広瀬すず×野田秀樹スペシャル対談:NODA・MAP新作『華氏マイナス320°』で描かれる“サイエンス・[フェイクション]”とは
(撮影:You Ishii)
野田秀樹が作・演出、そして自らも出演するNODA・MAPの新作舞台は「正しくない科学に基づいた、正しくないSF(サイエンス・フェイクション)」だそうだ。阿部サダヲ、広瀬すず、深津絵里をはじめとする豪華キャストが挑む、科学がフェイクの劇空間とは、はたして!? 開幕寸前までその中身はわずかなヒントをもとに想像するのみ、がNODA・MAP新作の常。今回は昨年の秋、まだ新作に関してまっさらな状態の広瀬と、脳内で構想が動き始めたばかりの野田によって行われた対談であることを含み置きいただき、広瀬の初舞台となった『Q』:A Night at the Kabukiを振り返る話題の中から、謎めく新作のヒントを探っていただきたい。
「舞台の怖さを取っ払ってやれた」『Q』:A Night at the Kabukiでの経験
――広瀬さんは、NODA・MAP公演『Q』:A Night at the Kabuki初演(19年)、再演(22年)に続く、今回が3度目の舞台出演になりますね。舞台の仕事は野田さんの作品に限定しているわけではないと思いますが……。
野田それはないです、って俺が答えてどうする(笑)。
広瀬でも、野田さんの作品は絶対にやりたい!という思いは強いです。舞台に感じていた怖さを全部取っ払ってやれて、楽しかった!と終えられたのが『Q』だったので。
舞台は、観ると「面白そう、楽しそう」と思うんですけど、やるとなると怖さを多少感じてしまうんです。でもNODA・MAPは怖くないな、という気持ちはありますね。
――舞台のどんなところに怖さを感じるのでしょうか。生の空間とか?
広瀬生であることはそれほど気にしていなくて、映像と舞台の表現の違い、作り方の違いなどがわからなくて難しいなと思っていたんですよね。
野田怖さを感じているようには思えなかったけどね。ただ、確かに稽古場の最初の頃は、何をどうしていいか分からなかった感じはあったね。もうじきすずちゃんの出番だな、どこにいるかな?と思っていたら、稽古場の奥ですでにスタンバイしていて、「ここでいいですか?」みたいな顔をしていたから(笑)。慣れてないから「きっとこの稽古場ではこんなふうに自分で感じて動くんだろうな」って思ってやったんじゃないですかね。
わざわざ聞かずに自分で感じてスッと動いていたのが、勘がいいなと思った。演出していて新鮮でした。確か、あんまりあがらない、緊張はしないって言っていたよね。『Q』では松たか子さんと一緒だったでしょ。彼女はああ見えて割とあがり症で、私もどちらかというと“松たか子派”なので。
広瀬本当ですか?それは嘘でしょ(笑)。
野田本当だよ。すずちゃんは、スタンバイの時、舞台袖でジョギングしてるからね。
私にはできない。
――舞台に対して怖さ、難しさを感じていたけれど、『Q』で果敢に初舞台に挑んだのですね。
野田ワークショップで出会ったのは、すずちゃんが20歳をちょっと過ぎたぐらいだったのかな。
広瀬21歳だったと思います。
野田『Q』で演じてもらったジュリエットの変形、愁ジュ里リ愛エ役に、イメージ的にピッタリでしたからね。本番も本当に素晴らしかったです。『Q』では最初の出番、10分くらい舞台上で布をかぶって待っているわけですよ。だから「これが本当の舞台の出方だと思わないでね」って言ったよね(笑)。
初舞台としてはかなり悲惨な出方だったと思う。
広瀬ハハハハ!
野田でもあそこで、あがり症じゃなかったというのは良かったのかもしれない。芝居が始まって、しかも舞台上に出されて10分近く待っているなんてあがり症だったら大変だよ(笑)。で、今回はすずちゃんに、罪ほろぼしで『Q』の時とは違う役を書きたいなと思ったわけですね。
“欲望の時代”にこぼれ落ちるものを描く、“人間の生命”の話
――では新作『華氏マイナス320°』について、現時点(取材時)でお話しいただけるところをぜひお願いします。
野田え〜これはいったいどういう話かと言いますと、基本的にはゲーテの『ファウスト』に似た雰囲気を持っているかな。あれはファウストが悪魔と契約して人間の欲望を満たしてあげる話ですが、我々は今欲望のままに、どんどんその欲望が満たされていく最先端の世の中に生きていますよね。その中で、たとえばいつまでも若くありたいとか、長く生きたいとか、そうした欲望の世界からこぼれ落ちている望みもあって、その部分を書いておきたいなと……漠然とした言い方ですが(笑)。
人間の生命に関わる話でもありますね。
広瀬今初めて聞きました。メモしておきたい(笑)。NODA・MAPの公演を観客として拝見した時って、いつも思わぬ展開にうわあ〜!となって、何かをずっしりと削られたような感覚とか、見たことのない景色や記憶がパッと入ってくる感覚になるんです。
野田すずちゃんはキーパーソン、いわゆるファウストを惑わす悪魔メフィストフェレスのポジションで、一応、人間ではありませんね。
広瀬え、それは確定ですか?
