アサミサエ卒業! Wiennersワンマンライブ『HAPPY BANQUET』レポート「俺たちがWiennersだぞ!」
Text:小川智宏Photo:かい
6月6日、Wiennersが渋谷・Spotify O-EASTでワンマンライブ『HAPPY BANQUET』を開催した。Wiennersは4月にアサミサエ(vo/key/sampler)のバンドからの卒業を発表。その唯一無二の歌声とキャラクターでファンから愛され、Wiennersの進化を支えてきた彼女の、2015年の加入以来10年にわたる活動の集大成。ソールドアウトとなったフロアは、最初から最後までバカでかい歌声でライブを盛り上げ、アサミサエの門出を後押し。オールキャリアから選び抜かれたセットリストも、アサミサエの魅力を引き出しながら、不屈の精神で進み続けるWiennersの前途を照らし出すものとなった。
SEとともにメンバーが登場し、「何様のラプソディ」でライブがスタートした瞬間から、O-EASTは大合唱に包まれる。Wiennersのライブはいつだって熱狂的なオーディエンスによって支えられてきたが、この日は格別である。生の現場でこそ爆発的なエネルギーを生み出す「GOD SAVE THE MUSIC」に、久しぶりにライブで披露される「LOVE ME TENDER」。
思いっきり前のめりなサウンドの中でアサミサエのボーカルも冴え渡り、彼女が歌うたびにフロアからは歓声とも怒号とも悲鳴ともつかない声が上がる。もちろん玉屋2060%(g/vo)も∴560∵(b)も、サポートドラムを務める森田龍之助も、のっけから出し惜しみなしのハイパフォーマンスを繰り広げていく。
アサミサエ(vo/key/sampler)
「こんばんは、Wiennersです!」。3曲を終えて玉屋が挨拶。ここでも指笛やら叫び声やらが湧き起こるフロアの異様な熱気を前に、アサミサエに「サエ、緊張してる?」と声をかける。アサミサエも「ちょっと緊張してる」と正直だ。さらにフロアに「みんな緊張してる?」と問いかけ「俺も緊張してるから大丈夫です!」と何が大丈夫なのかわからないが、とにかく会場をひとつにしてみせる。「アサミサエ、ラストということで。
全部出し切ってくださいね!」と叫ぶとギターを一閃、アサミサエが曲名を叫び、彼女がリードボーカルをとるハイパーでファストな「ULTORA JOY」を放つ。スカのビートがオーディエンスを踊らせ、さらにボルテージを高めていく。さらに立て続けに「レスキューレンジャー」に突入すると、玉屋はさっそくフロアに飛び込んで熱いパフォーマンスを披露。続く「カンフーモンキー」までノンストップで盛り上げ切ると、彼は「サンキュー!」と声を上げたのだった。
玉屋2060%(g/vo)
「カンフーモンキー」を終え、「特別な日だからいい出立ちでステージに立ちたいと思ってストレートアイロンを当ててきた」と玉屋が告白。「一番かっこいいじゃないですか!」というアサミサエに「あれ、ちょっと待って。今日一番かわいいじゃん」と応えるが、アサミサエは「10年やってきたんだけど……私、セクシー担当なの」と言い張る。「今後もっとセクシーになるから、よろしくお願いします!」と宣言して歓声を浴びると、玉屋も「みんなセクシーに踊れる?」と叫んで「RAISE A RIOT」が始まっていった。
さらに「GAKI」に「おおるないとじゃっぷせっしょん」と楽曲を重ねると、ここでちょっと懐かしい「VIDEO GIRL」を投下。アサミサエのキーボードリフが炸裂し、∴560∵のベースがそこに花をそえる。そしてアサミサエの歌が艶やかに広がる「十五夜サテライト」に続いては玉屋がキレキレのラップをかますミクスチャーチューン「MUSASHINO CITY」へ。
∴560∵(b)
そしてメンバー全員がステージからはけるなか、麦わら帽子をかぶったアサミサエひとりのオンステージとなった「片瀬江ノ島」を披露。アサミサエ加入前からあった曲だが、彼女が歌うことでこの曲は何倍も魅力的なものになったと思う。ステージ後方のスクリーンに江ノ島の風景が映し出され、いきなりの昭和アイドル歌謡もノリノリでこなすアサミサエ。そのノリのよさは間違いなくWiennersに新たな魅力をもたらした。完璧なPPPHで応えるオーディエンスも同様である。
大サビに入る前にアサミサエが発した「今日この景色を、一生忘れないよ!」という言葉には実感がこもっていて感動的だった。
