never young beach、アルバム『ありがとう』リリースツアー東京公演 「俺もこの音楽の中に入れてくれー!」【ライブレポート】
Photo:Asami Nobuoka
今年6月、約4年ぶりとなる5thアルバム『ありがとう』をリリースしたnever young beach。9月28日の東京・恵比寿LIQUIDROOMからスタートし、全国10都市を回るツアー『“ありがとう” Release Tour 2023』の、東京での追加公演となる豊洲PITでのライブが、12月8日に行われた。
アルバム『ありがとう』は、3人編成(安部勇磨、巽啓伍、鈴木健人)にサポートメンバーを迎える体制となってから制作された初のアルバムだ。これまでもサポートギタリストとして森雄大(neco眠る)、山本幹宗(くるりサポート)、田中ヤコブ(家主)などさまざまな才能を迎え入れてきたが、2021年以降は岡田拓郎(ex. 森は生きている)、下中洋介(DYGL)でほぼ固定。そこに安部のソロアルバム『Fantasia』(2021年)でも大きな役割を果たしたキーボードの香田悠真を加え、事実上6人のバンドとして新たなネバヤンサウンドを作り上げてきた。
アルバム『ありがとう』での親しみにあふれながらも音楽的なチャレンジを随所に散りばめられた世界を、多幸感あふれるネバヤンのライブに盛り込んでいくのに、約3カ月にわたるツアーはうってつけのものだったろう。
この日の豊洲PITのステージは、前方に下中、安部、岡田のギタリスト3人、後方の一段高くなった舞台に香田、鈴木、巽が並ぶ立体的な構成。そして、広さのある豊洲PITの構造を活かした客席への花道がステージ中央から伸びていた。
客電が落ちて、舞台に登場したメンバーが身を包むお揃いの衣装は水色と白のピンストライプシャツ。スラックスは白。1960年代のビーチ・ボーイズそっくりの格好で、音楽ファンならニヤリとしてしまうだろう。去年は全員、映画『男はつらいよ』のフーテンの寅(渥美清)で固めていた彼ら。そのときどきの安部勇磨の気分のモードと、お客さんに心から楽しんでもらいたいおもてなしの気持ちが、他のロックバンドとは一線を画したこんな遊び心を生んでいる。
待ち侘びたファンのワクワクと本番を迎えるバンドのゾクゾクがシンクロしたかのように、「どうでもいいけど」のイントロがかき鳴らされる。安部は、喜びのすべてをぶちまけるように声をあげる。それはもはや日本語を超えた感情のほとばしりだ。
彼らがアジアでも大きな人気を得ているのは、こういう言語の壁をものともしない自由な解放感のおかげでもある。
その伸び伸びとしたやり方は、この日用意された花道の使い方にも表れていた。歌いながら安部は観客の近くまで駆け出し、下中は花道中央で熱いギターソロを弾きながら仁王立ち。普段はクールな岡田も花道に繰り出したし、巽もステージ上段からわざわざ降りてきて花道の快感を味わった。綿密なリハーサルをして、花道を行く順番や演出を決めたわけではなく、「行こうか?」「行きなよ?」みたいにアイコンタクトを交わしながら瞬時の判断とロック的な本能で足を踏み出すメンバーたちの姿がとても頼もしかった。
1stアルバム『YASHINOKI HOUSE』のオープニングナンバー「どうでもいいけど」で始まって、いきなりテンションMAXに達した場内。そこから今度は新作『ありがとう』のオープニングナンバーである「哀しいことばかり」「Oh Yeah」へ。バンドのヒストリーを自然に表す流れがかっこいい。
続く2nd『fam fam』(2016年)の「Motel」の60年代エレキインスト的なサウンドは、今回のビーチボーイズな衣装にばっちりハマる。そして新作からの「蓮は咲く」「毎日幸せさ」へ。ファンが集まっているから当たり前ではあるんだろうけど、新作『ありがとう』が心から愛されていることがわかる瞬間が目の前で続いた。
続いても新作から、ゆったりとしたバラード「風を吹かせて」「こころのままに」は、勢いまかせではない表現力をしっかりと身につけたネバヤンの、もうひとつの真骨頂を見せる。安部がソロ作でも見せていた穏やかでセンチメンタルな表情を、バンドでもここまで自然に表現できるようになったことがうれしい。
