【ライブレポート】a flood of circle『I'M FREE 2025』、雨の歌舞伎町で3,000人を熱狂させた武道館発表の夜「20年前も夢を見てた。今も見てるーー来てくれてありがとう」
Photo:新保勇樹
Text:石角友香Photo:新保勇樹
既報の通り、a flood of circleはこの日、初の日本武道館公演を発表した。それがバンドのスタート地点である新宿のど真ん中で行うフリーライブだというのがなんとも彼ららしい。日曜日の夕方、小雨がぱらつく中、インバウンド客も週末を楽しむカップルも歌舞伎町を根城にする若者たちも好奇心に満ちた眼差しを向ける場所でバンドは約3,000人のオーディエンスを集めて、いつも通りのライブをぶちかました。
KABUKICHO TOWERのビジョンに佐々木亮介(vo/g)のサングラス越しの視点と思しき映像が投影されると大きな歓声が上がる。メンバーの登場を待ちかねたオーディエンスの熱量もどこ吹く風といったテンションで、いつも通りSEもなくさりげなく現れた佐々木、渡邊一丘(ds)、HISAYO(b)、アオキテツ(g)。日常と地続きであるかのように佐々木は「おはよーございます。a flood of circleです」といつもの挨拶のあと、淡々と「伝説の夜を君と」を歌い始める。が、全身白のコーディネートはこの曲同様、意思表明に見えた。
一転、HISAYOが弾くベースフレーズで着火され、ライブが転がり始める「Dancing Zombiez」では前方のエリアは古参と見受けるファンから若い女性まで多様なファンが拳を突き上げクラップする。強力な8ビーターは立て続けに「The Beautiful Monkeys」になだれ込む。ライブハウス並の音響とは言い難いが、フラッドのロックンロールを壁も天井もない場所で楽しむ痛快さはファンには堪らないはずだ。背景のビジョンには“開戦前夜”や歌舞伎町一番街商店街のアーチと佐々木の顔のコラージュ画像なども投影され、映像チームもこのシチュエーションを全力で面白がっていることが想像できてほくそ笑んでしまった。
さらに昨年リリースのアルバム『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』からの「D E K O T O R A」ではハンドマイクになった佐々木が去年の日比谷野外音楽堂ライブでも告白していた“レコーディング前日なのにまだ歌詞が一行も書けてない”告白がそのまま冒頭の歌詞になった赤裸々な内容をステージをうろつきながら吐き出す。ポストパンクとヒップホップのハイブリッドとも言えるこの曲の途中で佐々木はフロアに降り、クラウドの中に突入。押しかけるファンの圧で前方の柵が壊れたようだが、治安は悪化しない。〈諦めたことあるやつらのYEAH、人生分かんなくなっていてもYEAH、それでも終われないやつらのYEAH、YEAH YEAH YEAH YEAH〉と歌うこの曲に共振するファンを見ていると、何度も核心を表明する曲が生み出されてきた先に、まだ現在進行系かつ最新のアンセムがあることがうれしくなってくる。
なお、この曲の演奏時も歌詞が示唆する現代のあり様ともリンクするさまざまなワードーー“BUY”“WATCH YOUR SNS”“SLEEP”などが断続的に映し出された。3Dアニメ風のMVもバンドのイメージを更新するものだったが、ライブ演出にもその感触が掴めた。
若いリスナーが還流する契機となった漫画『ふつうの軽音部』でバズを起こした「理由なき反抗(The Rebel Age)」では“シャラララ〜”のチアフルですらあるシンガロングが広がり、「歌舞伎町にお集まりのダメなダーリンのみなさん」という佐々木の歌に乗せた曲紹介に歓声が起きた「くたばれマイダーリン」ではスイートなムードすら生まれていた。新宿で始まったバンドであることを改めて話した上で「よかったら一緒に歌ってくれよな。アイ・ラブ新宿!」と、改めてこの場所にほど近いライブハウスのことにも思いを馳せずにいられない佐々木のMCが導くように始まった「Honey Moon Song」。佐々木は見えない月を探すように一瞬、空を見上げる。間断なく演奏を繰り出すライブではあるけれど、この3曲に顕著なフラッドのロマンティシズムは短いセットリストであってもバンドを全方位で表明する大切な選曲だったと思う。
