シド、今年初ライブ『BEST OF SID 2025』オフィシャルレポート 秋ツアーでファンとの再会を約束
Photo:加藤千絵
4月10日、KT Zepp Yokohamaにてシドが今年初となるライブを開催した。『BEST OF SID 2025』と題したコンセプトライブで、チケットはソールドアウト。“シドの日”に集まった幸運なファンと共にメンバー4人がつくり上げたのは、生身の人間同士だからこそ生み出せる瞬間に満ちた、一期一会のライブ空間だった。
ステージに“SID 410”という文字の電飾が灯り、SEに乗せてゆうや(ds)、明希(b)、Shinji(g)が順に登場し、各自センターのお立ち台でポーズを決めてから立ち位置へ。最後に白いジャケットを着たマオ(vo)が登場すると、ステージを端から端まで練り歩いた後センターへ戻って仁王立ち。背を向けてスタンバイしていた明希とShinjiが正面を向き、Shinjiが右手を高く挙げたのを合図にピアノのイントロが鳴り「涙雨」が始まると、どよめきが起きた。この日の横浜の夜は偶然にも雨。青と緑を中心とした光に包まれて、4人はしっとりとした哀切を歌と演奏で表現していく。
大拍手の中「MUSIC」のイントロが始まり、一挙にはっちゃけたムードに切り替わると、メンバーはステージを動き回って華やかにパフォーマンス。この日、ゆうやのドラムセットの左右には階段が設けられていて、メンバーが駆け上ったり腰掛けたりすることで、4人の様々なフォーメーションが生まれていたのも視覚的な楽しさを生んでいた。
マオ(vo)
「声出せ横浜!やれるか!」とマオが煽って「dummy」に雪崩れ込むと、オイオイ!と叫びながら拳を突き上げるオーディエンス。「しっかり盛り上がって行けるか?」(マオ)と更に煽って「アリバイ」とタイトルコールすると歓声が起き、ストリングスのイントロが鳴りミラーボールがフロアの天井で輝き始める。マオはファンにシンガロングを求め、その力強い歌声が場内に響き渡ると、マオだけでなくメンバー全員が笑顔を見せていた。
大拍手の中で曲を終えると、トラブルが発生したのか一瞬の間があり、マオとShinjiが後ろを向くと「大丈夫?」と気遣うファンの声が飛び、笑いが起きて和んだ後、「妄想日記」がスタート。ファンの叫び声や揃った手の振りはもはや曲に欠かせない重要なピースとなっており、そこから生まれる熱量がステージに届き、メンバーの歌唱、演奏を更にヒートアップさせていた。場内の熱気が高まり、マオはジャケットを脱いでシャツ姿に。
一瞬の静寂の中、熱烈なメンバーコールがあちこちで飛び交った。
Shinji(g)
明希は「今年初ライブになります、シドです!待たせたね、皆」と声を発し、「今日は、“20年やってきたバンド”っていうのを見せたい。更にシドのことを皆好きになっちゃうと思うし、更に俺のこと好きになっちゃうんじゃないかな?」と自信たっぷりに挨拶。Shinjiは「記念日に、大好きな皆さんとこうやって顔を合わせられるのを幸せだと思っています。今日は一人ひとりの顔をforever lookingしたい」と語り、ファンとコミュニケーションできるライブという場所への熱い想いを訴えた。ゆうやは、本番前にファンクラブスタッフから「ゆうやさん的見どころは?」と尋ねられたそうで、「見どころは全部だと答えました。というのも、我々シドの4人が揃って演奏している、それこそが見どころなんじゃないか?と」と胸を張った。マオが「もう脱いじゃった。
暑くない?あのジャケットを着て歌いたかったな。聴いてください」と語り、披露したのは「ミルク」だった。マオの声はこの日万全のコンディションとは言い難く、ときおり掠れて苦しそうな場面もあったのだが、一節一節とても丁寧に全身全霊で歌っていることが伝わってきて胸を打たれた。メンバーも演奏とコーラスでマオをしっかりと支えていて、その様子は感動的なだけでなく、呼吸がピッタリと合ったアンサンブルは自然と心地良いグルーヴを生んでいた。
明希(b)
続く「声色」は逆光にメンバーのシルエットが浮かび上がるライティングで始まり、明希は階段に腰掛けてプレイ。Shinjiがピックをくわえ指で直に弦を爪弾く音が温かい。『少し掠れてるけど優しい声』という歌詞がリアルと重なり、両手でマイクを握って熱唱するマオの姿に心が震える。終盤で昂りを見せたゆうやのドラミングも圧巻だった。
