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山本卓卓(範宙遊泳)×額田大志(ヌトミック)×端栞里(南極)いま注目の劇団が集う『われらの血がしょうたい』再演鼎談

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山本卓卓(範宙遊泳)×額田大志(ヌトミック)×端栞里(南極)いま注目の劇団が集う『われらの血がしょうたい』再演鼎談


2022年に『バナナの花は食べられる』で岸田國士戯曲賞を受賞した山本卓卓(やまもと・すぐる)。彼が主宰する範宙遊泳が、2015年に横浜とインドで上演された『われらの血がしょうたい』を再演する。人工知能が登場するなど、早すぎた内容とも言える同作だが、その根底には「人間の定義とは何なのか?」といった根源的な問いが内包されている。なお、自分の劇団では演出をしないことを決めた山本は、演出に、音楽家としても評価の高いヌトミックの額田大志(ぬかた・まさし)を起用。また、昨今話題の劇団、南極所属の端栞里(はた・しおり)が客演するのも大きなトピックだろう。山本、額田、端に今回のクリエイションやみどころについて話を訊いた。

劇団は“作品をつくるだけ”の場所ではない


――昨年、範宙遊泳のメンバーが3人増えましたね(2025年6月、俳優の井神沙恵、植田崇幸、制作の藤井ちよりが加入)。ヌトミックも劇団員を募集していたし、南極は関西から出てきて劇団を法人化した。
それぞれ、どういういきさつだったのか教えてもらえますか?

山本組織としての劇団って、昔は寝食を共にするじゃないけど、すごく結束が強いものだったと思うんです。でも、そこにビジネスが入り込んできて、折り合いがつかなくなって解散するパターンが多い気がして。そこで、範宙遊泳としてこれまでと違う仲間たちの集い方を提示できたらと思ったんですよね。劇団が作品をつくるだけじゃない組織であってもいい、とも言えます。そういうメッセージを劇作とは別に世の中に伝えることができないかなって思ったのも、メンバーが増えた理由ですね。

額田ヌトミックは、現在のメンバーのみんなが劇団員を増やすなら今だ、と思ったことが大きいですね。あと、創作上の方法論とか技術を、いつの間にか劇団所属の俳優が掴んでいることに気付いて。例えば、客演で入った劇団の俳優さんが、セリフの言い方に困っている時に、ヌトミックの劇団員が「こうやってみれば?」とサポートすることもあって、それがいいなと思ったんですよね。
だから、メンバーを募集したのは、劇団のためはもちろんですが、何よりもいい作品をみんなで作っていくため、という感じですね。

端南極はちょっと前まで劇団員の半分ぐらいが会社員などをしていたんですけど、動員も増えてきて劇団員一人ひとりの南極を大きくしたいという思いが強くなってきたんです。南極には、俳優や脚本家はもちろん、絵を描く人も音楽をつくる人も美術を手掛ける人もいて、例えばMVを作ってくださいって言われたら、劇団員だけで完成させられるんです。だったら、いっそのこと会社にしてしまおうと。

山本卓卓(範宙遊泳)×額田大志(ヌトミック)×端栞里(南極)いま注目の劇団が集う『われらの血がしょうたい』再演鼎談

稽古のはじめに毎回やっていた「チェックイン」の記録
雑談をつくり出し対話につなげる重要なエクササイズ
――端さん、額田さんに聞きます。南極やヌトミックと較べて、稽古の仕方などで違いを感じるのはどういうところでしょう?

端もう、何から何まで違うなと思います。真逆だなと思うくらい。 範宙遊泳では脚本を解体して、全員で読んで、色々な方向性で何回も試して、同じシーンを4時間5時間とかやったりする。
だから、そこまでやってようやくたどり着いた境地は、当然、納得感のあるものになるんですよね。南極は試して試してっていうより、「こういう風にしたいよね」っていうひとつのゴールをまず共有して、全員でそこに向かっていくので。今やっている稽古は本当にゴールがなくて、全員で考えて考えてって感じでやってます。でも、皆さんがすごく楽しそうにやられるから、すごく豊かな時間が流れている稽古場だなと思います 。

――脚本の中に答えではなく手がかりになりそうな問いがあって。それをヒントにみんなで模索しながらつくっていく?

