量の深さが見てとれる。映画作りを巡る騒動の末、百戦錬磨のプロデューサー並木は、すれ違いのまま逝ってしまった父親の本心にたどり着くことが出来るのか……。途切れてしまった、離れてしまった人と人との繋がり、その修復への希望が、いまだコロナ禍中にある現実社会のさまざまな場面にリンクする。演劇と観客の繋がりも然り、である。

「劇場は究極のアナログ」。2年前の取材で中井はそうも語っていた。
劇場にいるからこそ感じ取れる温かみ、それを継続していくことが俳優の仕事だと。目の前で繰り広げられる人々の言動にハッとしたり、ワクワクしたり、じんわりと安堵したり。ウェルメイドな舞台の充足感と客席の高揚を共有する喜び、アナログがもたらす熱をしかと受け止めた観劇体験となった。

取材・文:上野紀子

<公演情報>
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
『月とシネマ2023』

作・演出:G2

出演:
出演:中井貴一 / 藤原丈一郎(なにわ男子) / 永作博美
村杉蝉之介 / 清水くるみ / 木下政治 / 金子岳憲 / 奥田一平
たかお鷹 / 今井朋彦

【東京公演】
2023年11月6日(月)~11月28日(火)
会場:PARCO劇場

【大阪公演】
2023年12月3日(日)~12月10日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール

公式サイト:
https://stage.parco.jp/program/mooncinema2023

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