50年の節目を祝う「猿若祭二月大歌舞伎」開幕 古典から舞踊まで、歌舞伎座が祝祭空間に
2026年2月1日、歌舞伎座2月公演、「猿若祭二月大歌舞伎」が初日の幕を開けた。今年で50年の節目を迎える猿若祭では、昼の部に人情味あふれる世話物や舞踊、夜の部に重厚な時代物から変化舞踊、江戸情緒豊かな世話物まで、多彩な演目が並び、劇場は祝祭の熱気に包まれた。その模様をオフィシャルレポートをもとに伝える。
昼の部の幕開きは笑いあり涙ありの物語、『お江戸みやげ(おえどみやげ)』。
昼の部『お江戸みやげ』左より)市川紋吉=中村歌女之丞、おゆう=中村芝翫、お辻=中村鴈治郎
幕が開くと舞台は紅白梅が咲く春先、湯島天神の芝居茶屋。茶屋に集う者たちは談話に興じる。何やら画策する常磐津文字辰(孝太郎)と六三郎(亀蔵)が姿を消したところへお紺(種之助)と人気役者の阪東栄紫(巳之助)が登場する。一緒に上方へ行って夫婦になろうとお紺に語る栄紫。
膝を寄せ仲睦まじく話す様子に客席は思わず微笑む。
続いて姿を現したのは、江戸に物見遊山に来た女行商人のお辻(鴈治郎)とおゆう(芝翫)。銭勘定に勤しむ倹約家のお辻と、おおらかでお酒が好きなおゆうの、方言を交えた軽調な会話に、客席には笑いが起こる。ついにはおゆうに進められ、お酒を呑み始めるお辻。気が大きくなり座敷に栄紫を誘う。栄紫を前に、お辻はすっかり乙女の顔。ユーモラス溢れる場面だ。そこへ、栄紫、お紺、文字辰が転がり込んでくる。
文字辰は娘のお紺と一緒になるならお金を納めろと栄紫に迫る。
昼の部『お江戸みやげ』左より)お紺=中村種之助、阪東栄紫=坂東巳之助、おゆう=中村芝翫、お辻=中村鴈治郎、常磐津文字辰=片岡孝太郎、鳶頭六三郎=坂東亀蔵
気の大きくなっているお辻は間に入り、なんとそのお金の肩代わりを気前よく申し出てしまう。対照的に、おゆうは不安げに案じる様子。ふたりの性格が逆転する様に、客席からは笑いがこぼれる。礼を惜しみなく伝える栄紫と、お紺を幸せにしてやるのだよとむせび泣きながら伝えるお辻の姿。会って間もない間柄ながらも相手を思い合う、人情味溢れる場面だ。お辻の泣き笑いのようなほろ苦い表情と、栄紫からもらった片袖を握りしめる様子に、観客は心を打たれた。続いては、江戸の風情を感じさせる軽妙洒脱な舞踊『鳶奴(とんびやっこ)』。
昼の部『鳶奴』奴=尾上松緑
幕が開くと、初鰹を咥えた鳶を追う奴(松緑)が花道より登場します。主人に頼まれて買った初鰹を鳶にさらわれてしまった奴。待て待てといわんばかりに追いかけてくる。鳶を模した振りや、鳶を探し回る様子を表現する振りで、舞台はユーモアに満ちた明るさに。業を煮やした奴は、井戸の釣瓶竿で鳶を叩き落とそうとするもうまくいかず。宙を舞う鳶を見上げた見得を見せる奴に、大きな拍手が送られた。
昼の部『弥栄芝居賑』左より)呉服屋松嶋女将吾妻=片岡孝太郎、呉服屋松嶋旦那新左衛門=片岡仁左衛門、猿若座座元=中村勘九郎、猿若座座元女房=中村七之助
そして、『弥栄芝居賑(いやさかえしばいのにぎわい)』。江戸の芝居町、猿若町。
連日大勢の見物客が押し寄せて賑やかな江戸三座の筆頭「猿若座」には、角切銀杏が染め抜かれた櫓が上げられ、絵看板が飾られて華やかな様子。芝居茶屋扇屋の女将お浩(扇雀)、猿若町の名主幸吉(芝翫)と女房お栄(福助)が「猿若祭五十年」を慶び、猿若祭の賑わいを喜び、座元を呼ぶ。猿若座の座元(勘九郎)と座元女房(七之助)が猿若座から登場すると、満場の客席から割れんばかりの拍手が送られた。大入りを喜ぶ座元は「これも偏にお客様のおかげ」と述べ、夫妻揃って「ありがとうございます」と客席へ御礼を述べると、セリフをかき消すほどの拍手が。
続いて、粋な姿の男伊達と女伊達が花道に揃い、挨拶を述べると客席はさらに華やぐ。
昼の部『弥栄芝居賑』左より)玉太郎、歌之助、莟玉、虎之介、男寅、橋之助、種之助、新悟、歌昇
