tiny yawn、敬愛するPredawnを迎えたツアー東京公演をレポート「嘘も虚飾も見栄もない」まっすぐなアンサンブルが響いた夜
Photo:稲垣ルリコ
Text:サイトウマサヒロPhoto:稲垣ルリコ
7月19日、東京・Shibuya WWWにて、tiny yawn 1st tour『into the blue.』東京公演が開催された。インディーレーベル・OaikoからリリースされたEP 『into the blue.』で、“令和型ポストロックバンド"としての懐をさらに拡げたtiny yawn。同作を引っ提げた初の東名阪ツアーの2公演目となるこの日は、敬愛するPredawnを迎えたツーマンライブが行われた。
開演時刻を迎え、まずはゲストアクトである清水美和子によるソロプロジェクト・Predawnがステージに。tiny yawnのメンバーがかつてカバーするなど、彼らの影響源としても欠かせない存在である。清水は、そのリスペクトをそっと受け止めて解き放つような伸びやかさで全12曲を披露。「霞草」「紫陽花の庭」「Autumn Moon」など季節を横断するようなセットリストと、「(コピーバンド経験を持つtiny yawnのメンバーふたりに向けて)どちらが“Pre”でどちらが“dawn”だったのか教えてください」という和やかなMCで、柔らかな時間を紡いだ。
続いてtiny yawnのメンバーが姿を現す。
客席と冗談を交わすような転換時間からほぼシームレスに始まったのは、Squarepusher「Iambic 9 Poetry」のカバーだ。ベースソロを起点に、ジャジーかつ幻想的なアンサンブルが芳醇な音の重なりとなって空間を包んでいく。tiny yawnの世界へと観客を導くための助走として、あまりにも自然な選曲である。
そのまま、「夜明の星」へ。16ビートの隙間を突き抜けるように、静けさの中に確かな意志を宿したMegumi Takahashi(vo,key)の歌声が会場後方まで真っすぐに届いた。ナチュラルハーモニクスを交えながら指板を自在に行き来するYuki Sugama(g)のリフは疑う余地なくテクニカルなのだが、しかしマニアックな自己目的性には陥らず、星の瞬きのように心地良く楽曲を照らしている。続くMCでKoji Yasuda(b)は自分たちを「ライブのスタートがよくわからないバンド」と形容したが、明確な号令をきっかけとせず会話の延長線上で浸透していくからこそ、tiny yawnの音楽は冒頭2曲で早くも身体に馴染んでいた。
そんな安心感と同時に、最新作『into the blue.』での音響的な挑戦の成果もプレゼンテーションされていく。
同作から「sparkler」では逆光のステージ照明がTakahashiの小さな姿を浮かび上がらせたが、その歌声に一層確かな力がこもっていた。ハーフテンポで刻まれていくリズムがボーカルと手を取り合って楽曲のスケールを押し広げつつ、やがてピック弾きのベースラインと甘く歪んだコードストローク、8ビートが楽曲を躍動させる。「DAWN」では踏み抜かれたファズに呼応するように歌声がざらつき、やさぐれた響きさえ帯びていった。そうして大袈裟な曲紹介も挟まずに進んでいくセットリスト。彼らは日常を一変させるというよりも、水に染料が溶けていくように、少しずつ景色を塗り替えていく。
ここでSugamaがPredawn・清水からの問いにアンサー。担当は「Predaw」がSugama、「n」がTakahashiだったとのことだ。かつて東京キネマ倶楽部にてPredawnのライブを鑑賞した帰りに「ああいうバンドをやりたいね」と語り合ったというエピソードも披露して、ライブは「yellow parrot」から再開される。
ベースとギターのユニゾンによるリフがミニマルファンクなグルーヴを展開しつつ、Takahashiが鍵盤と声でネオソウル的な洒脱さを添えていく一曲だ。ワウギターがスパイスを加えつつ、YasudaとSugamaがそれぞれソロを披露。決して涼しいばかりではない。じわじわと自覚させないように体温を高め、叩きつけるような終止にはフロアから歓声が上がった。
