【ライブレポート】森 大翔、20歳の誕生日に初のワンマンライブを開催 ここからすべてが始まっていく
Photo:瀬能啓太
5月31日に1stアルバム『69 Jewel Beetle』をリリースした森 大翔(もり・やまと)の初ワンマンライブが、自身のバースデーである6月9日に行われた。圧倒的スキルのギタープレイに自身を深く見つめる歌詞、キャッチーなメロディと、弱冠20歳にして類まれな才能を持つ森 大翔。記念すべき夜となったShibuya eggmanでのショーの模様をレポートする。
開演する15分ほど前に会場であるライブハウスShibuya eggmanに到着すると、まだ入りきらないお客さんの列ができていた。さらには、多くの関係者も訪れていた。注目のギタリスト・シンガーソングライターの初ワンマンというだけあって、チケットはソールドアウト。いったいどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、すでに会場の外に渦巻く熱気を感じながら、観る方も気合が入る。
照明が暗転し、SEが流れる。
拍手と歓声の中、バンドメンバーに続いて森 大翔がステージに登場した。
「森 大翔です。今日は短い時間ですが、精一杯演奏したいと思いますので最後まで楽しんでください」
ナチュラルボディのテレキャスターを提げたまま、スタンドにセッティングしてあるアコギに向かう。クリアな響きが会場を駆け巡るとそれだけでオーディエンスの心を揺さぶる。森 大翔は超絶のテクニックと圧倒的な感性を持つギタリストとしても注目を集める存在だ。
アルバム1曲目に収録されたインストナンバー「Prologue〜drift ice〜」からライブは始まった。流氷というタイトルを持つこの曲はブルージーかつ情熱的で、ともすればタイトルとは正反対のような趣すら感じられる。しかし、うねるような速いパッセージの背景に途方もなく大きくて得体の知れないものがゆったりと漂っているのを見ているような感覚になる。
彼の出身地である知床の羅臼町で見つめていた景色と彼が見据えるアーティストとしての未来が交錯して音像となっている。
続いて披露したのは「台風の目」。イントロの流麗なギターフレーズから心をぐっと掴まれるようなメロディライン、そして圧巻のギターソロまで、いくつもの才能が森 大翔という一人の人間の中に宿りスパークしている。ギターがうまいだけではない。歌が歌えるだけではない。曲が書けるだけではない。すべての要素を高次元でやってのけ、それらをひとつにして表現し、放つことができる。稀有な才能とはこのことだ。
それを自身の初ワンマンライブという場で証明している。
「感極まって僕が泣きそうになっちゃう(笑)。まだ始まったばかりなのに。今日は初ワンマンなので持ち曲をすべて演奏します。次に演奏する曲は、去年の春に北海道から上京してとても孤独を感じていたときに書いた曲で、自分でもこの曲に癒されました。Aメロを書いたあとに発熱してしまいました(笑)。それくらい自分にとって思い入れのある曲です」と言ってパフォーマンスしたのは「明日で待ってて」。6/8拍子が印象的なこの曲はぐいぐいと腕を引っ張られて不安な毎日の外側へ連れ出されるような爽快感がある。
ライブでの振り切れたボーカルがオーディエンスを圧倒していった。
一転、ジャジーな繋ぎからブルージーな「オテテツナイデ」へ。ーディエンスからは自然とクラップが起こり、歓声が上がる。森 大翔のもうひとつの才能を挙げるならば(まだあるんかい、というくらい才能の塊なのだ)、リズム感の良さだ。彼の書く曲はリズムもそれほど単調なものはない。そこにあの難易度の高いギターがくるのだから、実演するには相当な神経を使うのは言うまでもない。次に披露した「最初で最後の素敵な恋だから」で多用されるメロディアスで速いギターフレーズをほんの少しだけレイドバックして弾くリズム感は、ちょっと日本人離れしている。それによってフレーズ自体に勢いがついて、曲がきらびやかになる。
おそらくそのあたりはナチュラルにやっているのだと思う。本当に末恐ろしい20歳だ。
「自分の誕生日をこんなにたくさんの人に祝ってもらうとは思わなかったのですごいうれしいです。今までの20年を振り返ることが増えたんですけど、どうして自分はギターを弾いて、歌詞を書いて、歌を歌っているのかな、なんてことを考えていたら、やっぱり出会いがすべてなんだなっていうことに気づきました。北海道で生まれてそこでいろんな人に出会ったし、そこでしか見れない景色にも出会えたし、そこで芽生える自分自身の感情にも出会えた。そして東京に出て来て、こうして今皆さんに出会えたこともそうだし。10代の自分にとって一番大きな出会いは音楽でした。音楽は自分からいろんな感情を引き出してくれたし、音楽にたくさん救われてきた10代だったなと思います」
「歌になりたい」というストレートな意思を込めた曲は、彼が初めて他者に向けて書いた曲なのだと言う。
自分自身が歌になって、その歌を聴いた人を癒したい、救いたい――アーティストとしての自覚がはっきりと示されている曲だ。オーディエンスのなかには泣いている人もいた。今日ここでこの曲を聴けてよかったと素直に思った。続く「たいしたもんだよ」もはっきりと他者を意識した曲だ。音楽的にはさらに豊かになり、楽曲としての構造も聴きごたえ十分だ。そうやって考えると、この日のセットリストが森 大翔というアーティストの成長の軌跡をそのまま描いたものであるような気がしてくる。
ラストは「いつか僕らは〜I Left My Heart in Rausu〜」。タイトルからもわかるとおり故郷を歌ったものだ。
ここまで全10曲、彼とともに辿り着いたのは、過去でもなく未来でもない。今、ここ、という現在だ。ここからすべてが始まっていく――誰もがそう思えた貴重な1stワンマンライブだった。演奏後、少し放心したような彼を見て、やはりこの人の才能は本物だなと確信した。音楽に丸ごとその身も心も預けられる、それこそがどんな才能のなかでもなくてはならないものだと信じたい。
アンコールでは、11月に東京・大阪での2大都市でのワンマンが発表された。夏に各地の大型野外フェスを巡って、加速度的に成長を遂げた森大翔の姿を見るのが今から楽しみだ。それもこれも、原点は2023年6月9日、20歳になった日のShibuya eggmanから始まった。
Text:谷岡正浩Photo:瀬能啓太
<公演情報>
森 大翔ワンマンライブ『69 Jewel Beetle』
6月9日(金) 東京 Shibuya eggman