八生 × 丸山純奈、四国出身のふたりが対照的な歌声を渋谷に響かせた『ハチヨンナイト』完全レポート!「この冬を暖めるような空気感で幸せな1日」
Text:斉藤貴志Photo:るなこさかい
今夏クールのドラマ『完全不倫 -隠す美学、暴く覚悟-』のエンディング主題歌に起用された「しゅらばんばん」で絶大なインパクトを残したシンガーソングライターの八生(やよい)。高知在住で全国に活動を広げる中で、“八生が四国を盛り上げる夜”と謳うライブイベント『ハチヨンナイト』を東京・渋谷のライブハウスTOKIO TOKYOで開催した。ゲストに迎えたのは、徳島出身で路上ライブでの動員力が話題を呼んだ丸山純奈。対照的な歌声が一夜を彩るステージとなった。
丸山純奈
トレードマークの帽子をかぶり、ステージに現れた丸山純奈。透き通る歌声で「青い部屋」からライブをスタート。左手にマイク、右手を軽く揺らしながら、終わった恋の追想を言葉を紡ぐように歌い上げていく。きらびやかなトラックに乗せた「ラムネ」では、上手、下手、センターと少しずつ動いて、しなやかで伸びやかな歌を聴かせる。
夏の思い出が描かれた1曲。サビでは観客と共に手を左右に振り、さわやかな空気感が会場に漂った。
満員のフロアを見て「めちゃめちゃギューギューでいい感じ」と微笑んでMC。「四国から来たよ、って人は?」と問い掛けると、何人か手が挙がった。「徳島は自然がいっぱいで阿波踊りが有名……というくらいですけど、私は大好き」とも。
トークはフワフワした感じで和むが、丸山は中学時代から全国放送のオーディション番組で優勝してきた気鋭のシンガー。「徳島の歌うま中学生」として知られ、高校生になって上京し、一昨年から素性を隠して路上ライブを行うと、新宿駅前で300人以上を集めるほどになっている。ギターを掛けて歌ったのは「おにごっこ」。
ストロークで弾き語るミディアムバラードで、叶わない恋心を淡々と綴りながら、想いが熱を帯びて胸に染み渡った。
昨年10月に1stデジタルシングルとして配信された「シツレンカ」も、「あぁこれが失恋か噂でよく聞く失恋か」と切なさが琴線を震わせる。一転、「手拍子をお願いします」と呼び掛けた「満ちて欠けて」は、ピックをアップダウンさせる16ビートのリズムで軽快な聴き心地だ。ギターを置いてハンドマイクを握り、「元気な曲なので好きにノっていただけたらいいかな」と、配信限定シングル「恋知らず」を披露。歯切れの良い躍動感に、ファルセットを織り交ぜたボーカルは澄み渡っていて、心が浄化されるよう。天使とも例えられた丸山の歌声が、路上で通りすがりの聴衆も魅了してきたのはよくわかる。
「次で最後です」と告げて再びギターを肩に掛けると、「今日のライブにピッタリな曲だと思うんです」と語り始めた。「上京して初めて作った大事な曲になります。
徳島県という緑豊かな場所から出てきて、渋谷に通って曲を作ったり、ギターを練習していた時期に、いろいろな感情を持って出来上がりました。自分の帰る場所を思い出して聴いていただけたら」ギターをポロロンと弾いて歌い出したのは「この街」。《わたしははみ出ないようにだけど染まらないようにどこか寂しげなこの街の一部になっていく》と素朴な心象風景を映しながら、静かな決意も込められて胸を打つ。丸山純奈の歌声をずっと聴いていたくなった。
八生
しばしのインターバルを経て、八生が拍手に迎えられ、「どうも。どうも」と登場する。ギターをかき鳴らし、1曲目から「しゅらばんばん」で攻めてきた。日本テレビで仁村紗和と前田公輝がW主演したドラマ『完全不倫 -隠す美学、暴く覚悟-』のエンディング主題歌。
毎話クリフハンガーの修羅場シーンなどで流れて物語を盛り上げた。
天井の青と赤のライトが点滅する中、ジワジワ迫りながら《ばん(Bomb!)ばんばんばんばんばんしゅらばん(Shoot a Bomb!)》のリフが耳を突き、「あんたら二人を○すのかあんたをこの手で○すのか」と切っ先鋭く刺してくる。続く「おまえらミュート!」も強いビートにどっしり構えて歌い、グイグイ来る迫力で魅せる。今度はライトが赤と白で点滅。SNS社会にブッ込んだ曲で、《スマホ落として割れちまえ!》とドスの利いた絶叫も。間髪入れず、「運命的ヒエラルキー」は気だるいトーンで、劣等感をひとり言のように歌った。
「ハチヨンナイトへようこそ!」と挨拶し、「友人に『東京でやるで』と言ったら、『高知でまずやれや』とブチ切れ気味のLINEが入ってきました」と笑わせつつ、「四国出身のふたりが大都会、東京で歌うことに意味があるのかな」と語る。「1曲目から○すじゃ何じゃと(笑)、ドロドロした歌を歌うのが八生と覚えてくれたら」と言いながら、「次はほんわかした歌を」と切り出した。