そこへ、はるばる京よりお祝いに駆けつけたのは呉服屋松嶋の旦那新左衛門(仁左衛門)と女将の吾妻(孝太郎)。座元が「私の父も喜んでいます」と述べると、松嶋の旦那新左衛門が「十七代目のおじさまには、大変かわいがっていただきましたが、その大恩人のおじさまが始められ、私が兄弟のように仲良くしてきた十八代目から引き継がれた猿若祭も、今年で50年。」と応え、温かい拍手に包まれる。猿若座50年を寿ぎ、客席も一体となって一同で手を締め、おめでたい雰囲気のなか幕となった。
昼の部の最後を飾るのは『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』。
昼の部『積恋雪関扉』左より)小野小町姫=中村七之助、関守関兵衛実は大伴黒主=中村勘九郎、良峯少将宗貞=八代目尾上菊五郎
雪のしんしんと降り積る逢坂の関。浅葱幕が下りると、そこには桜の木の元でうたたねする関守関兵衛(勘九郎)。花道より登場するは小野小町姫(七之助)。三味線の音色に乗せる舞、隙の無い美しさに観客は目が離せない。邸宅の中には良峯少将宗貞(八代目菊五郎)。大振りの袖を振りながら舞う関兵衛と、曲調緩やかに舞う七之助の踊りの掛け合い。前半の眼目である、宗貞と小町姫が馴れ初めを語るように舞う場面では、手紙をしたためる様子や相手を待ちわびる寂しさを表現し、優美な空気が漂う。
関兵衛は義太夫の歌に合わせ、愉快に踊りひょうきんな様子。夜も更け、独り酒を飲む関兵衛は、大盃に映る星影から「謀叛成就の相」を読み取る。護摩木にするために桜の古木を伐ろうとしたところ、大木の幹から傾城墨染(七之助)が妖しげに現れる。実は彼女の正体は、夫の仇を狙う傾城墨染実は小町桜の精(七之助)。さらに関兵衛の正体は実は大伴黒主(勘九郎)。廓話の華やいだ踊りの後、一転して見せる勢いのある“ぶっ返り”に観客は目を見張る。
昼の部『積恋雪関扉』左より)傾城墨染実は小町桜の精=中村七之助、関守関兵衛実は大伴黒主=中村勘九郎
本性を顕したふたりの豪快な立ち廻りは、斧と桜の枝を振り、迫力のある舞いで観客を圧倒し、「中村屋!」の大向うがかかり、盛大な拍手が送られた。
時代物の名作、多幸感あふれる世界観、絵画的な美しさと、 彩り溢れる夜の部
夜の部は、「平家物語」のなかでも特に知られた平敦盛の最期を大胆に脚色した時代物の名作。
『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき) 陣門・組打』で幕開き。上演頻度も高い人気演目『熊谷陣屋』の前段で、源平合戦の世を舞台にした重厚な時代物狂言だ。「陣門」の幕が上がると、先陣を狙う熊谷小次郎直家(中村勘太郎)が凛々しく現れ、その若武者ぶりに客席からは大きな拍手が送られる。 続いて父・熊谷次郎直実(中村勘九郎)が花道から鮮やかに駆け付けると、場内は「中村屋!」の声と熱気に包まれた。
夜の部『一谷嫩軍記 陣門・組打』熊谷小次郎直家=中村勘太郎
手傷を負った息子・小次郎を助け出した熊谷。その後を白馬に乗った無官太夫敦盛(中村勘太郎)が現れ、花道を駆け去っていくが……。
場面は「組打」へ。須磨の浦では玉織姫(坂東新悟)が許嫁の敦盛の行方を探し求めるが、平山武者所(中村吉之丞)に斬られてしまう。無官太夫敦盛(中村勘太郎)と熊谷がそれぞれ馬に乗って現れると、客席のボルテージがさらに上がる。遠近感を示す歌舞伎らしい「遠見」の演出で、小さな馬に乗った熊谷(中村種太郎)と敦盛(中村秀乃介)が海上で一騎打ちをする姿に客席からは温かい拍手が送られる。そして、浜辺に引き戻された敦盛(勘太郎)を組み伏せた熊谷(勘九郎)だが、我が子と同じ年頃の敦盛を斬らねばならない武士の苦衷を涙ながらに吐露する場面では、劇場全体が息を呑むような静寂に包まれる。
夜の部『一谷嫩軍記 陣門・組打』左より)熊谷次郎直実=中村勘九郎、無官太夫敦盛=中村勘太郎