額田そうですね。で、その脚本の中の手がかりを頼りに演出していくのが、すごく楽しいです。『われらの血がしょうたい』って、演技の方向性に対する可能性がたくさん秘められたテキストだと思うんです。
なので、それを掘り進めてト書き通り全部やってみたりとか、どんどん試していく。端さんもおっしゃっていましたけど、可能な限りのパターンをほぼほぼ全てやり尽くした結果、すごくいいものができている気がします。俳優さんも日々新しい解釈を持ってきてくれるし。でも、それは多分、範宙遊泳の劇団員だからできる部分もあるかなと思います。とにかく作品を面白くしようという一心で、一度決まったところでもどんどん変え続けて試行錯誤しているところです。

山本卓卓(範宙遊泳)×額田大志(ヌトミック)×端栞里(南極)いま注目の劇団が集う『われらの血がしょうたい』再演鼎談

稽古中の端栞里(撮影:粂野泰祐)

再演は“悔しさ”から。観客の細胞が1ミリでも動くものを


――山本さん、このタイミングで『われらの血がしょうたい』を再演しようと思った理由を教えてもらえますか?

山本明確に思っているのは、「悔しい」ということですね。これは今回に限らず、作品を発表するたびに毎回思うことなんですけど、僕は批評をすごく求めていて、尊敬もしている。でも、反応を見ると「本当にちゃんと観てくれた?」みたいな悔しさが常にあるんです。
だから、誉めるのでもけなすのでもいいから、とにかく批評してくださいと。だから、正直に言うと『われらの血がしょうたい』に限らず、過去作をどんどん再演していきたい気持ちはあって。その中でも、今蘇るべき時期だなと思ったのがこの作品だった、ということです。

――受け取った側が何か考えざるを得ない作品なんだろうな、という予感はしていますが、いかがでしょう。劇場に入る前と出たあとでものの見方とか価値観が変わるといいますか。

山本それは重要ですね。お客さんが上演を観る前と観た後で、なにかちょっと変わるんじゃないかっていうことに期待しながら創作をしていますね。観て細胞が1ミリも動かないようなものはつくりたくないなっていうのは、いつも考えていることなんです。
例えば、怒りにうちひしがれるほどつまらなかった、みたいなのもまたありだと思いますし。だって、それってその人を変えたことになるから。もちろん、面白いものを作りたいと思って全力でやっているわけなんですけど、上演を受け取った人が無意識にでも影響を受けるようなことができたらいいなと思います。

山本卓卓(範宙遊泳)×額田大志(ヌトミック)×端栞里(南極)いま注目の劇団が集う『われらの血がしょうたい』再演鼎談

稽古場で机を並べるふたり
――最後に、本作を観るかどうか思案している方に向けて、メッセージをお願いします。

山本観たあとで、時の流れがわからなくなると思います。今いる場所はどこだろう、この時間はいつだろうって。そういう体験はあまりないんじゃないでしょうか。観劇後に脳内が一回リセットされて、「あれ、そういえば自分ってなんだっけ?」「自分が立ってる場所ってどこだっけ?」「今、西暦何年だっけ?」、みたいなことを考え直すことになるんじゃないかと。
それは体験として、お客さんにとってかなり気持ちのいいことだと僕は思ってます。そういう気持ちになることにちょっとでも興味があるなら、観に来て欲しいし、僕が言ったことも伝わるんじゃないかなと思ってます。額田あとは、範宙遊泳とヌトミックと南極がすべて見られる、かもしれない(笑)そんな作品にもなっていると思います。『われらの血がしょうたい』という作品を器にした、三つの劇団の邂逅もお楽しみいただけたら。

取材・文:土佐有明

<公演情報>
範宙遊泳『われらの血がしょうたい』

作・映像山本卓卓
演出・音楽額田大志(ヌトミック)
アートディレクションたかくらかずき

出演井神沙恵、植田崇幸、埜本幸良、福原冠、端栞里(南極)

2026年2月21日(土)〜3月1日(日)
会場:シアタートラム

関連リンク
チケット情報:
http://ticket.pia.jp/pia/event.ds?eventCd=2547720(http://ticket.pia.jp/pia/event.ds?eventCd=2547720&afid=P66)

公式サイト:
https://www.hanchuyuei2017.com/wareranochi

提供:

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