「昔から大好きな高知の食べ物がありまして。地元のお肉屋さんのコロッケで、すごくおいしいんです!お店の方に断りも入れずに作ったCMソングです(笑)」そう紹介して歌ったのは「まるいコロッケのうた」。ギターをミュートさせながら軽やかに、《横倉山に日が落ちる》《国道沿いのお肉屋さん》《松田さんのコロッケ》と地元感たっぷりで微笑ましい。続くバラードの「豊かな心で」は地元を離れた生活をうかがわせ、《だから言ってほしい帰っておいでと》とサビで声を張り、深々とした哀感が漂う。シニカルと繊細さ。八生の多彩な音楽性とボーカル力をうかがわせる前半だった。
MCでは初めて東京に来たときのエピソードを披露。高校1年のとき、オーディションを渋谷で受けたという。
「とんでもない人の量、建物の高さに圧倒されながら会場に向かうと、狭いフロアに100人か200人が詰め込まれていて。静かな空間の中で発声練習をしてマウントを取ったり(笑)、野心むき出しだったんですけど、友人がくれた手紙を読み返したら、『みんなライバルやけど同士やき、仲良くせないかんで』と。それで隣のお姉さんに『こんにちは』と挨拶したらガン無視(笑)。1時間半待機したオーディションでも、一番聴かせたいところで声が裏返る失敗をしました」その後、「惚れた人にもオーディションにも選ばれない日々を送っていた」という中で、テレビで丸山純奈が歌う姿を目にしたとのこと。「こんなかわいらしい子が柔らかくてやさしい声で素敵な表現をするんだと、刺激をもらいました。オーディションを受け続けて落ち続けながら、ここまでやってきて。純奈ちゃんをお呼びして、高校1年のときに悔しい思い出を残した渋谷で、ハチヨンナイトを開催できてうれしいです」
そして、10月からの3カ月連続リリースの締めとして12月17日(水)配信の新曲「オニオンスープ」へ。ギターを置いてピアノの伴奏から、スタンドマイクを両手で掴んで切々と歌い出す。
失恋して泣いているのを玉ねぎを切っているせいにして……というバラード。丸山と八生はボーカルのスタイルは対照的だが、リアルな生活感が曲に込められるのは通じる気がした。
ギターを弾いてメロディアスな「はじまりのうた」と、しっとりした2曲を続けたあとはラスト3曲。「ちょっと早めのクリスマスソングをお届け」と奏でた「ブラックサンタクロース」は、シャンシャンと鐘の音が鳴り響きながら、《今年のクリスマスは中止になりましたなのでツリーもイルミネーションも撤去してください》と八生節全開のナンバー。ブラックサンタは陽キャを拐いにやってくる、ぼっちを救いにやってくると盛り上がった。ポップでパンチの利いた「線」から、最後は「クリスマスがお誕生日のあの方も、汝の敵を愛せと言うておりました。腹立つクソ上司もムカつくお局様も、みんなとまとめて愛してやろうぜ!」と煽って「大感謝祭!」。四つ打ちのリズムでギターを弾きながら跳ねて歌い、ノリノリでゴキゲン。会場から手拍子が送られ、「さぁ、行こうか!」と世界を繋げる歌詞のままに一体感も高まって、大団円のフィナーレとなった。
アンコールを受け、八生が帽子とライブTシャツで再びステージに。丸山を呼び込むと、ふたりが同じいでたちで並ぶ。丸山に「かわいい」と声援が上がり、八生は「私にも言って(笑)」とねだった。ハチヨンナイトが決まってから、大阪でのイベントに共に出演した際、八生が「ご挨拶を」と丸山の楽屋に突撃したそう。「めっちゃ喋りましたよね」(丸山)、「学生の頃から観ていたかたなので、この機会を逃すまいと」(八生)という中で、何か一緒に歌えないかという話も出たとか。そこで挙がったのが八生の「線」。いい子でなければ嫌われて、イヤとなったら遠ざけられると、他人と自分の境界線に悩むこの歌を、丸山は「共感できる」とリピートして聴いていたという。八生のライブ本編でも歌われたこの「線」を、アンコールにふたりでデュエット。八生がギターを弾いて頭サビを歌い出し、丸山がAメロを柔らかく歌って、引き継いだ八生は芯の通った声で力強く。サビのハモリでは溶け合うというより、ふたつの色が並行して流れるようだった。
歌い終わると、丸山が「ふたりのファンの皆さんがこの冬を暖めるような空気感で、幸せな1日になりました」と語り、八生は「もう1曲くらい歌いたいねと話しておりまして」と続けた。丸山が八生のインタビューを読んでYUIを好きだと知り、「TOKYO」を提案。ふたりとも思い入れがありカバーしたこともある曲として、選んだとのこと。「歌詞がめちゃめちゃ刺さります」(丸山)、「一緒に歌うのにピッタリ」(八生)とオーラスに披露された。八生がアルペジオを奏で、また交互に歌い継ぐ。しっとりした情感で聴き入らせ、サビでは丸山の上パートと八生の低音が重なって、流麗なハーモニーとなった。この夜にしか聞けないデュエットは観客の記憶に焼き付いたはずだ。
笑顔溢れるフロアをバックに並んで写真を撮り、八生が「最後まで楽しんでいただきまして、ありがとうございました。またお会いしましょう」と告げる。ふたりは名残惜しげに「バイバーイ」と手を振ってステージをあとにして、『ハチヨンナイト』の幕が下りた。
<公演概要>
『ハチヨンナイト』
2025年11月30日東京・渋谷TOKIO TOKYO