ねぐせ。、Cody・Lee(李)と祝ったリーガルリリー結成10周年記念公演「ロックという宝物の中に今日一日を入れたい」
Text:石角由香Photo:藤井拓
リーガルリリーがバンド結成10周年のアニバーサリーツアー『リーガルリリー 10th Anniversary TOUR 2024』を7月5日のZepp DiverCityでスタートした。7月5日はベースの海が加入した記念日=リーガルリリーの「海の日」として、これまでもイベントを開催してきたが、今回は彼女たちの所属レーベル、キューン・ミュージックの同世代バンドであるCody・Lee(李)とねぐせ。を迎えたスリーマン。事前のインタビューでたかはしほのか(vo/g)と海が語っていたように、それぞれがそれぞれのロックを持っていることへのある種の寛容さだったり、これまでロックに残されてきた爪痕を今度は自分たちが残す側になってきたという自信を体現するイベントになった。それはリーガルリリーの新たなチャプターが開かれた時間でもあったのだ。
トッパーは今年6月、結成3年あまりで早くも日本武道館公演を成功させた次世代バンドねぐせ。だ。ひとつのジャンルに拘泥せず、“笑顔がモットー”を掲げて昇華する、新しい価値観を体現しているロックバンドと言えるだろう。
勢いよく飛び出してきた4人に盛んに声援を送るオーディエンスも散見され、リーガルリリーのワンマンにはないムードが漂う中、1曲目はアッパーな8ビートが小気味いい「愛してみてよ減るもんじゃないし」。恋愛初期の心情を綴るユニークな歌詞を飛翔させるメロディを持っていて、りょたち(vo/g)の声の良さも相まって心に届く。
ねぐせ。
シームレスにタイトル通り意思表明的な「死なない為の音楽よ」につなぎ、バンド史上最速BPMの「あの娘の胸に飛びこんで!」では、怒濤のブラストビートも去ることながら、学年カースト最上位のマドンナの文字通り胸に飛び込む計画と妄想が炸裂。“メロメロメロメロ”のシンガロングを巻き起こす。「曲調もMCも違うバンドで、初めて観る方もいるのっていいな」と話すりょたち。そのマインドが徐々にフロアを温めていくのが手に取るようにわかる。
りょたち(vo/g)
りょたちがハンドマイクで歌う人力ローファイヒップホップ調の「恋と怪獣」の頃にはクラップのボリュームもずいぶん大きくなっていた。
ポップスとしてのクオリティも高い「ずっと好きだから」や「グッドな音楽を」でバンドのレンジの広さを印象付けた後、再度「あの娘の胸に飛びこんで!」をさらにバースト気味なプレイでやり切る。バンドであることの楽しさを全身で表現した40分だった。
しょうと(b)
なおと(ds)
続いては6月にメジャー2ndアルバム『最後の初恋』をリリースしたばかりのCody・Lee(李)がサポートメンバーを伴い6人編成で登場。リーガルリリーとはこのアルバムの収録曲でもある「生活」にたかはしほのかがゲストボーカルで参加していることでもお馴染みだ。高橋響(vo/g)の自己紹介と全員が声を合わせる4カウントから「涙を隠して(Boys Don’t Cry)」がスタートする。インディ/サイケ感のある力毅(g)の音色とガレージっぽいニシマ ケイ(b)のフレーズが特徴的で耳も目も惹きつけられる。
Cody・Lee(李)
かと思えばシティポップ調の「異星人と熱帯夜」のようなポップチューンでウォームに包み込んだり、組曲風に展開する「烏托邦」のようなプログレッシブな曲を堂々とライブで展開していく胆力に瞠目させられる。フジファブリックやくるりといった先人のロックのおもしろさと、フィッシュマンズのダブ感、TOKYO No.1 SOULSETの日本語表現などの影響が端々に伺えるこの大曲。
徐々に高まっていた熱量が大きな拍手と歓声に表れていた。
高橋響(vo/g)
力毅(g/cho)
MCは中盤に高橋が発した「リーガルリリー10周年おめでとうございます」という祝辞のみ。「生活」で積み上げられていく日常の描写とその愛しさに胸苦しささえ感じさせ、高橋のソングライティングと端正な演奏が染み込んだ。かと思えば、ラストの「初恋・愛情・好き・ラヴ・ゾッコン・ダイバー・ロマンス・君に夢中!!」では対バンという、いわば“人の家”なのに大いに散らかして大暴れして、フロアをがっちりロックオンしたのだった。