そしてここからライブは後半へ突入していく。「シャングリラ」ではオーディエンスによる〈HOLI T.O.K.Y.O〉のシンガロングが巻き起こり、玉屋が「弾いて!弾いて!」と煽るなかアサミサエが軽やかなキーボードソロを披露。フロアではオーディエンスの手が揺れ、美しい光景が広がった。そして現体制Wiennersにとって大きな到達点となった『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』の主題歌「WINNER!ゴジュウジャー!」で一気にギアを上げると、「SHINOBI TOP SECRET」のアッパーなビートがそれにさらなる拍車をかける。そしてアサミサエの歌い出しに歓声が起きた「愛鳥賛歌」を経て、ここで「ありがとう!」という言葉がフロアから飛ぶなか、アサミサエが静かに話し始めた。「Wiennersをやってきて、思い残すことはないのですが……この曲を歌ってみたくて、今日は特別に歌ってみたいなと思います」。そうして鍵盤の弾き語りで歌い出したのは「午前6時」だった。
玉屋が音楽を作るということに真摯に向き合った果てに生まれた、一滴の雫のような名曲だ。気持ちを込めて歌うアサミサエの声はとても優しく、その歌は自分自身へのエールのようにも、これから先も進んでいくWiennersへのエールのようにも響いてきた。
そして「今度はみんなが歌う番です」と「FAR EAST DISCO」が始まっていく。冒頭から巻き起こる大合唱。力強いリズムに手拍子が鳴り響き、ライブはクライマックスへと駆け上がっていく。東京とインドを音楽の力で直結する「TOKYO HOLI」でも、Wiennersの節目で輝きを放ってきた「俺たちの青春の歌」(玉屋)である「蒼天ディライト」でも、フロアとひとつになったWiennersの最強っぷりが遺憾無く発揮され、バンドにとってひとつの終わりであり、新たな始まりであるこの日を眩く照らし出す。「過去最高です、ありがとう!」。歌い終えた玉屋が満面の笑みで叫ぶ。
6月6日はアサミサエに元ドラマーのKOZOが加入したWiennersが「ダイノジロックフェス」で初めてライブをやった日。イベントのトリとして夜中の3時に初ステージを踏んでから10年の記念日である。当時のことは「何も覚えてない」という玉屋。「でもね、何をやったか覚えてないけど、決して忘れない日って、人生にとって大事な日だと思う。その日が今日であるならばとても幸せです」という言葉にフロアが大きな声で応える。「悲しいとか寂しいとか、そんなこと言ってる場合じゃないくらいヤバい曲を俺たちは歌ってきたつもりです。喜怒哀楽のその先へみんなを連れていく曲を歌ってきたつもりです。届いてますか!」。
そう改めて宣言すると、ライブはいよいよ最終盤。
パンクにサンバに盆踊り、Wiennersらしい何でもありのごった煮ビートでぶち上がる「SOLAR KIDS」がここに来て盛り上がりをブーストする。そして本編最後は、アサミサエ加入後初の作品に収録されていた「姫君バンケット」。風船がフロアに降り注ぎ、アサミサエのキュートなボーカルがフィーチャーされたポップチューンがはなむけのように鳴り響いた。「みんな大好きだよ!」。アサミサエが全力でメッセージを伝えるなか、ライブはいったんの幕を閉じたのだった。
その後アンコールの声にステージに戻ってきた4人は、どこか肩の力の抜けた、満足げな表情を浮かべていた。玉屋に「言い残したことはない?」と水を向けられたアサミサエは「気づいたら10年という時が経っていてびっくりする。今日で終わりという実感が湧かない」と率直な気持ちを言葉にする。「まさか自分がバンドマンになるとは思ってもなかったんですけど、楽しく過ごしておりました。思い返すと、ずっとふざけてて。自分が何かをしてみんなが元気になってくれたらいいなと思っていたけど、元気にさせてもらうことのほうが多くて。10年続けてきて『立派じゃん』って思うんですけど、やっぱり、そういう自分にさせてもらえたなってすごく思ったんですよね」。そうファンへの感謝を語り、「ちょっと歩みは遅くなっちゃうけど、またみんなに歌を聴いてもらえるように頑張りたいなと思うので、今後とも応援よろしくお願いします!地球をみんなで盛り上げていきましょう!」と決意を口にした。
そして、「俺たちがWiennersだぞ!」という玉屋の叫びとともにアンセム「UNITY」の大合唱が鳴り響く。さらに「TRADITIONAL」と「おどれおんどれ」で最後まで盛り上げ切ると、2度目のアンコールでは「Cult pop suicide」と「よろこびのうた」ですべてを出し切り、Wiennersは2時間にわたるライブを走り切った。
玉屋は「ずっとずっと開戦前夜のこの胸の高まりは終わる気がしない。Wiennersはまだまだ続いていくから。今年中にまたライブハウスで会えるし」と言っていた。形を変え、でも魂は揺るがず進み続けていく彼らのこれからに栄光を。楽しみに待っていたいと思う。
<公演情報>
『HAPPY BANQUET』
2025年6月6日 東京・渋谷 Spotify O-EAST