ハンブレッダーズ初の日本武道館公演をレポート 自分たちの思いに実直に歩んできた15年という時間の色濃さが形に
Photo:渡邉一生
Text:吉羽さおり
今年結成15周年を迎え、3月には出身地である大阪にある大阪城ホールで初のアリーナワンマン『放課後Jタイム〜15th Special~』を行なったハンブレッダーズが、10月9日初の日本武道館公演『放課後Bタイム〜15th Special〜』を開催した。高校1年のとき文化祭に出演するために結成したハンブレッダーズ。そこから15年の月日を経て、4人は学校の体育館を思わせる深紅の舞台幕がかかった武道館のステージに登場した。満員の観客はもちろん、ロックミュージックと出会い、それを日々のアンセムにして過ごした10代の自分たちの心をも痺れさせるであろう、エネルギーに満ちたライブとなった。
Photo:タマイシンゴ
記念すべき初武道館の1曲目となったのは、ハンブレッダーズ初の全国流通盤となった1stアルバム『純異性交遊』(2018年)を幕開ける「DAY DREAM BEAT」。ムツムロ アキラ(vo/g)がイントロのギターをかき鳴らすとワッと歓声が上がって会場が高揚感で包まれ、その観客の興奮は大きなシンガロングとなっていく。心身に衝撃が走った“自分の歌”との出会い、ヘッドフォンから流れるメロディや言葉を貪るように聴き、孤独を共にした音楽との出会いを描いた「DAY DREAM BEAT」。多くのリスナーにも覚えがあるだろうあの瞬間が鮮やかに蘇るこの曲が、武道館という大きな会場で鳴り響くのは、感動的だ。
「日の丸背負って、日本武道館でギター鳴らしにきました」というムツムロの言葉から「ギター」へ、そして「楽しみ方は決まってないので、好きなように楽しんでくれたらそれが正解です」と、でらし(b/cho)のスラップが冴える「ワールドイズマイン」を連投。気持ちよく加速する木島(ds)のビートに、ukicaster(g)のギターが華やかさを増す。でらしは序盤からステージを駆け回り、左右に伸びた花道でプレイするアグレッシブさだ。
Photo:渡邉一生
メンバーは2階席の上の方まで埋まった会場内をうれしそうに眺め、観客にちゃんと顔が見えてるよと呼びかけたり、「木島はこの景色見えてる?」(ムツムロ)、「ムツムロの頭で全然見えない」(木島)、「じゃあ、席替えする?」(ムツムロ)と言って「席替え」という曲につないだりと、フレンドリーに進んでいくライブで会場のムードも明るい。今年2月にリリースした4thフルアルバム『はじめから自由だった』の収録曲「十七歳」、“ワン、ツー、スリー、フォー”というパワフルな掛け声でドライブ感たっぷりにスタートした「見開きページ」に続き、MVの映像を背景に演奏されたメロウな「名前」ではそれまでの賑やかな一体感とはまたちがった優しい調べに、観客が耳を寄せる。愛の歌ではあるが、ここではバンドと観客の心を紡いでいくようにも聞こえてくる。
木島(ds)Photo:渡邉一生
後半へと向かうMCでは、今回のワンマンのタイトルである「放課後Bタイム」の由縁が明かされた。ハンブレッダーズというバンドを結成するきっかけとなったのはアニメ『けいおん!』であり、その登場人物たちによるバンドが放課後ティータイムだったこと。
またオリジナルメンバーであるムツムロ、木島のふたりと時を同じくして、大阪から遠く離れた栃木ででらしもまた放課後ティータイムのコピーをしていたこと。このワンマンは、そんなバンドのルーツや初期衝動から、自分たちの思いに実直に歩んできた15年という時間の色濃さを形にするものとなっていた。
でらし(b/cho)Photo:渡邉一生
さらにアクセルを踏み込んでいった後半は、メンバーが10代の頃さまざまなロックバンドに夢中になったように、ハンブレッダーズというバンドが誰かにとっての希望の光や、心震わせる衝撃となっていったことを実感させるかの如く、ステージ上で力強い存在感を放っていく。