少し落ち着いたインターバル。安部がメンバーを紹介しながらそれぞれと話をする、その時間が好きだ。「どうだ?元気か?楽しんでるか?」とあいさつを交わすような態度は、もしかしたらステージの上でも日常会話でも変わらないんじゃないかと思えるほどだ。
ハマりまくった「寅さん」の影響によってなのか、さらにステージでの振る舞いの親密さは増したような気がする。人気は大きくなっているのにネバヤンがいつまでも友達のような音楽でいられる秘訣でもあるだろう。
さてここからはライブ後半。3rd『A GOOD TIME』(2017年)からの「なんかさ」からは、もう一気に最後までテンションの高いロックンロールが続く。「あまり行かない喫茶店で」から、新作収録曲としてはかなり早くから演奏されてきた「Hey Hey My My」、そしてワイルドに燃え盛る「Pink Jungle House」と人気曲が続く。勢い余って花道に飛び出した安部が、ステージ上のバンドに向かって「俺もこの音楽の中に入れてくれー!」と叫んだのは、この夜のハイライトのひとつだ。やってる自分が一番かっこよく思えるバンドにいるってことは、何物にも変え難い幸せだろう。
「明るい未来」「fam fam」「お別れの歌」と、最後は2nd『fam fam』収録の必殺ナンバー3連発で熱狂の本編は終了。
15曲を一気に駆け抜け、終わってみたら1時間も経っていなかった。でも全然不足がない。バンドも観客も、ネバヤンに何を望んでいるのか、このライブツアーがどういう意味を持つのか、をしっかりとわかっているからこそのバランスがよくてさわやかな満腹感があった。
満場の拍手からアンコールへ。アンコール1曲目「帰ろう」。そして2曲目が始まろうとしたとき、「あれ?1人多くない?」と気がつく。香田の隣でキーボードに座るのは、谷口雄。このツアーの前半は、香田の代役を彼が務めたんだった。
東京が地元なので、彼がゲストに加わるのは粋な演出だった。「この曲知ってる人いるかな」と安部がMCして始まったのは、ちょっと聴き覚えのないイントロ。しかしすぐに4th『STORY』(2019年)のタイトル曲だったと気がついた。コーラスを加えて緻密にサウンドを作り上げたこの曲は、リリース後のツアー以来、ライブでは少しご無沙汰だった(コロナ禍もあったし)。だけど、こうして新しいアンサンブルでまたレパートリーに帰ってくるのはすごく新鮮だし、いろんなことが変わってもバンドも人生もその先へ続くというメッセージは、ネバヤンが語り続けている物語そのものだからだ。
その幸福感に包まれたまま、「夏のドキドキ」へ。ビーチボーイズスタイルで大団円……かと思いきや、この日はもうひとつサプライズがあった。
会場の照明がすべて落ち、「わ!いったいどうしたんだ」とステージ上はうろたえる(?)。
思わずスマホのライトで手助けしようとするお客さんたち(そういう気遣いがネバヤンのファンらしい)を「いや、そういうことじゃないんだ。逆に消して」と苦笑交じりに制止する安部。
パッと照明がついて、ステージ中央には四角い箱。そこから顔を出したのは「スンスンが来てくれたー!」。
9月に公開されたMV「らりらりらん」で安部と共演した、パペットスンスンがこの日のスペシャルゲスト!もう一度谷口も参加して、会場は熱狂に包まれた。熱狂?いや、違うな、この興奮はヤケドしそうな危険な温度ではなく、もっと楽しく人を包み、みなを心地よいまま家路に帰す暖かさだ。
来年は結成10周年を迎えるネバヤン。2月には安部のソロではの初のUSツアー(11公演)も発表されるなど、変化はどんどん起きていきそうだ。でも、この感じなら大丈夫。今ネバヤンはいちばんいい時間を過ごしてる。そう思える、そんなライブだった。
Text:松永良平Photo:Asami Nobuoka
<公演情報>
never young beach 5th Album “ありがとう” Release Tour at Toyosu Pit