ニシマケイ(b/cho)
原汰輝(ds/cho)
すっかりフロアの空気が温まったところに現れたリーガルリリー。冒頭からたかはしが出すフィードバックに大きな歓声が上がり、この対バンのマインドを表現するような「若者たち」が鳴らされる。晴れやかな孤高とでも言うべきバンドアンサンブルは彼女たちならではのものだ。青い季節のムードは「17」の軽快なビートに接続。
タイトなリズム隊、たかはしの乾いたカッティングとトレブリーなソロが愛らしさのある曲にフックをつけていく。3ピースの音で他の誰でもないアイデンティティを証明していく今のリーガルリリーの強さがオーディエンスを引き込んでいく。
リーガルリリー
ピックを挟んだ右手を挙げ、「リーガルリリーです!」と、たかはしが挨拶したと同時に三つの楽器が畳み掛けてくるイントロに大きな歓声が上がる。「東京」だ。全身を使ってグルーヴの核を生み出している海はさらに自由になった印象だし、サポートのUrara(ds)の緩急の効いたドラミングは現在のバンドの推進力だ。続く「ハイキ」では後ろ乗りのダンスチューンっぽいリズムが新鮮。開かれた風通しの良さと、この一瞬に賭ける集中力の両方が聴き手である私たちの感性に挑んでくる。プレイヤーとしての3人それぞれの個性も視覚・聴覚にはっきり刻まれた。
たかはしほのか(vo/g)
海(b)
Cody・Lee(李)とねぐせ。に感謝を述べ、「リーガルリリー 10thAnniversary TOUR、今日から始まります」と述べたたかはしの口調はまるで宣誓のようで、フロアの拍手にもお祝いのニュアンスが籠る。そこに新たなリスナーもつかんだ新曲「キラキラの灰」をセットしたのもハマりがいい。ライブで聴くと、ヴァースでの地声の歌メロがより新鮮に感じられた。また、海のコーラスも相まって、ガール版ジュブナイル(語義矛盾だが)にワクワクが止まらないのだった。そのマインドで“ばかばっかのせんじょうにギターを1つ持って”と、歌い始める「ジョニー」につながる清々しさは破格だ。死生観が綴られた曲ではあるが、どんな世界でも愛し合って生きることは絶対譲らないだろう。それは表現の仕方こそ違っても、この日の3バンドに共通していたと思う。
さらに、コードワークとビートがチェイスするスピーディな「60W」が新鮮なアンサンブルを実感させ、歌詞に宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」と、藤原新也の「メメント・モリ」を想起させる部分も交錯して、イメージはどこまでも拡張して行った。さらにアナウンスもなく突如として弾き語りから始まった未発表曲「ムーンライトリバース」と、バンドの今を表現した後、海の重く深い低音フレーズが地鳴りを起こす「1997」に思わず叫び声が上がる。生の捉え方が超越的でもあり、時に生々しいたかはしの個性が広く共感されることで言葉にならない信頼感がフロアに広がっていた。すごいパワーだ。
「よし!」と、意を決した様子で新曲を初めて演奏するというたかはし。曲名は「天きりん」といい、あとでわかることなのだが、ニュー・アルバム『kirin』の一曲目となるナンバーだ。オルタナティヴなギターロックのダイナミズムをたっぷり含み、歌詞には“下北沢ざわざわ”など、バンド活動のリアルな原点も見てとれたが、しっかりと歌詞カードを見ながら早く聴いてみたい。初披露に達成感があったのか、両手を挙げるたかはしをはじめ、気持ちが加速した3人が鳴らす「リッケンバッカー」の出だしに絶叫で反応する人も。
“おんがくよ、人を生かせ”のロングトーンがどこまでも伸びていくと同時にこちらの心の震えが高まる。バンドがタフになるにつれて、この曲がスタンダードなロックナンバーに育ったことを改めて認識した演奏でもあった。
やまないアンコールに応えて再登場したメンバーは嬉しさが溢れ出ている。たくさんの告知をする海も嬉しそうでたまらない。それもそのはず、2年半ぶりのフルアルバム、初の台湾でのワンマンライブ、東京でのツアーの追加公演という走り続ける今のバンドを映したインフォメーションだったのだから。
リーガルリリー 10th Anniversary TOUR 2024〜海の日〜
“ロックンロールクロー”
2024年7月5日Zepp DiverCity