「ケツ、びちゃびちゃ。
ま、そんな感じでずっと生きてきた」と、ぱっと聴き唐突な発言をしつつ、ファンにはそれが何を示しているか瞬時に伝わりチアフルだったムードが再び熱を帯びる。そう。このライブの時点での最新曲「KILLER KILLER」だ。アカペラの歌い出しの喉を絞るような声が歌舞伎町に響き渡り、フィードバックから切り込んでくるアオキのギター、轟く渡邊のドラムが新鮮なビート感を醸成する。ここでもトーキングボーカルによる散文的なリリックがオーディエンスを射抜いていく。さらにアウトロに向かって暴走するブラストビートにも似た2ビートまで、アイデアに満ちた新しいロックンロールに唸るしかなかった。だが、さらに続くイントロのドラムにもう一段階テンションを上げて「New Tribe」へ突入。爽快さと切なさを伴うメロディにオーディエンスも思いを乗せていく。
そして「新宿ベイビー、アー・ユー・レディ?ケツびちゃびちゃでもいいぜ。恥を抱きしめて生きろ、ダメなら逃げろ!」と「まだ言うの?」と半ば笑ってしまうMCが、それでも切実に届いた瞬間、聴き慣れたリフとビートが繰り出されると今日一番の大きなリアクションとともに「シーガル」へ。サビに向かう狂おしい佐々木の声に重なるいくつもの声。何度も繰り返し聴き、この日のライブまで生き残ってきたバンドとファンにとって普遍的な曲であることを改めて実感する場面だった。
ちなみにこの日のライブの運営や映像のBlu-ray化のために「I’M FREE 2025基金」と銘打ったクラウドファンディングが行われ、すでに目標金額を上回る約2,700万円を突破。そのことにさりげなく感謝を述べた佐々木は続けて「アルバムも出るんで。11月12日」と、ライブ終盤と新たな発表を意識せざるを得ない発言。アルバムリリースそのものは既報ではあるが、次に繰り出したのが「ゴールド・ディガーズ」のイントロだったことで、ファンのざわつきは生き物めいた一体感を見せる。
ファンならご存知の通り〈武道館、取んだ3年後、赤でも恥でもやんぞ〉というフレーズがあるわけで、意識が向かないわけがないところに曲中、「武道館取っちゃった」のワンフレーズ!さりげなさすぎて、どこまで定石を避けてくるんだ?と笑いが止まらない。この時点で大歓声と半信半疑のファンがいたと思う。
冗長な説明を嫌う佐々木らしく、このライブ翌日リリースの新曲「夜空に架かる虹」のライブ初披露の際も「20年前も見てた。目をあけたまま夢を見てた。今も見てるーーじゃあ新しい歌を。来てくれてありがとう」と、タイトルコールののちこの曲を演奏したのだが、この時点で歌詞を知らずとも、来年の20周年のテーマソングとして響くだろう内容と堂々としたミディアムチューンである。「大名曲、来たかも」と思ったのと同時に背景のビジョンに“2026年5月6日 20周年公演 日本武道館”の文字が映し出されたのだ。ファンにとっては3年前からすでに予感していたこととは言えいよいよ照準が合ったわけで、お祝いムードよりどこか凛とした空気が包む。
しかもここでライブを終えるのではなく、〈俺の夢を叶えるやつは俺しかいない〉から始まり、バンドを辞めない理由が赤裸々に込められた「月夜の道を俺が行く」で締めくくったのだ。もう、新しい約束を果たす決意表明にしか聴こえない。ファンの惜しみない拍手はa flood of circleというバンドに出会い並走してきた自分にも向けられているように映って仕方なかった。
佐々木とバンドの新しいトライを刻んだニューアルバム『夜空に架かる虹』を11月12日にリリースして、1月からは全国20カ所に渡る対バンツアー『日本武道館への道』をスタートさせる4人。きっと今まで以上に目が離せない半年になる。
<公演情報>
『I’M FREE 2025』
2025年11月9日(日) 東京・新宿歌舞伎町野外音楽堂(TOKYU KABUKICHO TOWER STAGE)