Sugamaは「ここ、MCじゃないんだよね?」と確認しつつ、我慢しきれないようにビールを一口。エレキをアコギに持ち替えた「summer hole」でパーカッシブなプレイを披露すると、合奏はもう一層リズムセクションが足されたかのように奥行きを増していく。Kohei Takashima(ds)が刻むきめ細やかなビートと重なったスリリングなリズムワークと美しいメロディが黄金比で配合されて、オーディエンスは旋律に耳を傾けながらも首でリズムを取っている。
ここからはサポートベースにSeika Ohnoを迎え、Yasudaもギターを構える5人体制でライブは後半戦へ。
ミラーボールが灯る中で始まった「花筏」では、装飾品のように煌めきを添えるSugamaの上物と、背景そのものを色づけるようなYasudaのバッキングが、楽曲の風景を立体的に浮かび上がらせた。その厚みを保ちながらも、続く「sail away」は軽やかに疾走。「祈るだけの今日を終えてここに来て / 少しくらいは遠回りだっていいよ」というフレーズがフロアを涼しい風のように通り抜けていく。
直前のMCで、Takahashiは「エゴサをするんですけど、『週末、tiny yawnだから頑張ろう』って言ってくれてる人がいてうれしかったです。私は今週嫌なことがいっぱいあって、Predawnさんを楽しみに生きてきたから、気持ちがよくわかります」と語っていた。tiny yawnは、何かを犠牲にして音楽を作るわけでもなく、現実から目を背け続けるための虚構を提示するわけでもない。ただ本当に、目の前にある生活を少し良くして乗り切るために、まっすぐに鳴らし歌っているのだと、この時わかった。
Sugamaが「久しぶりの曲やろうか」と語り、「夜に無駄吠え」が始まる。
ささくれ立つようなヒリつきを持ったミドルナンバーだ。Sugamaは、この日サウンドチェック中になぜか演奏していたRed Hot Chili Peppers「Can’t Stop」の伏線を回収するかのように、チョーキングを効かせた長尺のギターソロを展開する。自由で幅広いインプットがバンドの音楽に昇華されていることを改めて示すかのように。Sugamaは無邪気に「楽しいー!」とこぼし、「ちょっと臭いな。こういう曲もたまにはやらせてください」と語る。tiny yawnらしい、気負いのなさが感じられる一幕だった。「形式上、今から最後の曲をやります」とおどけつつ、静かに始まったラストは「I try」。繰り返される「僕らは行こう」の一節が、出航へ向けた餞のように、力強く響いた。
しかし彼らはステージから去ることなく、「アンコールありがとうございます」とそのままアンコールへ。「一回はけるのは小っ恥ずかしい」というSugamaの言葉に、会場から笑いが起きる。
Yasudaは、大きなバズを経験したわけではない一方で、着実にステップを踏んできたこれまでの歩みを振り返りつつ、「地に足が付いている感じを大事にしたい」とMC。再び4人編成に戻り、「Predawnさんみたいになりたいと話していた頃に作った曲」という、「breather」を披露する。アコースティックギターのアルペジオが、暖かな陽光のように会場を包み込む。Sugamaはこの曲について「コードはほぼPredawnさんのパクり」と打ち明けていたが、それでも原点のこの曲をこの場で恥じることなく鳴らす姿にも、自分たちの歩幅への信頼が滲んでいた。
とにかく、嘘も虚飾も見栄もない。最後に演奏された「YOUTH」はチューニングのミスで一度演奏を中断して、「最大級の『YOUTH』をやるから」と気合を入れ直してリトライする。
オーディエンスからのレスポンスを受けたYasudaは破顔し、この日一番の大きな拍手の中で、ライブは幕を下ろした。
<公演概要>
tiny yawn 1st tour『into the blue.』
7月19日 東京・Shibuya WWW
出演:tiny yawn、Predawn