ストレイテナーの技巧がさらに輝いた『Sad And Beautiful Symphony』万雷の拍手に包まれた着席ライブをレポート
Photo:AZUSA TAKADA
Photo:AZUSA TAKADAText:松木美歩
ストレイテナーのホールワンマンライブ『Sad And Beautiful Symphony』が、11月22日大阪・NHK大阪ホール、12月9日・10日東京・LINE CUBE SHIBUYAで開催された。すべての公演がソールドアウト。普段のスタンディングではなく、じっくり観て聴く着席で堪能するスタイル。結成25周年を超え、メンバーもファンも同じように年齢を重ね、ライブハウスで踊って暴れるのももちろん楽しいのだが、たまにはこうやって腰をおろしてじっくり楽しむ時間は特別感があっていい。選曲もミドルテンポの曲が中心になるとアナウンスされており(あくまでも中心)、季節が冬へと移り変わったこの季節とともに世界観をじっくり味わうことができた公演だった。今回はファイナル12月10日をレポートする。
メンバーがステージに登場すると会場は大きな拍手に包まれる。コンサートが始まる──普段とは違う、特別な感覚と期待が高まる瞬間。
一曲目は「Our Land」。アルバム『Future Soundtrack』ではラストナンバーに位置するこの曲からの始まりが、静かに燃え上がるような感覚を広げていく。そのまま「クラッシュ」へと繋がり、イントロのギターソロが響くと再び大きな拍手と歓声に包まれる、一曲一曲を讃えていく。ギターサウンドと流れるように展開していくメロディが身体にグサグサと突き刺さっていき、「MEMORIES」へ。いまにも立ち上がってしまいそうな選曲。開場中にも着席を促す看板を持ったスタッフの方がいたぐらいだし気持ちのなかでグッと堪えた人、たぶんたくさんいたと思う。
「ようこそ。今回は半ば強制的に座ってもらっていますけど、みんなが観やすいように座ってもらっているだけなので、それ以外は手を挙げたり、声上げたり自由に楽しんでください」とホリエアツシ(vo/g)が挨拶すると普段通りの歓声が上がる。
視界が遮られることもあるのがライブハウスだけど、今日は視界良好にじっくりとストレイテナーの音楽を嗜んでほしいということ。続く「Graffiti」の《記憶が時間を止めていた 壊れてしまうのが怖かった》という歌詞も年齢を重ねてこそさらに響いていくし、ホリエアツシ、ナカヤマシンペイ(ds)、日向秀和(b)、OJ(g)4人の技巧と個性が激しく絡み合う様がいつも以上に美しく感じる。そして、「CLONE」、「AGAINST THE WALL」。時折流れる映像と重ねながら楽曲を楽しむこともできたし、「AGAINST THE WALL」でのシルエットを映し出す演出がやっぱり秀逸だった。MVでもこのシンプルさが曲の世界観を色濃く映し出していたが、ホールという広い空間だからこそ再現できる演出が本当に最高だった。
キーボードがステージ中央に置かれ「放物線」「雨の明日」「SIX DAY WONDER」へ。ミドルテンポのメロディに思い思いに体を揺らすオーディエンスの背中から音を楽しむリズムを感じながら、ストレイテナーのミドルテンポ曲の都会的な音楽性がいつも以上に輝いて聴こえてきた。ホリエアツシのキーボードから始まり、ワンフレーズ終えるとギターを持ち直し正面を向き、ギターを歪ませ轟音をかき鳴らした「メタセコイアと月」。
映像には真っ赤に燃えたぎる月が映し出され、さらなるエネルギーを感じながらすでに名曲となっているこの曲を噛み締める。発売当初は秋の夜長にぴったりだなと感じていたが、この切なくずっしりとして、なんともなつかしい空気感がピリッとした冬との相性のよさも感じさせてくれる。今回はホールという音響の良さも存分に活かしながらの「メタセコイアと月」だったが、ライブハウスやフェスではまた別の景色を広げてくれそうだ。
そして、「走る岩」。この曲はホリエアツシとナカヤマシンペイのふたり体制で活動していたときの音源しかなかったが、10月に発売された『Next Chapter EP』で初めて4人でアレンジし直しEXTENDED ver.として収録され、このライブでも披露された。この曲を演奏すると懐かし過ぎて状況を把握できないオーディエンスから「えっ!?」という反応をされたのが印象的だったとインタビューでホリエアツシが語っていたが、この日は素直に受け止められたようでナカヤマシンペイが「人気あるね、『走る岩』」と思わず口にするほど、演奏を終えると大きな歓声が上がっていた。そのまま「COME and GO」へと繋がり、ライブ開始から1時間ほど経ったところで「改めましてストレイテナーです。いかがでしょうか。
お気に召していただけているでしょうか」と挨拶。「今日席から立っちゃいけないって看板あったでしょ? あれはさすがに怖いよね(笑)」とこの日のコンセプトを徹底しながらも笑いもかかさず、ステージ上で笑い合う4人の姿がなんともやさしい空間で微笑ましかった。1日目の反省を挟みながらの和やかなMCが続き、「ミドルテンポの曲中心と言いながらも、このあとアップテンポの曲も出てくるので自由に身体を揺らして、とにかく楽しんでください」と語ったあとは、『Next Chapter EP』にも収録の「My Rainy Valentine」「Next Chapter」へ。リズムに身体を預けていきながら「羊の群れは丘を登る」「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」「Skeletonize!」と名曲を惜しみなく披露していき、MCでの公言通りにテンポがどんどん上がっていく。
そして「クリスマスソングを一曲」と、「灯り」のイントロが流れる。「あぁ、冬がきたんだ」と一気に曲の世界観に引き込まれ、最後のフレーズ《今夜 どんな君に会えるだろう》の歌詞にやっぱり心が溶けていく。ライブは終盤へと向かい、ミディアムスローナンバー「Uncertain」。名盤アルバム『The Ordinary Road』のラストナンバーなのもあり終わりを少し感じながら、《この不確かな道のりで遠回りして見てきた景色をきみにも見てほしい》というメッセージが、共に年を重ねてきた我々の身体に鮮明に届いていく。
「最後の曲です」という言葉のあとに「スパイラル」。名曲を讃えることはライブハウスでももちろん起こることだが、着席だからこその万雷の拍手がいつも以上に強く大きく響き渡り本編は終了。
そのまま大きな拍手がアンコールを呼び、「アンコールぐらい立ちましょうか」── ホリエアツシの言葉に、「いいの?」とざわめきながら次々と立ち上がる。年末のフェス参加の話や、年明けのツーマンの話も出て「ストレイテナー、ツーマン良いから」とツーマンでの負けず嫌いを吐露しながらアンコール「The Novemberist」「冬の太陽」へ。季節は冬へ、という流れ。静かに燃え上がるこの展開、ポップに、でもグッと心を刺す展開に、自然と拳を握りしめ突き上げる。「ありがとうございました」── 多くは語らずにメンバーがステージをあとにすると場内が暗転し、来年の全国ツアー『STRAIGHT SONGS TOUR』の開催が映像により発表された。ライブを楽しむスタイルは各々ではあるが、技巧派が集まったストレイテナーの音楽をじっくり味わうためにぜひシリーズ化を願う公演だった。
<公演概要>
ストレイテナー『Sad And Beautiful Symphony』
2025年12月10日 東京・LINE CUBE SHIBUYA