ムツムロ アキラ(vo/g)Photo:渡邉一生
最新アルバムからの「サレンダー」で高らかなギターをかき鳴らしたのちは、同日にリリースとなった新曲「フィードバックを鳴らして」をレーザーライトや火柱といった特効のなかで披露。歌謡的なメロディと巧みで遊びのあるアンサンブルによるスリリングなスピード感があるサウンドが、観客の体を揺らす。さらに木島によるダイナミックなドラムのソロを挟んで続いた「弱者の為の騒音を」では、イントロのギターリフと同時に、武道館を揺るがすような歓声がわき上がった。爆裂なアンサンブルに高くコブシが上がり、シンガロングのボリュームが上がる。10代の自分が憧れていたような、馬鹿正直で、最高にかっこいいロックミュージック。
そのいびつな美しさと迸るエネルギーが、このアンセムを輝かせている。ムツムロが自分の人生を書いたという「東京」、そこに続いた「CRYING BABY」の語りかけるような歌もまた、等身大の4人だからこその温かな説得力、包容力を持つ。
Photo:タマイシンゴ
終盤、曲に入る前のMCではメンバーそれぞれがこの日を迎えた思いを語った。木島は、15年間バンドをやってきたけれど、この武道館を人生の最高到達点にしたいとは思っていないと力強く宣言。またでらしは、皆さんが応援してくれたからここに立てていると、武道館に連れてきてくれたファンやスタッフへと感謝を伝え、一度でなく絶対またここに立ちたいと語った。ukicasterは、開演前ずっとモニターで観客の様子を見ていたそうで、物販に並んでいたり、友人同士で談笑していたり、誰かを待っていたりする光景が、まさに学校の放課後のような感じだったとうれしそうに話した。
ukicaster(g)Photo:渡邉一生
そしてこんなかけがえのない瞬間、時間をブーストするように、今夏リリースした「⚡」を披露。さらに「光」のクライマックスと共に、大量の紙吹雪が会場を舞った。
ふわふわと紙吹雪が舞う余韻のなかでムツムロは、最近インタビューで、こうして武道館が決まって15年いろいろ言ってきた人に、それ見たことか!という思いがあるのかと聞かれるが、全然そんなことはないし、この広いステージに立てたのは自分たちの力だけだと思っていないと改めて語った。
Photo:渡邉一生
会場一体の大合唱と共に金テープならぬ青テープが放たれた「はじめから自由だった」での多幸感から、「声なき人の声を代弁するのがロックバンドの使命。それを忘れないように活動したい」と改めてハンブレッダーズの真ん中にある思いを伝えたのちに演奏した「グー」では、観客が曲の冒頭からコブシを掲げて、バンドよりも大きな声を張り上げるようにして歌う。歌声によって晴れやかさを増した会場に最後に響きわたったのは、《誰にも知られたくないのに誰かにわかってほしいんだ》とアンビバレントな思いを歌う「フェイバリットソング」。ここに集った観客がハンブレッダーズに寄せる思いも、まさにそれだろう。通勤通学のヘッドフォンや、ひとりこもった自室の中で、親密な関係を築いてきた音楽。そんなそれぞれの“自分の歌”が、ライブという場で混じり合い大きく爆発するカタルシス。でらし、ukicasterがアグレッシブにステージを駆け回ってプレイし、木島が勢いよく銅羅を叩いて締めくくると、会場には割れんばかりの拍手と、叫びが満ちた。
Photo:渡邉一生
アンコールでは、今年3月に開催された大阪城ホール公演と今回の武道館公演がセットになって映像作品となることがアナウンスされた。全国各地のライブハウスの映像とともに「ライブハウスで会おうぜ」が演奏された感動も束の間、「最後、台無しにして帰りましょう」と不敵な笑みを漏らしたメンバーが煌々とした明かりのなかでかき鳴らしたのは「チェリーボーイ・シンドローム」。いかにもハンブレッダーズらしいパンキッシュなスタンスで、初の日本武道館公演を爆音で締めくくった。
<公演情報>
『放課後Bタイム ~15th Special~』
2024年10月9日 東京・日本武道館