ベルカントの華「狂乱の場」だけを集めた前代未聞のリサイタルに挑む佐藤美枝子
私は体力もないほうではないので、そういう意味では全然心配はしていません」
〈狂乱〉だけに、もちろん演劇的な激しい表現も必要だけれど、ベルカント・オペラの場合、音の形そのものが感情を表現する大きな役割を担っている。歌手に要求されるのは、まずはそれを歌い切るテクニックなのだ。そして佐藤はベルカント唱法の第一人者。類まれなテクニックの持ち主だからこそ、スタミナの心配は無用ということなのだろう。
「錯乱状態になってぎゃーっと叫んでいるのではなく、〈狂乱の場〉にはコロラトゥーラ的なテクニックがいっぱい詰まっています。それがただのテクニックではなく、登場人物の精神状態、心情や感情が音の形、音楽になっているものだと捉えていただきたいですね」
歌うのは4つの役。それぞれの物語の背景も、〈狂乱〉の意味も異なる。それをどう歌い分けるのだろう。
「オペラでもリサイタルでも、私は基本的に、佐藤美枝子が歌うのではなく、それぞれの登場人物として歌いたいんですね。それが自然に出るまで、歌い込んで作っていくという感覚です。ブレスをして、河原忠之さんのピアノの前奏が始まる時にはもう、その登場人物でありたい。あらねばならぬ、と思っています」