リーガルリリー東名阪ツーマン企画「cell,core 2022」無事終了 くるりを迎えた“東京編”をレポート
Photo:池野詩織
リーガルリリーが東名阪ツーマン企画「cell,core 2022」のファイナル“東京編”を11月17日にZepp Hanedaで開催した。
リーガルリリーのメンバーが尊敬するアーティストを招く「cell,core」は昨年に続き2回目の開催。今年は東名阪のツアー形式で行われた。羊文学を迎えた“名古屋編”(11月9日、THE BOTTOM LINE)、My Hair is Bad との共演が実現した“大阪編”(11月15日、大阪・BIGCAT)に続く東京編のゲストは、くるり。両者の持ち味が存分に発揮された、実りあるステージが繰り広げられた。
最初に登場したのは、くるり。シングル曲を中心としたセットリスト、抑制と解放を絶妙に掛け合わせた演奏によって観客の心と体を揺さぶる、本当に素晴らしいアクトだった。
くるり
「みなさんこんばんは。
くるりでございます」(岸田繁/Vo&Gt)と挨拶、ギターの弦を揺らし、〈この街は僕のもの〉と歌い出した瞬間、濃密なノスタルジーが押し寄せてきた。1曲目は「街」。バンドの故郷の風景、生まれ育った土地に対する愛憎が渦巻く、普遍的な名曲だ。さらにメジャーデビュー曲にして初期の代表作である「東京」へ(ギターのイントロがはじまると同時にオーディエンスからどよめきにも似た歓声が上がった)。感情の発露をギリギリまで抑えた演奏と歌によって、楽曲に込められた情感が際立つ。京都、東京を舞台にした名曲がつながり、フロアは早くも大きな感動で包まれた。
岸田繁(Vo&Gt)
この日のくるりのステージは、代表曲、ヒット曲が軸になっていた。「リーガルリリーさんに呼ばれて、とても光栄です。
くるりはちょっとイリーガルなバンドですが、“る”と“リ”が違うくらいなんで、優しく見守ってください」(岸田)というMCの後は「ばらの花」、そして、岸田がアコギを弾いた「ハイウェイ」。どちらも2000年代前半の楽曲だが、言うまでもなく、今もまったく色褪せていない。必要最小限の音で楽曲のポテンシャルを引き出す演奏も最高。岸田、佐藤征史(Ba)に加え、あらきゆうこ(Ds)、松本大樹(Gt)、野崎泰弘(Key)のアンサンブルは、ここに来てさらに深みを増しているようだ。
佐藤征史(Ba)
ライブ後半は、「ロックンロール」から。岸田、松本がギターソロをぶつけ合うと、観客もさらに体を揺らし、手を挙げて応える、続く「everybody feels the same」では、岸田が久々にリッケンバッカーを演奏。研ぎ澄まされたギターサウンドを楽しそうに鳴らす姿も印象的だった。そして最後は、昨年リリースされたアルバム『天才の愛』から「潮風のアリア」。
穏やかで壮大なメロディと〈思い出と生き方はいつも釣り合わないものだ/何度でも間違えればいいさ〉という言葉が重なるシーンは、この日の最初のハイライトだった。
たかはしほのか(Vo/Gt)
そしてリーガルリリーのステージへ。たかはしほのか(Vo/Gt)のフィードバック・ギターに導かれたのは「GOLD TRAIN」。海(Ba)、ゆきやま(Ds)による疾走感をたたえたグルーヴ、そして、凛とした強さと繊細な浮遊感を内包したメロディ。ライブが始まって数分で3人は、このバンド特有のサウンドスケープを描き出してみせた。ダークな音像とポップな広がりが同時に伝わる「東京」もそうだが、リーガルリリーの音楽は聴く者の想像力を強く刺激してくれる。その“効果”がいちばん強く表れるのはやはりステージの上だ。
海(Ba)
ゆきやま(Ds)
ライブ前半でもっとも印象的だったのは、「ノーワー」。
爆発的なカタルシスをもたらすバンドサウンド、感情の起伏を感じさせるメロディが真っ直ぐに伝わってきて、強く心を揺さぶられてしまった。コントロールできない出来事や感情を吐き出しながら、透明感と激しさを共存させたロックミュージックに昇華させ続けているリーガルリリー。この夏にリリースされた「ノーワー」には彼女たちの現在のモードが強く刻まれていた。
「天国」のアッパー感も気持ちいい。90年代オルタナからの影響をしっかりと血肉化し、幅広い層のリスナーに響く“2022年のポップ”を体現できるのも、このバンドの魅力。3人とも演奏する姿が本当にカッコよく(特にしなやかにギターをかき鳴らすたかはしのパフォーマンスは超クール!)、パフォーマンスにも磨きがかかっていた。これもまた、リスペクトするバンドとの対バンによる作用なのだろう。
バンドの知名度を引き上げた代表曲「リッケンバッカー」、ポップな解放感と快楽的なスピードに乗せて〈歌うたい鳴らそう/大人になるのさ。
〉というライブがひびきわたった「はしるこども」で本編は終了。
観客の手拍子に導かれ、3人は再びステージへ。「すごい!こんなにたくさんの人がいたんですね。ありがとうございます」(ゆきやま)「(くるりの演奏を聴いて)音楽の力って本当にあるんだなと思ったし、空回りするくらいやる気に満ち溢れました」(海)とこの日のイベントに対する思いを語った。アンコールではまず、くるりの「虹」をカバー。原曲のサイケデリアにシューゲイズ感が加わった演奏からは、彼女たちの独創的なアレンジセンスが感じられた。ラスト「Candy」は愛らしく穏やかなボーカル、〈立ちはだかった壁を越えよう/心に服はいらない〉と強い意志を滲ませる歌詞が広がり、ツーマン企画「cell,core2022」はエンディングを迎えた。羊文学、My Hair is Bad、くるりを迎えた対バンツアーは、3人にとって大きな財産になったはず。
どこか晴れ晴れとした表情からは、そのことをはっきりと感じることができた。
2023年7月2日(日) には、日比谷野外音楽堂でのワンマン公演も決定。たかはし、海、ゆきやまの3人で活動をスタートさせて5周年を迎える来年、リーガルリリーは活動のスケールをさらに広げることになるだろう。
(追記:あらきゆうこ公式YouTubeでは、ゆきやま(リーガルリリー)&あらきゆうこの女性ドラマー対談企画を公開中。佐藤征史(くるり)をゲストに迎えた「ワンダーフォーゲル」のスペシャルセッションもぜひチェックしてほしい)
あらきゆうこ&リーガルリリー・ゆきやま 女性ドラマー企画(スペシャルゲスト:くるり・佐藤征史)
Text:森朋之Photo:池野詩織
<公演情報>
リーガルリリー『cell,core 2022』《東京編》
2022年11月17日(木) Zepp Haneda