Kroi、“セーブポイント”の武道館を経て次のフェーズへ「ここから行けるところまで行く」【ライブレポート】
Photo:jacK / Goku Noguchi
Kroiがソールドアウトとなった初の武道館公演で見せつけたのは、変幻自在のバンド力だった。過去の楽曲から最新シングルまで、アップテンポな曲からチル曲まで、バランスよく配置したセットリストはKroiというバンドがいかに様々な音楽を取り込み、自らの音として昇華してきたかということを証明していた。確かなブレイクポイントを迎え、これからの動向が最も注目されるバンド・Kroi。記念すべき初の武道館公演の模様をレポートする。
武道館は1回やっておくべきセーブポイント。本編最後の曲間のMCで内田怜央(Vo&Gt)はそう言った。この言葉には、まだまだその先に続くストーリーがあることが想像され、これから彼らがどんな景色を見せてくれるのか楽しみになった。それと同時に、武道館のステージに立つということの重要性も示している。
メンバー全員が担当した開演前の影アナに続いて暗転するとメンバーが登場。それぞれがポジションにつき、少しの間を空けて「やろう!」という内田の声が響く。いつものライブとは違う緊張感と高揚感の入り混じったムードは、きっとここでしか感じられないものだろう。Kroiの初めての武道館公演(全席ソールドアウト!)がついに始まった。
駆け出したベース音の隙間を埋めつつ拍車をかけるようなドラムが加わり、そこにギターも合わさってリズムを作り出していく。すると、ステージ正面に輝いていた「Kroi」の大きなバンドサインが音に反応するように蠢き出す。溶けるでも崩れるでもなく、歪なものに変形していく。その視覚的な効果は絶大で、オーディエンスはバンドから放たれるリズムに体を揺らせながら、瞬間的に日常から切り離されライブの世界観へ没入していく。
バンド最大のキャパシティでのライブは「JAM」と題されたセッションから始まった。セットリスト上の曲目数では「0」となっている。バンドが産声を上げて立ち上がり動き出すそのさまを描ききったようなセッションは、きっとここからでないと紡げない彼らの起点であり、この日のライブがどんなものになるのかを雄弁に宣言したようにも思えた。つまり、Kroiのこれまで駆け抜けてきた数年間の全てを注ぎ込んだものになると、最初の数分で確信させられた。
「Fire Brain」のイントロへなだれ込んだときの爆発したかのようなオーディエンスのテンションは、一言で言って感動的だった。ライブの全てがそこに詰まっていると言ってもよかった。ここにいる全員と確かにひとつになれたと感じられる瞬間。そのテンションをさらに高めていくバンドの鉄壁のアンサンブルと内田のボーカリゼーションの凄まじさはKroiというバンドの変幻自在さを可能にしているエンジンだ。
最初のシーンでロゴが変形していったように、Kroiは曲ごとにその姿を変えていく。「Drippin’ Desert」ではよりポップに、「shift command」ではスペーシーに。そして「夜明け」では長めのベースソロとピアノソロを大胆に盛り込み、前半で完全に武道館という空間を掌握していった。
MCが明けて5曲目に披露したのは、ライブでは欠かせない「Mr. Foundation」。そしてリリースしたばかりの最新シングル「Sesame」へと続く。この新曲が、「Mr. Foundation」と次の「Monster Play」に挟まれていることでKroiの音楽性の幅広さと深さを如実に感じられる構成になっていた。どの楽曲も、これだと割り切れるようなジャンル感ではないが、例えば「Mr. Foundation」ではベースにファンクが、「Monster Play」ではヒップホップとジャズがある。一方「Sesame」はKroiの音楽としか言えないところまで様々な音楽が昇華されている。
そういう意味で、このブロックは比較的初期の楽曲と最新曲を一気に演奏したことでKroiの進化を感じられるようになっていた。
「いや、楽しいわ。だってさ、最初の頃なんて本当にちっちゃいライブハウスでやってたんだよ」(内田)「だからさ『Monster Play』とかすごい感慨深くなったよ。まったくそのままやったから(笑)」(長谷部悠生・Gt)
「Page」から始まった中盤のブロックの最後で思いもよらないことが起こった。11曲目に予定していた「Pixie」ではなく、15曲目の「Astral Sonar」のイントロを長谷部が弾いたのだ。そのままバンドは曲目を変更して演奏を続けた。だから、次のMCで間違えたことを言われなければ誰もわからなかった。このことは、バンドはもとより、照明や音響をはじめとしたチームKroiの一体感を物語っていると言える。
「バレないようにやったのに、バラすという(笑)」(千葉大樹・Key)「浮き足立ってるわー」(長谷部)「11(曲目)と15(曲目)を入れ替えます」(千葉)「業務連絡すぎるだろ、武道館で(笑)」(内田)
ここからは「Never Ending Story」から始まるチル曲ゾーンへ。「risk」「帰路」と内田の表現力が際立っていた。もちろんバンドの演奏も込みでの話ではあるのだが、ファルセットからシャウト気味のボーカルまで自在に行き来し、音と言葉を有機的に結び付けていく彼のスタイルは唯一無二だ。
ここまで体感的にはあっという間。なのにもう最後のブロックに突入。「Network」の曲間では、「ここでしゃべるアレンジとか昔あったよね」と内田が話しだす。「いろんなことを思い出してきた」という言葉にオーディエンスが盛り上がるとすかさずラップパートに入って演奏のタクトを振る。「selva」ではスラップを巧みに用いた長尺のベースソロでオーディエンスを沸かし、「HORN」のサビではオーディエンスがシンガロングし盛り上がった。
本編ラストは「Shincha」。曲間で内田がこんなことを語った。
「Kroi5年、6年?活動してきましたけど皆さんのおかげで武道館に立つことができました。本当にありがとうございます。すごい猛スピードで武道館まで来れたなっていう感じはしているんですけど、発表したら『まだ早いでしょ』って結構言われて(笑)。でも我々としてはやっと武道館かっていう感じです。まだまだKroiの目標は“行けるところまで行く”ということにしていますので、もっとでかいステージで皆さんと踊れたらいいなと思います」
この日一番の拍手と歓声がバンドに贈られると、オーディエンスのハンドクラップも加わって全員で武道館公演の最後を締めくくった。
アンコールには、「Juden」「Balmy Life」「Polyester」と怒涛の三連打。
特に「Balmy Life」をアンコールに持ってくるという余裕もKroiが次のブレイクポイントへ向かっていることを感じさせた。ここでいったんセーブして、次に彼らが向かう先にどんな景色が広がっているのか――夏頃にリリース予定というアルバムとそのツアーの発表もありつつ、どんなバンドも成し遂げていないとてつもないものを期待せずにはいられない。
Text:谷岡正浩Photo:jacK / Goku Noguchi
<公演情報>
Kroi Live at 日本武道館
2024年1月20日(日) 日本武道館