Shinjiのギターリフから「hug」へ突入すると、夕暮れのようなオレンジの光の中、歌心に溢れたアンサンブルを披露。マオが最後のキメの音に合わせて両手で自らを抱き締め、ステージを去っていくと、3人によるセッションがスタートした。Shinjiはロックンロールなギターリフを掻き鳴らし、音の快楽を全身で味わうように仰け反ってプレイ。ピックを投げ入れた後姿を消し、次はゆうやがスポットライトを浴びてソロでプレイ。頭上でスティックを打ち鳴らしクラップを誘発した後、小気味よく多彩な音を鳴らし、それに連動して照明もカラフルに。続いて明希は「お前らそんなもんか?もういっちょ!」などと煽りながらオイオイ!のコールの中でソロ演奏。太く艶っぽい重低音を轟かせ、ゴリッ!とした一撃でプレイをカットアウト。3人それぞれの演奏家としての個性と魅力を味わわせた。
ひんやりとした緑の光の中、3人が位置についてシンセサウンドが響き始め、マオが再び合流して始まったのは美しいバラード「面影」。マオは気迫に満ちた前傾姿勢で情熱的なロングトーンを響かせる。3人の演奏にも熱がこもり、曲の世界観への没入感は増していくばかりだ。更に、中国のアニメ『天官賜福』オープニング主題歌として提供したバラード「慈雨のくちづけ」を放つと、歌詞とリンクして紅一色に染まるなどドラマティックな照明演出も相まって、壮大なサウンドスケープを立ち上げていく。東洋的情緒とプログレが融合したような、複雑かつ繊細な美しさを4人は巧みに表現した。「慈雨のくちづけ」を歌い終えてそっと投げキッスをしたマオ。それを合図に現実へと戻ってきたかのように、「イエイイエイイエイ!何事も気合いですね。行けるか!結婚しよう、「プロポーズ」!」と煽ると、ここからは怒涛の展開。
ヘッドバンギングの嵐が巻き起こり、既に盛り上がっているところに追い打ちを掛けるように、メンバーはステージ前方の際まで出て来て熱くパフォーマンスし、更に煽っていく。マオもペタンと膝をついて熱唱、その後ろでは明希とShinjiが向き合ってプレイしていた。「お前ら、そんなもんだったら俺がぶっ〇すぞ!頭振っとけ!」などと狂暴な言葉で煽ると、「park」へ。メンバーも髪を振り乱し演奏に没入。曲中でも「サボッてんじゃねえ!」とマオは何度もファンを焚きつけた。
ゆうや(ds)
「準備運動終わりましたか?準備運動してんじゃねーぞ!」(マオ)と挑発して「眩暈」へ突入すると、ファンにシンガロングやジャンプを果てしなく求め、自らも全てを出し切る激しいパフォーマンスを繰り返すメンバーたち。そして本編最後は「吉開学17歳(無職)」で狂騒のピークへ。明希、Shinji、ゆうやの順にステージを後にし、最後にマオは「やっぱ何でも気合いだね」と少し笑いを含みつつ何度も繰り返しながら去って行った。
明希「ひとり残さず幸せにしてやる」
アンコールの声に応え、オフィシャルグッズの黒Tシャツをまとって登場した4人。マオは「ごめんね、暴言の数々(笑)。あれは俺じゃないってことで。これが俺」と、初期曲での荒々しい煽り文句について謝罪しながら、「すごい盛り上がったね。今日のライブいいんじゃない?」と手応えを語ると、「夏恋」とタイトルコール。すると歓喜の声が場内に響いた。本編終盤の狂暴さとは打って変わって、ポップなナンバーに乗せて明るく弾けるメンバーたちのナチュラルな笑顔が眩しい。
「ドラマ」でハッピーなムードを更に増幅させると、「もっと行こうか、Dear Yokohama!」(マオ)というシャウトから「Dear Tokyo」へ。サビではメンバー3人による熱いコーラスが重なり、Shinjiのギターソロの後に場内で沸き起こったオイオイ!コールは、体感的にはこの日最大の音量。「もっと行けるか~!?今日アンコール長いぞ!」とマオは予告して、「one way」を投下。「好きにやっちゃって」とイントロに乗せて叫ぶと、オーディエンスとはオイオイ!と大きな声で歌い、マオは少し掠れた声で、それでも楽しそうに歌唱。フロアでは列が左右に交錯する横方向のモッシュとなり、お祭り騒ぎの様相。オイオイ!コールはどんどん大きくなっていく。ファンの盛り上がりを見てマオは「すごいな、皆。大丈夫だった?バランス力がすごいよね。どうなってんの、あれ?」と自ら片足立ちになってよろめきながら、モッシュの光景を振り返り楽しそうに笑っていた。「仲良いんだよな、お前たち。「one way」ってこういう曲だったっけ(笑)?!変わってきたよな。Aメロでオイオイ!とか」と、長い歴史の中で曲の盛り上がり方が変化してきたことに触れ、感慨深そうだった。
