2023年8月9日 10:00
新国立劇場で『尺には尺を』と『終わりよければすべてよし』の交互上演が実現
●演出:鵜山 仁からのメッセージ
物の見た目や物を見る立場が変わると、人の心は他愛無く変化してしまう。加害者のはずが被害者になり、被害者のはずが加害者になる。とすれば「生」の世界はたちまち「死」の世界に、「死」の世界がもしかしたら「生」 の世界に反転するかもしれない。『尺には尺を』と『終わりよければすべてよし』。この二つの「問題劇」にしかけられた二つのベッドトリックは、そんな人生と世界の変容を象徴しているような気がします。
三年に及ぶコロナ禍、僕にとって驚きだったのは、目にも見えない、生物だか無生物だかも判然としないウイ ルスという存在に、世界がここまで翻弄されてしまったことです。そして昨年二月以来のロシアによるウクライナ侵攻は、「戦争」が、実は平穏に見えたわれわれの日常の、すぐ隣に息を潜めていたことを痛感させました。
われわれの目に見えていたのはなんと狭い世界だったのか、ならば舞台という特権的な場では、生きている現実の人間だけではなく、目には見えない世界、死者たちの歴史や、ウイルスも含めた森羅万象、あらゆるものとの交信を心がけたい。
ここでは日常生活の利害、効率、善悪を一旦度外視した、遠大、深遠なコミュニケーションが求められます。