「この映像は心を動かされます」樋口真嗣が語る『サンダーバード55/GOGO』
本日から日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』が劇場での上映を開始し、明日からオンラインでも上映開始となる。本作は1966年に英国で誕生した名作『サンダーバード』を若いスタッフが当時の手法を駆使して甦らせた3つのエピソードを元に、日本独自の劇場版にした新作映画だ。日本語劇場版では樋口真嗣氏が構成を担当して、3つのエピソードにイントロダクション、エピソードの合間の映像、カーテンコールを追加。樋口氏は「ストーリーをまとめるのではなく、今のお客さんが作品を体験してもらう上で一番いい形になるような額縁を付け足した」と語る。
『サンダーバード』は、スーパーマリネーションと呼ばれる撮影手法を用いて描かれる特撮人形劇で、国際救助隊を結成したトレーシー一家が様々な難局に立ち向かう姿が描かれた。精巧に作られたセット、心躍るメカの数々……初放映時はもちろん、現在も新たなファンを生み出している伝説的なシリーズだ。
本作では新たなスタッフが当時の制作手法や精神を忠実に再現している。「同じように見えるかもしれないんですけど、英国の『サンダーバード』をやっている人たちと我々の特撮とでは決定的に違うところがあるんです」と樋口氏は説明する。
「メイキングを見ていただくとわかると思うんですけど、『サンダーバード』のセットは驚くほど狭いんです。横幅はあるんですけど、前後というか奥行きがなくて、絵を空に見立てるホリゾントからカメラの位置までがほとんどない。被写界深度といって、カメラのピントの合う範囲がそれほど広くないので、奥行きがあればあるほど画はボケてきてしまう。日本の場合だと前後の動きを作りたいので大きなセットを組んで、とんでもない量のライトをあてることで絞りを調整しているんですけど、イギリスの場合だと可能な限りピントの合う範囲でセット作る。そういう制約の中でできることをやるのがイギリスの特撮のスタイルで、この映画でもそれをちゃんと再現しているのはすごいと思いました。
これは“こだわり”とかではなくて愛というか……これが大好き過ぎるんでしょうね(笑)。これまでも何回か『サンダーバード』をやろうと実写映画になったり、CGのアニメになってきたわけですけど、やっぱり『違うな』と思ってしまう。オリジナルの持っている破壊力というか、『サンダーバード』は我々の好きな映画の常識とは少し違うところにあるものだと思うんです。
人形をつかって、ここまでドラマをちゃんと作ろうとした人たちはいなかったわけで、アメリカ映画の大作がやるようなことを人形劇でやろうとしていた。そういうことをやっていた人が過去にいて、それを観て育った人たちが同じことをやろうとしている。そのことが素晴らしいと思うんです」
樋口氏も2012年に東京で「館長 庵野秀明 特撮博物館ミニチュアで見る昭和平成の技」が開催された際、かつての特撮技術を駆使した短編映画『巨神兵東京に現わる』を手がけた。
「僕も同じモチベーションで『巨神兵…』をつくったわけですけど、かつてと同じ技術は使おうとしたけど、かつてと同じものを作ろうとはしなかった。何かを再現するということではなくて、昔の技術を使って、どこまで新しいことができるのか? 新しいイメージを見せることが自分たちが掲げたお題目でした。でも、この映画は昔と同じことを完全に再現してますし、それが許されることもすごいですよね。だからこの映像は感じ入るものがあるというか……心を動かされますよね」
日本語劇場版“構成のポイント”は?
樋口真嗣氏
だからこそ、本作では監修でも演出でもなく“構成”として参加した。
「構成をする上では基本的に3本のエピソードはいじらないし、演出的に何かするのではなくてそのまま見せたいと思いました。
でも、その3作を団子にしても“伝わりきらないもの”があるわけですよね。特撮博物館でもあの『巨神兵…』よりもメイキング映像を見せたいと思ったんです。それと同じように、なぜこれが作られたのか? この手法を使うことのどこが良いのか? をちゃんと文脈に沿って伝えていかないと誤解をまねく可能性があるので、誰がどういう想いで作ったのかを含めて作品にした方が良いと思いました。
そこで本編が始まる前に“プレ・ショー”のような映像を入れて、途中にもかつての『サンダーバード』の魅力を凝縮したものを観ていただく構成にして、ストーリーをひとつにまとめるのではなく、今のお客さんにこの作品を体験してもらう上で一番いい形にする額縁というか、リーダーのようなものを付け足していただいたということです」
「特撮博物館」の開催時にはかつての特撮作品で使用された模型や資料が大量に展示され、それらは次世代に継承する貴重な遺産として、現在も修復・保存が進んでいるが「歴史や記憶はすり減っていくものだからこそ、残していくことが大事」だと樋口氏は言う。「自分でも過去の手法でやってみたいことはいくつかあるんです。それは”何でこんなことをやっていたんだろう?”ってこともありますし、“なんでもうやらなくなってしまったんだろう?”ってこともあって、『ガメラ』の頃にはそんなことにトライしてみて、もうやらなくなったものはちゃんと理由があるんだなってことがわかったりもしたんですけど、やってみなきゃわからないこともある。そういう意味でも海のむこうで今回の『サンダーバード』のようなことをやっている人がいることはすごいうれしいことだし、それを映画館で上映しようと思う人がいることもすごいですよね。
というか、そもそも『サンダーバード』自体のそもそもの成り立ちが少し変わってるんですよ。
普通はやろうとは思わないようなことをやっちゃったって部分があるので、こういうものはちゃんと残しておいた方がいいと思うんです。記憶はすり減っていくものなので、いつかはこれがなぜ人形だったのかもわからなくなってくるかもしれない。そのためにも歴史としてちゃんと残していくのは大事なことなんだろうなと思います」
今回の日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』は、かつてシリーズを楽しんだ人はもちろん、初めてシリーズを観る人も作品の魅力やその背景、作り手たちの想いや考えがわかる構成になっており、偉大な作品を愛し、研究し、次の世代に残すファンが増えることになりそうだ。
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