奥田民生3年ぶりのソロツアーで魅了した普遍的なメロディと最強の歌声 終始ハイボルテージだった三茶の夜をレポート!
Photo:三浦憲治
Text:兵庫慎司Photo:三浦憲治
3月28日・29日、東京・昭和女子大学人見記念講堂にて、奥田民生(以下OT)のライブが行われた。1月7日に新しいEP『あまりもの』をリリースし、その4日後からスタートした(が、この作品のリリース・ツアーというわけではない、とのこと)、ソロとしては約3年ぶりの全国ツアー『奥田民生「MTRYツアー2026“春 Ooh La La”」』、全18本のファイナルが、この人見記念講堂での2デイズである。という予定だったが、2月20日〜3月7日の倉敷・京都・名古屋・仙台の4本が、本人の体調不良で延期になり、7月6日から9月14日の間に、振替公演が行われることになった。なので、それまで内容を知りたくない方は、読むのを避けていただければ、と思います。以下、その2デイズのうちの2日目、WOWOWで生中継と全国の映画館でライブビューイングも行われた、29日のレポートをお届けする。
この日に演奏されたのは、本編18曲・アンコール2曲の全20曲で、尺は2時間。『あまりもの』からは、「うちょうてん」(5曲目)、「僕的地」(7曲目)、「スピード」(14曲目)の3曲が披露された。2デイズの1日目=前日のセットリストと異なったのは、8曲目で、前日は「いつもそう」が演奏されたが、この日は「フロンティアのパイオニア」だった。
ツアーのクレジットやツアーロゴ、効果映像などを映し出すLED画面が、後方上部に掲示されたステージに、下手からMTR&Yのメンバー、キーボード斎藤有太・ベース小原礼・ドラム湊雅史・ボーカル&ギターの奥田民生が順番に登場。「スルドクサイナラ」「解体ショー」「ライオンはトラより美しい」と、シャープなギター・リフの3曲をたて続けに演奏し、ライブがスタートする。「はい、こんばんは」と挨拶し、オーディエンスの拍手の長さに「なんですか? 三茶はお祭りですか?」と反応するOT。「桜も満開、ちゃんと“春 Ooh La La”になりました」。確かに、ツアーが始まった時の“春”は「新春」の“春”っぽかったが、この2デイズは、まさに季節としての“春”である。会場から近い三軒茶屋の遊歩道や目黒川は、この2日間、花見客でいっぱいだった。
OTの攻撃的なギター・リフに合わせて斎藤有太がカウベルを叩く「ギブミークッキー」、歌詞の中の「匠」から作られたロゴがLED画面に映し出された「うちょうてん」、シンプルなリズムだけに湊雅史の豪快なドラムが魅力的な「みんな元気」、間奏で小原礼がソロを聴かせてOTのギター・ソロにリレーした「僕的地」──と、4曲目から7曲目の間で、『あまりもの』から2曲が演奏される。先にも書いたとおり、前日の「いつもそう」から替わった8曲目「フロンティアのパイオニア」と、「カヌー」と双璧をなすセクシャルなリリックの「音のない音」が終わったところでも、客席からは、やはり、大きく長い拍手が響いた。
ご存知のとおり、OTは、一回のライブの中で頻繁にギターを交換するし、一度替えるとそのギターで3〜4曲弾くこと多いが、10曲目の「The STANDARD」は、この1曲のためだけに、赤と白の2トーンのSGに持ち替えた。この日唯一の……というか、すべてのレパートリーの中でも数少ない、バラードのラブソングだから、そのギターの音を必要としたのかもしれない。「全然うまくならない」「誰が考えたんだこんなもん(←ハープを顔に固定するホルダーのこと)」などとぼやいてから、イントロや間奏でハープを吹きながら歌った「マイカントリーロード」では、この日初めて、LED画面が、ステージ上のメンバーを映す、いわゆるサービス映像の状態になる。
なお、前日の同じタイミングでは、ハープのホルダーを装着しながら、「(吹くのは)5年に一回ぐらい。ちっともうまくならない。あと、ちっともうまくならないの代表が、『イージュー★ライダー』のイントロ(のギター)です。何回弾いてきたでしょうね。成功率は1割5分」。
イントロの頭の1/2小節、ドラムのフィルと合わせて弾く、あのフレーズのことである。そんな、言わなくてもいいことを言ったおかげで、この日のアンコールの最後で「イージュー★ライダー」を始める時は、見つめ合い、タイミングを測り合うOTと湊雅史の姿に、客席に緊張が走った。が、この日は、その1割5分の方になって、きれいに決まった。