野田う〜ん、まあ確定……としつつ、最後のほうを今練っているところですね。おそらくメフィストフェレスのままでは終わらないかな、という感じですかね。
――阿部サダヲさん、深津絵里さんの役柄も気になりますが……。
野田深津さんはバイオテクノロジーを研究している教授ですね……と、役柄の情報はここまででいいですか?(一同笑)サダヲには「お前の最初の台詞はこうだよ」と話したら、「それ面白いですね!」って相当面白がっていました。
――本作は『Q』と同様に、国内ツアー公演のほかロンドンでも上演されますね。広瀬さんに、『Q』のロンドン公演での経験を振り返っていただきたいと思います。
野田再演の時だったよね。
広瀬経験がなかったから、いい意味で構えるものがないと言いますか、ロンドンの舞台にも立ててラッキー!みたいな感覚でした(笑)。最初の一言が、野田さんと顔を見合わせてギャーッて言うんですが……。
野田ギャーじゃないよ、うわあ〜!だよ。
広瀬すみません(笑)。
詳細な記憶は切り取られているんですけど、その時にアドレナリンがブワ〜ッて出てきた感じは体感として凄く覚えているんです。とにかく楽しかったですね。
野田すずちゃんはまず、舞台役者としての運動神経がとてもいいですね。動きの勘が抜群にいいので、「ちょっとそこは距離が近い」とか言わずに済みましたから。何らかを自分で感じて、こういう方向かなっていうふうに動けていた、ほとんどちゃんとやりきれていた気がします。今回の宣伝用のビジュアル撮影を見ていても、そんなにちゃんと考えているようには見えないんだけど……。
広瀬ハハハハ!野田ちょっとコメント入れるとコンってすぐに変わる、みたいな。ああいうのは何なの?
広瀬考えてはいないんですけど、何か言ってもらった方が楽に動けたりします。
野田天性って言葉で片付けていいのかわからないけど、瞬間的に動けたり、変われたりする。さっきアドレナリンって言っていたけど、パッとわかるんだろうね。あの始まりの「うわあ〜!」は作家として、彼女が初舞台だと知っていたので、私が相手役だから声を出せばやれるだろうと思って「うわあ〜!」と書いたんですね。それをちゃんと感じられていたと。その時は気づいてなかったけど(笑)、今思うと「アドレナリンを出せ!」という意味の「うわあ〜!」だったんですよ。
「野田さんにゼロから全部、教えていただいた」
――広瀬さんの、演劇人・野田さんの印象は?
野田お寿司は好きみたいですよね。(一同笑)
広瀬お寿司とワインが好きなのは知っていますけど(笑)。やっぱり、ものを見る角度の鋭さ、的確さを感じます。自分の表現と体に対する意識、お芝居とフィジカル的な部分とのバランスをしっかり指摘してくださるから、なるほど〜それは考えたこともなかったなと、自分も表現の視野が広がったように感じられるんですね。映像の世界にいると、とくに「力を抜いて」と言われることが多くて、スキのある芝居を求められると言いますか、私自身もそういう芝居をやりたいと思っていた人間ですし。でも舞台はまったく違う表現で、あのエネルギーの放出の仕方は、舞台に立たなければ絶対にわからなかったことですね。それを野田さんにゼロから全部、教えていただいたと感じています。
――初舞台の作品で確かな手応えを得られて、今回の2作目もどんな気づきがあるのか、楽しみですね。我々観客も、野田さんが放つ新たな問いを楽しみに受け止めたいと思います。
広瀬今はまだ想像がつかなさ過ぎて(笑)。これまでは正義感の強い、自分の力で生きてやる!みたいな女性の役が圧倒的に多かったので、人と絡んで駆け引きするとか、そうした感情のやりとりはどんな表現になるんだろうと……私も漠然と楽しみです(笑)。
野田レイ・ブラッドベリのSF小説『華氏451度』、あれは紙が燃える温度ですけど、華氏マイナス320°も何かが起こる温度ですね……ということでひとつヨロシク(笑)。
取材・文:上野紀子撮影:You Ishii
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受付期間:2月23日(月・祝) 23:59まで
詳細は こちら(https://lp.p.pia.jp/article/news/458588/index.html) から
<公演情報>
NODA・MAP第28回公演
『華氏マイナス320°』
作・演出:野田秀樹
出演:
阿部サダヲ広瀬すず深津絵里
大倉孝二高田聖子川上友里橋本さとし野田秀樹橋爪功
安東信助大村わたる近藤彩香白倉裕二谷村実紀田花遥
中澤聖子中島多羅八条院蔵人引間文香藤井颯太郎
間瀬奈都美的場祐太MISAKI森田真和吉田朋弘
〈スウィング〉横山千穂菊沢将憲
【東京公演】
2026年4月10日(金)~5月31日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
チケット一般発売:2026年3月8日(日) 10:00
【北九州(福岡)公演】
2026年6月6日(土)~14日(日)
会場:J:COM北九州芸術劇場 大ホール
チケット一般発売:2026年3月8日(日) 10:00
【大阪公演】
2026年7月22日(水)~8月2日(日)
会場:新歌舞伎座
チケット一般発売:2026年6月14日(日) 10:00
【ロンドン公演】(英語字幕あり)
2026年7月2日(木)~11日(土)
会場:サドラーズ・ウェルズ劇場
※『-320°F』として上演。
※日本国内でのチケット取り扱いなし。
公式サイト:
https://www.nodamap.com/kashi/