謎多き新人バンド“633”、ストレイテナーとAge Factoryを前座に迎えたツアー初日をレポート
Photo:Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
ネタバレ注意!セットリスト等を公開しています。
2022年8月、突如シーンに現れた4人組エモ/ポップ・パンクバンド「633(SIX HUNDRED THIRTY THREE)」。11月2日にセルフタイトルのデビュー・アルバム『SIX HUNDRED THIRTY THREE』をリリースした謎多き「新人バンド」だ。公式プロフィールによれば彼らの正体は「バンドとバーベキューをこよなく愛する、ソーセージの化身」とのこと……ソ、ソーセージ?その実体をこの目で確かめるべく、11月21日、彼らのツアーの初日・KT Zepp Yokohamaに参戦した。以下でその模様をレポートする。
さて、ライブの模様について書く前に、まずは彼らのデビュー・アルバムについてだ。すでに聴いた人はわかると思うが、控えめに言って最高である。90年代のアメリカ西海岸、オレンジ・カウンティあたりの風と日差しを感じるポップ・パンクのノリと、その開放的なムードとは裏腹に心に染み入るメロディの切なさ。
懐かしさと同時に新鮮さを感じるのは、この音楽に宿るキラキラとしたピュアネスのせいだろう。
バンド名の「633」はビールの大瓶の内容量から来ているらしいが、そういえば90年代頭のオレンジ・カウンティに411というメロコア・バンドがいたのも思い出した(調べたらなんと今年再結成していた)。なんにせよこういう音楽は(たとえ演奏するのがソーセージ野郎たちだとしても)ライブで鳴らすのが最強に決まっているわけで、というかきっと本人たちもライブでやるためにアルバムを作ったわけで、ということはこのツアーこそが本当の意味での633の「デビュー」なのである。その記念すべき初日の対バン相手となったのは今ツアー全日程に帯同するストレイテナーと、この東京公演と次の大阪公演に出演するAge Factoryの2組。強力なカップリングだ。
まずステージに登場したのはストレイテナー。こういう場合はキャリアの浅いほうが先に出てくるのが普通だが、彼らがオープニングである。ナカヤマシンペイはライブ中に「カサビアンを思い出す」(彼らは2007年にカサビアン来日公演のオープニングアクトを務めている)と言っていたが、それはそれで新鮮で楽しそうだ。
「(633とは)まだ会ってない」「楽屋から全然出てこない」と謎のバンドを怪しがりつつも、ライブは完全にストロングスタイル。最強のセットリストで「前座」としてがっちりフロアを盛り上げてみせた。
続いて奈良のAge Factoryが登場。ストレイテナーのホリエアツシも「同世代だったら絶対一緒に戦ってた」と絶賛する彼らのライブもまた気合い充分だった。思いを全部乗せてぶちかます轟音と、その隙間を縫うように聴き手の心に手を伸ばしてくる清水英介の声。「今日は楽しかった」と最後に英介は笑ったが、この日のお客さんにも彼らの音楽は深く刺さったはずだ。
そんな2組の熱演ですでに温まりすぎるほど温まった会場に、ついに奴らが登場した。4人のソーセージの化身がステージに登場し、フロントマンのSOFT CREAMが「はじめまして」と挨拶をすると、アルバムの曲順通り「Drink Up」からライブはスタート。
ステージの前面にはスクリーンが張られ、そこに映像が映し出される。そのおかげで4人の姿ははっきりとは見ることができないが、どうやらアルバムジャケットやMVのビジュアル通り、ボーカルのSOFT CREAMはニット帽にメガネ、ギターのSMOKEは猫耳つきの帽子、ベースのLANTERN SMILEはオーバーオール、そしてドラムのDRUNK MONKEYは白いフードにヘッドフォンを着けているようだ。確かに633である。演奏はハイテンションで、その音からも4人が音楽を楽しんでいることが伝わってくる。
2曲目にストレートなメロディックチューン「Sweet Rain」、そして続けてギターリフト大ぶりのリズムが気持ちいい「Girls Don’t Cry」を披露すると、ここでMC。初めてのライブということで、メンバー紹介が行われていく。ひとりずつ自己紹介をしていくのだが、みんななんか声が変だ。名前のとおりランタンを振り回して遊んでいるLANTERN SMILEは山が好きすぎて(SOFT CREAM談)山びこのような声だし、DRUNK MONKEYは酒焼けのせいと言うが、妙に甲高い声になっている。
ライブができた喜びを大声で叫ぶSMOKEの声は重厚なハーモニーになって聞こえてくる。そんななかSOFT CREAMだけがごく普通の声なのが逆におかしい。
その後もライブは勢いよく続いていく。スクリーンに歌詞が躍るなかドラマティックに披露された「Aurora」、そして軽快なシャッフルビートとともに走るサマーチューン「One Summer Day」と多彩な楽曲を繰り出しながら、やっぱり4人はどこまでも楽しそう。LANTERN SMILEは腰を振りながらゴリゴリのベースを鳴らしているし、SMOKEのギターは冷静沈着ではあるものの気持ちがこもっている。DRUNK MONKEYは体を揺らしながら華やかなビートを叩き続けているし、SOFT CREAMも歌いながらステップを踏んだりしている。なんか彼らを見ているとこっちも楽しくなる。音楽ってそもそもこうやって気持ちをリフトアップさせてくれるものだったよなあ、と思い出させてくれるようなライブだ。
何かと暗い世の中だからこそ、こういうバンドが僕たちには必要なのかもしれない。
「One Summer Day」を力強いコードでフィニッシュすると、LANTERN SMILEのベースから「Rooftop Party」へ。どこかクリスマスっぽい華やかさも感じさせるポップチューンだ。そして「The Great Escape」へ。タイトなリズムから一気にスケールの大きなパワーポップへと展開していくサウンドが一気にオーディエンスを高みへと連れていく。SOFT CREAMとLANTERN SMILEは飛び跳ねながらオーディエンスを盛り上げ、その熱がフロアにもあっという間に伝播していく。
飛び跳ねすぎたのか、歌い終えたSOFT CREAMは「あっつい!」と一言。息を切らして「今日は本当に来てくれてありがとう!Age Factory、ストレイテナー、最高のステージをありがとう!」と感謝を伝えると、そのまま「みんなそれぞれ願いがあると思う。
その願いがひとつでも多く叶うように」と「Million」をスタートさせる。スクリーンには星空が浮かび、そこにはメンバー4人をかたどった星座も映し出される中、優しいメロディとシンセストリングスも効果的に取り入れたサウンド。アルバムの中で唯一日本語の歌詞で書かれたこの曲に込められたメッセージがあたたかくフロアを包み込んでいった。
そして「最後の曲です」と披露されたのはアルバムのラストナンバーになっている「Radio Song」。個人的にもアルバムの中で一番好きな曲だ。最高に美しいメロディに乗せて届けられるのは、音楽に対する純粋な思いと自由を願う心。丁寧な歌と演奏でそのメッセージを伝えきった4人には、大きな拍手が送られた。
その拍手を受けて「アンコールをもらってももう曲がないんだけど……」と言うSOFT CREAM。
確かにここまででアルバム9曲すべてをプレイ。どうするのかなと思っていると、「1曲カバーをやりたいと思います。ストレイテナーの古い曲を」と4人が演奏を始めた。インディーズ時代の名曲「BOUNDER ADVENTURE」だ。2001年のインディーズセカンドアルバム『ERROR』に収録されているこの曲には、確かに今の633のスタイルに通じるものがある。全速力でこの短い曲を駆け抜けると、今度こそ633のファースト・ショウは終わりを告げた。バンドの楽しさと音楽への情熱がまっすぐに弾けた、最高のライブだった。
Text:小川智宏Photo:Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
<公演情報>
633 “Bier Fest Tour 2022”
11月21日(月) 神奈川 KT Zepp Yokohama
共演:ストレイテナー / Age Factory