【ライブレポート】Laika Came Back、約4年ぶりの対面ライブ「再会の時」
Photo:kaori tochigi
車谷浩司のソロプロジェクト、Laika Came Back(ライカケイムバック)が5月13日、SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで単独公演「再会の時」を開催。約4年ぶりの対面ライブで彼は、アコギと歌による、豊かで普遍的な音楽空間を生み出してみせた。
2009年にAIR名義での活動を終了させた車谷は、2010年2月に新たなプロジェクト「Laika Came Back」(以下LCB)を立ち上げた。“Laika”とは、旧ソ連のロケット“スプートニク2号”に実験のために乗せられ、犠牲になってしまった犬の名前。犠牲になった命がもし還ってきたら、どんなことを思い、どんな行動をし、どんな音楽を作るのかーーそんな思いとともにスタートしたLCBは、2011年にアルバム『Landed』、2016年にアルバム『Confirms』を発表した。その後も毎年のようにライブを行い、2019年には映画「こはく」の劇伴を担当、並びに、主題歌「こはく」をリリースするなど、マイペースな音楽活動を継続してきた。しかし、2020年からはじまったコロナ渦によって活動は停滞。2020年4月30日に“自由と愛”と題された 文章(https://twitter.com/LaikaCameBack/status/1255649281546977281) を発表した後、表立ったアクションはなくなっていた。
もともとインタビューなどのメディア露出もほとんどなく、彼がどんな思いを抱えながら日々を過ごしているのかを知る手段もまったくなかったと言っていいだろう。
しかし、再びLCBは戻ってきた。最初のアクションは、新たに開設したファンクラブサイト 「LCBVILLE」(https://laikacameback.bitfan.id/) に掲載された文章(“JOURNAL”)。昨年10月には初の配信コンサート「そこに外待雨」を行い、今年2月に4年ぶりの対面コンサート「再会の時」の開催を発表した。チケットは瞬く間にソールドアウト。このライブに対して車谷は「もう次はないかもしれないという状況の中、ただ、ただ、今の自分の歌を聴いていただきたい。この4年間の思いをぶつけたい。燃え尽きたい。」とコメントしていたが、この言葉の通り、現在のLCBの音楽的なスタイル、そして、思索と哲学をしなやかに映し出す歌をたっぷりと体感できるステージが繰り広げられた。
(個人的な話で恐縮だが、筆者が彼の歌を生で聴いたのは、AIR時代以来、約20年ぶりだった。前述した通り、LCBはメディア露出がほとんどなく、音楽ライターとして関わる機会も皆無だった。それはおそらく、従来の音楽ビジネスの在り方と距離を取り、音楽家として真摯に作品作りに取り組み、リスナーと直につながりたいという車谷のスタンスによるところが大きいのだと思う)
18時30分を少し過ぎたころ、“再会の時”はスタートした。ステージの真ん中に置かれたマイクスタンドに光が当てられ、アコースティックギターを手にした車谷が登場。丁寧にお辞儀をした後、天空を仰ぐように上を向き、アコギのボディを叩き始めた。ルーパー(楽器やボーカルのフレーズを録音し、ループ再生できるエフェクター)でギターのフレーズを重ねながら、その場でトラックを作成。心地よいサウンドスケープが広がるなか、〈空の青さを知った/渡り鳥は歌う〉という言葉を響かせる。
オープニングは、「新緑の候」。
爽やかさと奥深さを内包したボーカルがまっすぐに届き、会場は早くも大きな感動で包まれた。さらにアコギのアルペジオから「桜花」へ。“大切な人に会いにいこう”という思いを綴ったノスタルジックな雰囲気の楽曲に耳を傾けていると、自然と自分自身の人生や家族のことを思い出してしまう。オーディエンスのそばに寄り添い、忙しいなかで忘れていた大切なことを呼び起こすーーそんな効果も、LCBの音楽の魅力なのだ。
最初のMCでは、「こんばんは、Laika Came Backです。ありがとうございます。喋ると涙がこぼれてしまいそうなので……。本当にお会いできてうれしいです。
たくさん歌いますので、たくさん聴いてもらって、楽しんで帰ってください」と挨拶。4年ぶりに対面したオーディエンスから大きく、温かい拍手が送られた。
ライブ前半でもっとも心に残ったのは、1stアルバム『Landed』の表題曲「Landed」だった。煌びやかな星の光、壮大な宇宙空間を想起させるギターのアルペジオ、大らかで切ないメロディライン、そして、〈さあ何をしようさあ何を描こう/憎しみあうここで〉という歌詞が響き合うこの曲は、LCBの根本的な表現とつながっている。ゆったりとした手触り、凛とした意志が入り混じるボーカルも素晴らしい。シンガーソングライターとしてもっともベーシックな“ギターと歌”という形の可能性を追求し、深淵で普遍的な生み出すLCB。圧倒的なサウンドスケープに包み込まれながら、彼がここに至るまでの道のり、音楽表現にかけた膨大の時間に思いを馳せてしまった。
まるで童謡のような旋律とともに、日本語の美しさを表現した「あいうえお」を披露した後、「みなさんの前でプレイさせてもらうのは4年ぶりになります。
帰って参りました、ありがとうございます」と改めて挨拶した。
「この間、コロナという世界中の誰も予測していなかったことが起こって。社会や世界が激変したり、僕自身もいろんなことがあって。でもこうして、みなさんに元気にお会いできたことを感謝してます」。
この後は4月に配信リリースされた新曲「グレースケール」へ。グレースケールとは、白から黒までの濃淡(グラデーション)を表現したもの。「自分の心境もまさにグレースケールでした。“こんな感じだよな”ってそのまま歌詞にして、何となく鼻歌で作って」というこの曲は、コロナ渦を含む、この数年間の彼の感情の濃淡をリアルに反映している。
リフレインされるギターのフレーズ、そして〈動き出す時を思っては/願いごとひとつふたつ〉という歌詞に強く惹きつけられた。
さらに10ccの「I’m Not in Love」のカバーも。言わずと知れた70年代を代表する名曲だが、アコギとルーパーのアレンジによって、原曲の奥深い魅力を引き出してみせた。LCBのなかで、オーセンティックなポップソングへの興味が継続していることもうれしい。
「朝凪の色」からライブは後半へ。もともとは父親のことを思って書かれたという「こはく」、〈風に乗ったさよなら/唄のようなさよなら〉というフレーズが響いた「Green」と楽曲を重ねるごとに豊かな感動が広がっていく。本編ラストは「天空の彼方」。今はいない大切な人への思いを深く、大きな音像とともに歌い上げ、ライブはクライマックスを迎えた。
アンコールでは、「やっぱりステージは気持ちいいと実感しながら、終わることができました。相変わらずマイペースであるとは思うんですけど、一歩ずつ、着実に、誠実に、丁寧に、自分なりの音楽活動を続けていきますので、これからもよろしくお願いします」という語り掛け、再び大きな拍手が巻き起こった。
「本編の最後の最後に機材がバグったので、もう1回やらせてください」と「天空の彼方」を再び演奏。さらに〈そうだここまま進め〉と聴く者を鼓舞する「駿馬」でエンディングを迎えた。
4年ぶりの対面ライブで、自らの音楽性と精神性をダイレクトに示したLCB。彼の音楽をもっと味わいたいーーこの場所にいた全員が、その思いを強くしたはずだ。
Text:森朋之Photo:kaori tochigi
<公演情報>
Laika Came Back コンサート “再会の時”
2023年5月13日(土) 東京・渋谷 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE