ODD Foot Works、進化と決意を示した単独公演『ODD inc.』レポート「でっかいODDの輪を広げていきたい」
Photo:町田千秋
Text:高木 "JET" 晋一郎Photo:町田千秋
ラップのPecori、ギターの有元キイチ、ベースの榎元駿で構成されるバンド・ODD Foot Works。アルバム『Master Work』などのリリースはもちろん、『VIVA LA ROCK』などの大型フェスへの出演、そしてNumber_i「GOAT」などへのPecoriの楽曲提供をはじめとする、それぞれの外部仕事やソロワークでも多くの注目を集める彼らが、ワンマンライブ『ODD inc.』を渋谷クラブクアトロにて、5月13日に行った。
THE ORAL CIGARETTES presents『WANDER ABOUT 放浪 TOUR 2024 東海編』への参加や、ゲストライブなどはあったが、単独公演としては約半年ぶり、2025年では初となるODD。その待望感を反映してか、開場と同時に多くのファンがフロアに詰めかけ、この日のパフォーマンスへの期待の高さを感じさせる。
Pecori(rap)
そして会場の明かりが消え、雷鳴のような音響とカセットの装填音によるSEが流れると、ODD Foot Worksと、サポートドラムの箱木駿がステージに登場。その姿に大きな歓声が上がる中、2019年リリースのアルバム『GOKOH + KAMISAMA』収録の「Jelly fish」からスタート。そのまま間髪入れず、バンドの結成当初から歌い続けられる2017年リリースの1stミニアルバム『ODD FOOT WORKS』収録の「Tokyo Invader」へ。現在のODDとしてのサウンドとしての厚みを形にするパフォーマンスと、ずっと変わらない会場から沸き起こる「インベーダー」というレスポンスには、バンドとリスナーとの幸せな関係性が存在した。
有元キイチ(g)
「盛り上がってますか!」とPecoriが会場を煽り、ライブならではの榎元のベースと有元のギターのソロセッションも刺激的な2023年リリースの『Master Work』収録の「燃えろよ桜」。そして制作中というニューアルバムから5月28日に先行リリースされる「NO NAME DANCE」へ。Pecoriがヴァースを、フックは有元が取る形態のこの楽曲は、ラテンともディスコとも言える複雑なビート感をODD流にアレンジした、様々なジャンルのマージナルにある彼らの存在を証明するようなダンス・ポップだった。その意味でも、冒頭の4曲で原点から現在、そして未来を一気につなぎ合わせる構成は非常にスリリングであり、スピード感と変化はありつつ、そこに決して断絶はない。それはODDのミュータント的なオリジナリティがどの曲にも通底しているからだろう。そして箱木駿のドラムブレイクから「CIRCLE」に展開し、「NDW」では再び会場から合唱が沸き起こった。
榎元駿(b)
「クアトロいいね。今年初めての単独ライブに来てくれてありがとうございます。
みんな良い目してるっすね」とオーディエンスに呼びかけるPecori。またこの日の会場でも物販されていた、『ODD FOOT WORKS』『Master Work』のアナログ化についてのアナウンスがされると、会場からは拍手が上がった。
会場全体が手を掲げ、オーディエンスの一体感に包まれた「逆さまの接吻」、ボーカルパートとフリーキーなラップフロウをシームレスに繋げ、打ち込みのエレクトリックさと、バンドサウンド的な生感が混成する、彼らの有機性を象徴するような「ジュブナイルジャーニー」、疾走感で一気に観客を盛り上げる「卒業証書」に接続し、会場の熱気は更に高まっていく。
しかし、ここでその熱をコントロールするように、ダウンビートな「ODD Knows」、抽象的な音像と言葉で構成される「nightcrawler」への展開は、ベタに着地しない、彼らのひねくれたセンスを物語るような流れだ。そして観客もその急激な加速と減速を楽しむように、音の波に飲まれるように、それぞれのタイミングで身体を揺らす姿が印象的であり、ODDサウンドの自由さを共有しているとも感じられた。
そしてTRAP以降のビート感とロックサウンドを綯い交ぜにした「SEE U DAWN」から、新曲となる「龍」へ。ファンクとも言えるようなミニマルなアプローチと、"間"で聞かせる構造はODDの新機軸を感じると同時に、後半以降ではそのサウンド的な情報量が加速度的に増えていき、そのひと癖ある作品づくりもODDらしい。
続くMCでは、新たに自身たちを中心にした会社「株式会社ODD Foot Works」を立ち上げたことを観客に報告。
「俺(Pecori)が社長で、(有元)キイチとエノキ(榎元)が取締役。本当に会社だから、何十回も(設立書類に)ハンコを押しまくった。この会社にはぶっちゃけ未来しかない。自分たち3人でやっていくことには心配はもちろんあるけど、そこで必要なのはみんなの力。俺が大好きなみんなを頼りにしていきたいし、今後もマジでついてきてほしい。今日のクアトロから、1万人を目指していきたいし、到達する気概が俺達にはあるし、でっかいODDの輪を広げていきたい」と観客に呼びかけるPecori。有元と榎元も同じように話し、観客からは大きな拍手が上がった。
続いて新曲「ジョニー&アヤコ」(仮)を披露。
比較的分かりやすい譜割りのPecoriのラップに、有元の流麗なフックが繋がるという、ポップな感触の一曲だ。「ライブも終盤になってきました。盛り上がれますか」という呼びかけから「GOLD」。"お前の夢をGoldに"というリリックは、新たな一歩を踏み出そうとする、そしてその歩みに賛同するリスナーへのメッセージとして、この日にはふさわしい言葉になっただろう。それはタフでヘビーなロックサウンドを聴かせる「この曲」での"あなたの為だけに"というリリックも同様だろう。「WA WA WA」へ。榎元の泳ぐようなベースとリズム隊の変拍子、複雑なコード進行の一方で、フックではキャッチーに着地し、これまでのODDの作品的な系譜にあるような、彼らの王道的な一曲だと感じた。本編のラストは「Summer」。
Pecoriの"サマー!"というシャウトで会場からは大きな歓声があがり、その熱を保ったままステージは一旦幕を閉じた。
そしてアンコールは「Feet Feet」からスタート。Pecoriのボーカルと有元のギターというシンプルな始まりから、中盤では原曲よりもバンドでのセッション性や、ドラムブレイクが強調されたパワフルなアレンジにサウンドは変化していき、会場の温度は再び高まっていく。榎元のベースソロから始まり、Pecoriのラップから有元のボーカルに繋がっていく新曲「iPhone3000」は、タイトルはヘンテコだがそのドラマティックなサウンドはODD印といえるだろう。
箱木駿(ds)
「今日は来てくれてサンキュー。これからも俺達から感謝を伝えさせてください」という言葉に続き、晩夏にアルバムを出すことと、それに伴った全国リリースツアーを行うことを宣言したPecori。期待のこめられた拍手に包まれながら、ラストはODDの原点とも言える「夜の学校」でライブを締め、メンバーはステージを後にした。
クラシックから現行曲、そしてこれから音源化される新作まで満遍なく披露し、ODDの現在地点を遺憾なく描き出した本公演。
メンバーのパフォーマンスの精度と共に、愛にあふれるオーディエンスの反応も含め、これからのODDの新たな飛躍をしっかりと感じさせた。
<公演情報>
『ODD inc.』
5月13日 東京・渋谷クラブクアトロ