小原礼
斎藤有太
湊雅史
淡々としつつも軽快につっ走る「何と言う」、1960〜1970年代のハードロック的なバンド・サウンドがたまらない「フリー」を経て、OT、例の、「買った時は『クルマが買えるギター』で、今は『家が買えるギター』」である、1959年のギブソン・レスポールに持ち替える。そのギターを弾きながら次に歌った「スピード」も、『あまりもの』からの曲だ。アウトロの「♪シャラララ ラララララ」で、OTはオーディエンスをアジテーション、それに応えて、客席に大きなシンガロングが広がった。
OTによくある、「シングル・リリースしたが次のオリジナル・アルバムには入らなくて、ずいぶん経ってから編集盤とかに入る」タイプの名曲のひとつである「MANY」で、ちょっとクールダウン。したと思ったら、間髪を入れず、疾走感に満ちた「サウンド・オブ・ミュージック」と、キーボード→ベース→ドラム→ギターとソロ・プレイを展開していくインストゥルメンタルで、客席は拍手喝采。
次の「MTRY」で、ステージから放たれる熱も、それを受け止めるオーディエンスの熱も、この日の最高温度に達した。最後のラインの<バンドは今夜も ここでやってるぜ>を、OTが<三茶でやってるぜ>と変えて歌うと、ワッと歓声が上がる。しかし。ここでピークを迎えて本編終了、ではなく、この次に用意されていた本編ラストの曲は、「意外な言葉」だった。井上陽水奥田民生の2枚のアルバムのうちの先の方=1997年リリースの『ショッピング』の収録曲である。OTソロのライブで歌われることは極めてレアな(下手したら初ではないかと思う)、スローで渋くてせつないこの曲で、本編を締めたMTR&Yに、オーディエンスはまた、大きな拍手を贈った。
そして。オーディエンス、ここからがすごかった。
アンコールを求める手拍子も歓声もとんでもないボリュームで、挙句「民生!」コールが起きるという、(OTのライブとしては)異常な事態になったのだ。「昨日と違うね、なんか。いつもより拍手が長い。今日は(WOWOWで)放送している、っていうことで、お客さんが『盛り上がってる感じにしないと』という。でも、本編が終わると『……(シーン) ……』ってなって、俺らが出て来ると『あ、出て来た』って(立ち上がる)。我々が、歓声を(ステージの)横で聴いて『しょうがない、行くか』みたいな感じじゃないのよ」6曲目「みんな元気」と7曲目「僕的地」の間のMCで、OTがそんなことを言ったせいである。そのMCで大笑いしていたオーディエンスによる、大手拍子&大歓声&大「民生!」コールを受けて出て来たOT、「わざとらしいよ!」。そしてアンコールは、OT内ヒット歴の2位と1位、「さすらい」と「イージュー★ライダー」。
フェス等では演奏するが、ワンマンではやらないこともめずらしくない2曲を、続けてオーディエンスにプレゼントした。「また次のツアーでがんばります」と挨拶してから「さすらい」に入ったOTは、その「さすらい」でも、次の「イージュー★ライダー」でも、「はい東京!」「はい三茶!」と、サビを、オーディエンスのシンガロングにまかせた。
これ以降の、2026年の奥田民生は、まず、最初にも書いたとおり、このツアーの延期になった日の振替公演が、7月6日〜9月14日の間に、4本ある。そのほかにも、4月5日(日)にSMAのイベントでZepp Haneda、4月28日(火)にFM COCOLO『SUPER J-HITS RADIO』の30周年イベントで大阪フェスティバルホール、5月13日(水)にPUFFY 30周年記念ライブでLINE CUBE SHIBUYA、5月17日(日)にSGCホール有明のオープニングイベントでウルフルズとツーマン。それから、8月22日(土)から9月11日(金)までABEDON AND THE RINGSIDEのツアー4本。ユニコーンでは、7月29日(水)・30日(木)にパシフィコ横浜でABEDON還暦祭、9月19日(土)にフェス『中津川WILD WOOD 2026』に出演。というように、今年も多数のライブが控えている。また、2025年の11月から12月にかけて行ったツアー『名盤ライブ「30/奥田民生」@LINE CUBE SHIBUYA』が、ライブBlu-rayとして、5月27日(水)にリリースされる。
<公演概要>
『奥田民生「MTRYツアー2026“春 Ooh La La”」』
3月29日 東京・昭和女子大学人見記念講堂