この敦盛は実は……という次の『熊谷陣屋』の段で明かされる真実を予見させる迫真の演技で魅せる勘九郎の熊谷と、覚悟を極めた勘太郎の敦盛の緊迫したやりとりは、実の親子共演と相俟った虚実皮膜の極み。意を決して敦盛の首を討ち落とし、無常を嘆く熊谷の姿に、堰を切ったかのような万雷の拍手が送られた。
続いては、十八世中村勘三郎が初演した、変化の魅力あふれる舞踊劇『雨乞狐(あまごいぎつね)』 。
夜の部『雨乞狐』野狐=中村七之助
干ばつに苦しむ人々を救うため、名高い源九郎狐の血を引く野狐(中村七之助)がすっと姿を現すや、客席からは大きな拍手。躍動感ある踊りを見せる七之助が演じる野狐が、続いて雨乞巫女へと姿を変え、幣を振って「ゆららさらら」と優雅に舞い始めると、場内は神秘的かつ、おめでたい雰囲気に包まれた。野狐の霊力で雨が降り出すと、今度は座頭(中村勘九郎)へと鮮やかに姿を変えて登場 。雷鳴に怯えて逃げ惑う滑稽味あふれる踊りに客席は大いに沸き、続く花道すっぽんから現れた小野道風(勘九郎)の場面では、恋の悩みに悶々とする貴公子の色気あるクドキに観客は一転して見入る 。
夜の部『雨乞狐』小野道風=中村勘九郎
さらに舞台は一変し、情趣豊かな「狐の嫁入り」へ 。供侍たちが浮かれて踊る中、駕籠から美しい狐の嫁(七之助)が現れると、その華やかな花嫁衣裳と多幸感あふれる世界観に、劇場全体が熱気に満たされた 。そして、舞台のセリから勢いよく野狐(勘九郎)が飛び出してくると、そのあまりの跳躍力に客席の至るところから声が上がる。
夜の部『雨乞狐』野狐=中村勘九郎
雨を降らせた功績で「勘九郎」の名を授かった野狐(勘九郎)が、初音の鼓の音とともに喜び勇んで古巣へ帰って行く幕切れには、万雷の拍手が送られ、変化(へんげ)の楽しさと、中村屋兄弟による息の合った競演を堪能するひと幕となり、初日の客席を大いに盛り上げた。
夜の部の打ち出しは、江戸の情緒豊かな名作『梅ごよみ』。
幕が上がると、向島三囲の土手で美男の丹次郎(中村隼人)と許嫁のお蝶(中村莟玉)が再会 。その絵画的な美しさに客席からはため息が漏れた 。そこへ深川芸者の米八(中村時蔵)が現れ、丹次郎を巡る女同士の「恋の鞘当」が始まると、江戸芸者の意地がぶつかり合う展開に観客は引き込まれる 。
夜の部『梅ごよみ』前左より)丹次郎=中村隼人、許嫁お蝶=中村莟玉後)芸者米八=中村時蔵
続く隅田川の場面では、屋形船に乗った芸者仇吉(中村七之助)が登場 。丹次郎に見惚れる艶やかな立ち姿が、観客を魅了した 。見どころは米八と仇吉の激しい諍いで、新調の羽織を巡るプライドをかけた争いに、客席からは大きな笑いと拍手が送られる 。
さらに仇吉が熱した簪で丹次郎の刺青を消し、米八の額を下駄で打ち据える劇的な演出で、場内の熱気は最高潮に。仇吉と米八の意気地の張り合いは見どころ満載。江戸の粋と多幸感に包まれた客席は、笑顔でいっぱい。猿若祭の晴れやかな初日を締めくくった。
夜の部『梅ごよみ』前左より)芸者米八=中村時蔵、芸者仇吉=中村七之助後左より)古鳥左文太=中村亀鶴、芸者政次=上村吉弥
「猿若祭二月大歌舞伎」の上演は2月26日(木)まで、東京・歌舞伎座にて。
<公演情報>
「猿若祭二月大歌舞伎」
【昼の部】11:00〜
お江戸みやげ
鳶奴
弥栄芝居賑
積恋雪関扉
【夜の部】14: 30〜
夜の部
一谷嫩軍記
雨乞狐
梅ごよみ序幕
梅ごよみ二幕目・三幕目
2026年2月1日(日)~26日(木)
会場:東京・歌舞伎座
【休演】9日(月)、18日(水)
※無断転載禁止
関連リンク
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2665121(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2665121&afid=P66)
公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/963/