THE ORAL CIGARETTES、思考を飛び超えるスピードで爆走した『ERASE the Border Tour』ファイナル公演【オフィシャルレポート】
Photo:Ryotaro Kawashima
THE ORAL CIGARETTES『ERASE the BORDER TOUR 2026』のファイナル公演が、3月24日東京・Zepp Hanedaで開催された。この日の山中拓也の言葉を借りれば「近いところにいるのに、意外と一緒にやってこなかったバンド」「出会ってから長いのに、最近対バンすることがなかったバンド」とのツーマンライブを各所で開催してきたツアーである。ファイナル・Zepp Hanedaでの2デイズのゲストには、My Hair is Badを招き、フェスやイベントでの共演を除けばおよそ10年ぶりの対バンライブとなった。
そもそも『AlterGeist0000』のフェーズ以降のTHE ORAL CIGARETTESは、「OVERNIGHT」と「ERASE」をリリースしつつも改めてライブを活動の基盤に据えてきた。昨年9月の時点でこの『ERASE the BORDER TOUR 2026』を発表し、さらに同年12月にはホールツアー『Home Sweet Home TOUR 2026』もアナウンス。全国の小規模なライブハウスを細やかに回るシリーズ『WANDER ABOUT 放浪 TOUR』の東北編も並走し、この日のライブ中に山中から明かされた通り、メディアが主催する夏フェスの出演は断って、ひたすら自分達主体のライブを繰り広げる予定だという。
ライブを重視するスタンス自体は今に始まった話ではないが、それでもここまで徹底してオーラル主体のツアーに明け暮れることは近年なかったはずだ。こういったライブ連打のスタンスから読み取れるのは、オーラルのオーラルによるオーラルのための活動に没頭しようとするモードである。
コロナ禍の最中でロックの衰退に危機感を覚え、コロナ禍によって切断されたライブハウスシーンを再建することを目指してライブハウスツアーに明け暮れ、先輩・後輩を問わず仲間を巻き込んでロックシーンの旗を振ろうとしてきたのが『AlterGeist0000』に至るまでのオーラルのモードだった。
「作品ごとに拡張してきた音楽性をロックに凝縮する」というテーマで制作された『AlterGeist0000』はオーラルの一旦の集大成であったと同時に、シーンの起爆剤としてドロップされたものでもあったわけだが、その活動の中で実際にオーラルはシーンを背負う存在として多数のフェスで大トリを担う存在になり、ロックシーンの存在を誇示することを企図するからこそ他ジャンルとの垣根を取っ払う動きも活発化させていった。要はシーンを背負う覚悟のもとに動き続けてきたのがこの数年のオーラルであり、自身の「家」を太く強く逞しくしていくことを第一義にしてメッセージを発し続けてきた。
その上で昨年の終盤から立て続けに発表されてきたのがこの『ERASE the BORDER TOUR 2026』であり、夏から秋にかけて走り出すホールツアー『Home Sweet Home TOUR 2026』であり、そして人の場所ではなく自分達の場所でライブを続けていくという意志である。改めて自分達の楽しいことをテーマにして、もっと言えば自分達を愛してくれる人々と共に場所を作り上げることを目指して動き続けている。このツアーを「近いところにいるのに、意外と一緒にやってこなかったバンド」「出会ってから長いのに、最近対バンすることがなかったバンド」と共に回ったのも、オーラルにとってもシーンにとってもタフな季節をくぐり抜けたからこそ、成長した姿で邂逅を果たしたい人々がいたということだろう。この日のゲスト・My Hair is Badもまた、3ピースという最もソリッドなバンド形態でありながら作品ごとに音楽性を拡張し続けてきたライブ生命体である。お互いのライブで刺し合うアグレッシヴな対バン精神は昔と変わらず、しかしお互いの音楽的・人間的な変化を楽しみながらステージ上で音を発し続ける2バンドの姿が印象的な1日だった。
