星のような光に包まれて――京本大我主演ミュージカル『Once』日本初演、日生劇場で上演中
(撮影:岩村美佳)
京本大我主演のミュージカル『Once』が日生劇場で上演中だ。音楽が人と人を優しくつなぐ物語。劇場を後にしてからもふと思いを馳せてしまうほどに、劇場での没入感や、観劇後の余韻が忘れ難い。アイルランドの首都・ダブリンを舞台に、失恋を機に夢を諦めかけた青年“ガイ”と、音楽を介して出会ったチェコ移民の“ガール”、そしてダブリンで暮らす個性豊かな人々との心の交流を、切なくも優しい眼差しで描き出した名作だ。
2007年に公開されたアイルランド映画『Once ダブリンの街角で』は、わずか2館での公開スタートが口コミで評判を呼び、全米、そして世界へと広がっていった。劇中歌「Falling Slowly」は第80回アカデミー賞最優秀歌曲賞を受賞し、繊細な心の揺らぎを捉えた旋律は今なお名曲として愛されている。ダブリンという移民の街を舞台に、人と人が音楽を通じて再生していく姿は、国境を越えて多くの人々の心に響き続けてきた。
その感動は舞台へと引き継がれる。
2011年にニューヨークで誕生したミュージカル版は、翌年ブロードウェイへ進出すると瞬く間に大評判となり、トニー賞で作品賞を含む8部門を制覇。さらにキャストレコーディングCDが2013年のグラミー賞でベストミュージカルシアターアルバムに輝くなど、音楽面でも栄光を刻んだ。同2013年には物語の舞台であるダブリンでも上演され、その後はロンドン・ウエストエンドへと舞台を広げ、2015年まで観客を魅了し続けた。
左から)ガイ役=京本大我、ガール役=sara
日本では2014年にEXシアター六本木での来日公演、2023年に東急シアターオーブにて海外プロダクションによるコンサート版も上演され、この度の上演が日本カンパニーによる初演公演となる。演出は、文学座の稲葉賀恵。ブロードウェイ版を考えれば、小劇場で上演されてもおかしくない作品だが、日生劇場という大劇場の空間に、美しく溶け込んで一体となるような、唯一無二の日本版を作り上げた。
左から)ガールの同居人・アンドレ役(Wキャスト)=榎木淳弥、ガイとガールから融資の相談をうけるバンク・マネージャー役=佐藤貴史、ガールに気のあるピアノ店の店員・ビリー役=小柳友、ガールの同居人で以前デスメタルバンドにいたシュヴェッツ役=新井海人、ガール役=sara
ミュージカルは総合芸術であり、どの側面も豊かであるけれど、また、原作映画と同じ音楽がこの作品の核であることはもちろんながら、日本版において特出したいのは美術。先端に電球が取り付けられた、無数の銀の棒状のセットがさまざまな光を作り出し、舞台を輝かせる。
その無数の光は、一人ひとりの命の輝きにも見え、それぞれの人生が煌めく様は本当に美しい。その中心には常夜灯のように一際印象的な光が灯っている。この物語の主人公・ガイの象徴でもあるのだろうか。カメラを通して舞台を覗き込むと、吸い込まれそうな感覚になって、その無数の光が夜空に煌めく星々のようでもあった。また、光が移り変わる様が本当に美しく、時の移ろいや、人生のさまざまな変化にも思いを馳せる時間にもなった。
その空間で、役者陣がリアルに鮮やかに生きている。ガイを演じる京本は、ギターの生演奏というハードワークもこなしながら、魂の叫びとも言える歌が鮮烈。不器用で才能のある“普通”の男を素朴に、でも、未来の可能性を秘めた輝きを煌めかせていた。
ガールを演じるのはsara。言葉で表現するのが難しいと思うほどに、舞台にリアルに生きる稀有な芝居力を持つ俳優だが、ガールの強さ、もどかしさ、愛など、本当に豊か。
小柳友、上口耕平、堅山隼太・榎木淳弥(Wキャスト)、佐藤貴史、土井ケイト、青山美郷、新井海人らが、ダブリンに生き、ガイとガールと出会う人々を色とりどりに演じる。
ビリー役=小柳友
アンドレ役(Wキャスト)=榎木淳弥(左)、スタジオエンジニアのエイモン役=上口耕平(右)
アンドレ役(Wキャスト)=竪山隼太(中央)
ガールの友人・レザ役=土井ケイト(右)
ガイの父親・ダを演じる鶴見辰吾、ガールの母・バルシュカを演じる斉藤由貴が、多くはない出番ながらも、大きな懐と、その存在感が舞台を締める。
ガイの父・ダ役=鶴見辰吾(右)
ガールの母・バルシュカ役=斉藤由貴
そして、小野寺修二のステージングが効いていて、主にアンサンブルが担うその動きは、ゴムが伸びたり縮んだりするように、止まったり動き出したりする。時が、感情が、人生が動き出すスイッチにも感じる。
人生は人とのめぐり合いの積み重ねで、そして時は止まることなく、前へ、未来へと進んでいく。そんな出会いが愛おしくなる、珠玉のミュージカルの誕生を喜びたい。
取材・文・撮影:岩村美佳
<公演情報>
ミュージカル『Once』
脚本:エンダ・ウォルシュ
音楽・歌詞:グレン・ハンサード/マルケタ・イルグロヴァ
原作:ジョン・カーニー(映画『ONCE ダブリンの街角で』脚本・監督)
翻訳・訳詞:一川華
演出:稲葉賀恵
【キャスト】
ガイ:京本大我
ガール:sara
ビリー:小柳友
エイモン:上口耕平
シュヴェッツ:こがけん(けがのため当面休演、新井海人が代役にて務める)
アンドレ:竪山隼太/榎木淳弥(Wキャスト)
バンク・マネージャー:佐藤貴史
レザ:土井ケイト
元カノ:青山美郷
MC:新井海人
ダ:鶴見辰吾
バルシュカ:斉藤由貴
【東京公演】
日程:2025年9月9日(火)~9月28日(日)
会場:日生劇場
【愛知公演】
日程:2025年10月4日(土)・5日(日)
会場:御園座
【大阪公演】
日程:2025年10月11日(土)~10月14日(火)
会場:梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】
日程:2025年10月20日(月)~10月26日(日)
会場:博多座
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/once2025/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2560764&afid=P66)
公式サイト:
https://www.tohostage.com/once/
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