「大丈夫?楽しんだ?あと40年後とかもやれよ、ちゃんと」と話題は未来へ。マオが「今シドはね、新曲をつくっています」と告げると明希は拳を高く挙げて頷き、ファンは歓声を挙げた。続いてマオは「今年の秋、10月からツアーをやろうと思って。デカめのライブハウスで。中身とかコンセプトは楽しみにしてて。皆も絶対に来てくれるよな?」と語り掛けた。「Zepp Yokohama楽しかった。最高だったよね?」と問い掛けると、「最高!」とファンは口々に叫び、メンバーは音を鳴らして合の手を入れた。「じゃあ、決めていいか分からないけど、来年もやろうか?4月10日は皆で集まるっていうのはどうかな?」と呼び掛けると、各々手を挙げたり音を奏でるなどしてマオに同意するメンバーたち。ファンはもちろん大歓声。「今回ソールドアウトで入れなかった奴結構いたから、その子たちも入れるようなライブをやろうと思います」とマオは構想を語ると、「今年の秋と、あとは来年の4月10日ね」と新たな約束を交わした。
「このアンコールの盛り上がり曲が全部終わって、この最後の瞬間が俺すごく好きで。“全部終わった~”という感じと、“もう1曲やれる”っていう気持ちが入り混じって、そういう時のことを考えながら次の曲を書いたんですよね。ふわっと優しい風に包まれているような、そんなイメージがして。最後のライブのシーンのことを考えながら書いた曲」と話しながらも声が掠れてきて、「ごめんね」と謝るマオに「大丈夫!」の声が客席から響いた。「不思議と歌になると出たりするんだよね。たぶん皆のパワーだと思います」と感謝を述べると、ファンもメンバーも拍手していた。最後に届けた「微風」を、マオは胸に手を当てて丁寧に、爽やかに歌い遂げた。Shinjiのアルペジオはキラキラとした光の粒子を思わせ、明希のベースは笑みを湛えたようなイメージの優しい音色。ゆうやは左右に身体を揺らしながら手首のスナップを効かせ、包容力のある大らかなリズムを繰り出していた。2番ではマオは明希の肩に肘を置いて歌唱。シドというバンドのピュアさを感じさせるような、清々しい歌唱と演奏でライブを締め括った。
最後の挨拶は、「横浜!皆どうもありがとう!今年もシドガンガン行くぜ。付いて来いよ!ひとり残さず幸せにしてやるからな。今夜は本当にどうもありがとう、バイバイ!」と明希。Shinjiは「横浜!」「横浜!」「Forever!」「Forever!」というファンとの応酬を楽しみ、「愛してるぞ!また会いましょう」とシャウト。ゆうやは前へ出て来て「オイ!」「オイ!」のコール&レスポンスをすると、「ありがとう!また秋に逢いましょう!」と再会を約束。マオもコール&レスポンスの後、「最高なライブをどうもありがとう。気持ち良かったよね、今日ね。皆どうだった?皆に今日は何回も助けられて、いいライブできたよ。後半は盛り返したけど、途中ありがとうね、助けてくれて」と感謝を述べると拍手が巻き起こった。「こういう皆でつくるライブいいね。また秋にあるから、最後、本気の声ちょうだい!」と呼び掛け、四方八方からのマオコールを全身に浴びると、一瞬の無音の中、オフマイクで「愛してまーす!」と大きな声で叫んだ。THANX!と電飾がステージに灯り、約2時間のライブは終幕。繊細なバラードから狂暴なアップナンバーまで、人格が入れ替わったかと思わせるほど幅広い楽曲バリエーションを誇る、シドというロックバンドの魅力。メンバー4人が生み出すグルーヴ感、ファンと共に盛り上がっていく楽しさ、といったライブの原点にある醍醐味を味わわせてくれた一夜だった。制作中だという新曲はどのような仕上がりとなるのか、また、秋からのツアーではシドのどのような姿を目撃できるのか、今から楽しみである。
Text:大前多恵Photo:加藤千絵
<公演情報>
『BEST OF SID 2025』
4月10日(木) 神奈川・KT Zepp Yokohama