実際、My Hair is Badの椎木がステージで発した「人を傷つけてばかりだった俺が、ちょっとずつ大人になって。人を変えられるなんて思い上がり、だけど自分は変えられるんじゃないかなって」「足るを知るってこと。本当はもう、大事なものは自分の心の中にあるんだよ」という言葉達はマイヘアにとっての円熟と新しい衝動の在処を表していた。あの頃と変わらず蒼い疾走感を放つ「アフターアワー」、それに対して、時が経つほどに"痛い思い出"が温かな人生の跡として響くようになってきた「真赤」、緩やかなリズムに身を委ねながら今あるものを丸っと受け入れていく生活の歌「ここで暮らしてるよ」などを筆頭に、時を重ねる度に変化したり深化したりする音楽の不思議さと、あくまで人間表現だからこその極端な振り幅が終始鳴り続けていた。
「フロムナウオン」の途中で椎木が叫んだ「キモくなろうぜ!その歪さがAIをも超える!キモさで空を飛ぶ!」という言葉は、バンドがライブに明け暮れ、人々がライブに集ってぶつかり合う理由をズバリと言い表していた。悲喜こもごも、愛憎、生きたいと死にたい、希望と絶望。その全部を矛盾ではなく自分自身の輪郭にするために人々は歌を歌い、叫ぶのだ。
そしてTHE ORAL CIGARETTESのライブは、ひたすらアッパーに上げ続ける獰猛なセットリスト。
「SNSとかで(前日までの)セットリストがバレてるかもしれないですけど、間のちょっと落ち着くところは全部削ったんで。全部上げていきます!」というMCの通り、しっとりとした楽曲は一切なく、跳んで叫んで拳を掲げるためだけと言ってもいい全12曲だった。オープニングは最初期の楽曲「mist…」。今となっては<ライブの場では、何も我慢する必要はない>というメッセージに聴こえてくるから不思議である。これもまた、歌う人間・鳴らす人間によって歌が形を変えていくことを表している。感情の扉をこじ開けろ。そんなふうに語りかけるオープニングだった。
さらに「嫌い」、「Mr.ファントム」と続け、ここには、デビュー当時の楽曲がいかに変化したのかを提示する意図も込められていたはずだ。
実際「Mr.ファントム」はリリース当時に聴こえていた跳ねた感覚よりも、つんのめる寸前のスピードで前に突進していくような推進力を感じさせるものになっていた。音の一つひとつが粒立って耳に飛び込んでくる抜群の音響も、楽曲の土台というよりも曲をプッシュして押し出していく役割を担っているリズム隊の妙技も、成熟の向こう側の新しい衝動というか、技術をベースにしたフレッシュさを楽曲に宿している。こうして曲の歴史を再訪するセットリストも、上述したオーラルの現在の活動スタンスに直結するものだろう。自分達の歴史をファンと共有し、変化を認め、進化を面白がり、それによって自分達の歩んできた道をさらに未来へと繋げていく。自分達の場所を自分達自身で豊かにしていくバンド活動。その想いは、コロナ禍以降に山中が一貫して語り続けてきたことだ。それをまさに体現せんとする今のオーラルであり、ライブである。
「10年前くらいかな、どっかのフリーマーケットで買ったデニムがあって。
でもひとつだけ買うのを躊躇したポイントがあって、腰のところに変な刺繍が入ってたんです。だけど色褪せ具合とかが気に入ったから、買ったんですよ。で、そのデニムを10年間履き続けてきたんですけど、この前それを履いて歩いてたら、前からめちゃくちゃコワモテのおじさんが俺のほうに歩いてきて。『そのデニム、どこのや?ちょっと後ろ向いてくれ』って言うんですよ。それで後ろ向いてデニムを見せたら、『それ俺のや』って言われて(笑)。そんなことある!? っていう話ですけど、生きていたらそういう奇跡的な出会いがあるし、時間が経てば経つほど出会いの熱量って上がっていく気がするんです。My Hair is Badと俺らも、出会って10年が経ちました。椎木が悩んでいる時も話を聞いてました。
でも、この10年で今日のマイヘアが一番カッコよかった。10年間、出会いを温めてくれてありがとう。……音楽っていうものは、同じ曲だとしても、同じ人が歌っていても、歳を重ねた時に変わって聴こえることがある。変わらないことが正義じゃなくて、変わった上で変わらない芯があることやったり、その芯が見えたりする瞬間こそが美しいと思います。だから音楽というのは、『その時だけ好き』みたいな流行りものとしてポイされるものじゃないんです。TilTokのバズとか何でもええけど、そんなもんはすぐポイされる。そんなん、面白くないで。10年経った後に青春を思い出せる曲もええし、その人が10年後も歌っている姿を観て『この人の生き様カッコええな』と思うのもええ。
それこそが音楽の素晴らしさだと思う。誰かがいいと言ってるからとか、流行ってるからとか、そういうことじゃなくて、あなたが好きになってあなたが嫌いになったものを大切にしたらいい。もし多数派に囲まれて自信がなくなった時でも大丈夫。そういうお前らの邪念を俺らが消し去ります」
そんなMCからプレイされた「ERASE」はまさに、「狂乱 Hey Kids!!」や「BLACK MEMORY」を新たに塗り替えんとするような新・オーラルの王道である。メロディと並走するようにピロピロと飛んでいくギターフレーズなどオーラルのシグネチャーは健在だが、大きく変わったのはその歌の視座だ。自分の想いを誰かに繋ぐこと、その想いが目の前の人を動かして、また人と人の繋がりが続いていくこと。永遠に傷つけ合いが止まない世界を憂いながらも、だからこそ人それぞれの感情を大切にして生きていくことを願う。そんな想いが今のオーラルの心臓たるエモーションになり、このライブを獰猛なほどに走らせているのだ。
「昨日のライブ終わりに加湿器を買いたくて、中目黒のドンキホーテに行ったんですよ。そしたらドンキの目の前の桜が満開になっていて。でも、街行くみんなはびっくりするくらい桜を見てなくて。俺、ああいうのはよくないと思うんですよね。スマホを見て、ここにある桜に気づかない。むしろ気づいてる上で見てないんやったら、もっとヤバいと思う。あなた達は、今目の前にあるものをしっかり見て帰ってください」という言葉もあったが、今ここにあるものを大切にして、自分が目にしているものを大事にすることを訴えるからこそ、外界の喧騒というノイズをかき消して真っ白にするセットリストを組んだのだろうなとも思う。
「狂乱 Hey Kids!!」、「DIKIDANDAN」、「DUNK feat. Masato (coldrain)」と続けたブロックも、「カンタンナコト」から「BUG」へと繋いでぐちゃぐちゃのダンスを巻き起こしたセクションも、そしてアンコールで披露された「GET BACK」も、まさに『ERASE the BORDER』の言葉の通り。自分の大切なものを阻害してくる壁を超え、外野からの喧騒を意に介さず走るための起爆剤がこの音楽であり、頭を真っ白にすることから本当の自分をゲットバックするのだというメッセージが終始一貫していた。
「自分の目で見て、自分で判断して欲しい」という旨の言葉を山中がたびたび口にしていることも印象的だったが、この言葉はデビュー当初のオーラルが常々口にしていた看板文句である。これもまた、改めてオーラルの精神性と目の前の人との関係性を強固にしていきたい気持ちの表れなのだろう。誰も自分の大切なものを奪えはしない。自分の心は自分のものだ。言葉にすればたったそれだけだが、不合理なものを排除して整えられていくばかりの世界に対して、人間の不合理性こそが人間を人間たらしめるのだという根本をロックバンドは証明し続けている。そしてオーラルは、まさにその感情を肯定する人間集団として巨大になり続けている。そんなことを真っ向から表すライブだった。
Text:矢島大地Photo:Ryotaro KawashimaTHE ORAL CIGARETTES オフィシャルサイト
https://theoralcigarettes.com/