“愛される悪役”をめざして――内海啓貴、『ピーター・パン』フック船長への挑戦
(撮影:藤田亜弓)
「まさか、自分が」。ミュージカル『ピーター・パン』のフック船長役に自分が起用されたと知って、内海啓貴はそう思ったという。1981年の日本初演以来、多くの人に愛されてきたこの作品で主人公のピーターと並ぶ“作品の顔”であり、しかもピーターの前に立ちはだかる“敵”。「憧れのひとつでもあった悪役への挑戦」と公式サイトでもコメントしているように、内海にとって大きなチャレンジとなる作品・役柄となるだろう。その思いを、率直に語ってもらった。
ピーターと近い年齢差も武器に。自分なりのフック船長像を模索中
『ピーター・パン』という作品について、内海は子どもの頃にアニメやディズニーキャラクターを扱ったゲームなどを通してふれていたという。ミュージカル版ももちろん存在は知っていたが、昨年初めて観劇、「すごいな!」と思ったそう。
「たくさんサプライズがあって、夢あふれる作品です。
フライングがあることも知ってはいたけど(実際に観ると)本当に素晴らしいし、長谷川寧さんの演出はパルクールなど素敵なパフォーマンスを見せてくれる方たちが蠢き合っている。何より『これがネバーランドの日常だ』というようすも描かれていて、いろいろな想像が広がる作品だと思いました」
もちろんフック船長も非常に印象的だったそうだけれども、自身にとっては「まだ早い」ものと感じた。
「フック船長とダーリング氏は、一人二役で演じる本当に魅力的なキャラクター。去年観た時はまだ出演の話は何もなかったので、『いつかこういう役を演じられたらいいな』と思っていたんです。そうしたら1年後に出演することが決まって、身の引き締まる思いです。正直言うと自分にできるのか不安もありましたけど、寧さんがワークショップを重ねるなかで、今回のキャストでどういう風に創っていくのかイチから練り直してくださっていることがわかるんです。だから寧さんを信頼して、体当たりで役を創っていきたいですね」
既に開始しているワークショップでは、フック船長のキャラクターをかためてしまわずにいろいろな可能性を模索している最中なのだとか。「例えば『ナルシストな感じでやってみて』とか、僕に合うフック船長像を模索しています。
僕は歴代のフック船長役の方々に比べて年齢的に若い方だと思うし、ピーター・パンとすごくかけ離れているわけではない年齢差もうまく武器にしたいですね。ビジュアル撮影では目元に青のラメを入れたりして、少し華やかな感じになったんですよ。左手につけたフックは歴代のフック船長がつけている物だそうで、歴史を感じたし、とても重みがありました。僕としては、この間まで子どもだったけれど大人になって、ちょっと俯瞰して見ているような感じのフック船長として、ピーター・パンに負けないくらいアグレッシブに動き回れるように身体作りもしています」
ピーター・パンを演じる山﨑玲奈とは、今回初共演。ちなみに彼女は内海フックを「王子様みたいなフック船長」と言っていたそう。内海が昨年観劇した際、彼女のピーターはとても印象的だったと語る。
「原作からイメージするピーター・パン像がそのまま出てきたような、ピュアで明るいピーター。ビジュアル撮影で会った時も明るく接してくださって、本当にピーター・パンにふさわしい俳優さんです。
客席から観ていても、子どもにはしっかりと夢を与えて、でも大人にとっては(心の奥に)閉じ込めていた何かの蓋を自然と開けてしまうような感じで、劇場を温かくする力を持っている俳優さんだと思いました」
劇場全体に『ピーター・パン』の世界が広がっていくワクワク感は、ライブ・パフォーマンスであるからこその魅力。さまざまな名曲や見せ場のある本作で、内海が特にお気に入りの場面を挙げてもらった。
「特に印象的なのは、やっぱりピーター・パンが窓から家の中にブワ~ッと出てくる初登場の場面ですね。第1幕ラストの『アイム・フライング』の奥行きのある場面も、サプライズがたくさん散りばめられていてすごく面白い。海の波も布で作ったりして人間の肉体をしっかりと使った演出が散りばめられていて、寧さんの作品はすごく体温を感じます」
子どもたちに“いい傷”を残したい
『ピーター・パン』は小さな子どもたちも楽しむファミリー・ミュージカル。これまで内海が出演してきた作品とは、客席の空気感も少し異なるのでは……?
「公演中(取材は2月下旬)の『レイディ・ベス』とは全然違う空気感になるでしょうね。観に来てくれたお子さんたちには『かっこいい』とか『怖い』とか、いい意味で傷を残したい。その傷がかさぶたになって、傷跡になって、大人になった時に『この傷なんだっけ』『こんなこともあったな』と思い出して、もう一度劇場に足を運んでみたいと思ってもらえるようなフック船長でありたいんです。
フック船長は悪役ですけど、どこか愛しちゃうというか好きになるチャーミングさがある。ただの悪役ではなく“愛される悪役”をめざして創っていきたい」
内海にとって「憧れのひとつでもあった」という悪役。その魅力は、どういうところにあると感じているのだろう。
「フック船長もそうですが、悪さをするただのチンピラではなくて、ものの見方が違うだけでその人なりの正義を貫いている。本人は悪いことをしようと思ってやっているわけではないけれど、行動などを見ると結果的に悪役になってしまったという感じですね。昔から、特撮ヒーロー作品でも敵役はクールでかっこいいし、主人公よりも敵のほうを応援したくなってしまう自分がいました。怪獣の人形を買ってもらったりもしましたね。僕はヒール顔ではないけれど……どちらかというとヒーローの味方な顔でしょ(笑)?でも少しずつ心から創っていって、顔も悪役になっていけたらいいなと思っています」
いかにも、という見た目の悪役でなくとも、笑顔で一見人懐こそうだけど実は陰で策略を巡らすような悪役も存在する。
“笑顔だからこそ怖い”敵役も、ひとつのあり方ではないだろうか。
「それもアリですよね。劇場をヒンヤリさせる瞬間の心地よさみたいな部分が、本番を通して出せればいいな」
自身の持ち味を生かしたフック船長に、大いに期待したいところ。ちなみに、内海はいつも自身の役をSNSで「#フェリよし」(『レイディ・ベス』のフェリペ)などとハッシュタグつきで発信していることも、気になるポイント。
「『#○○よし』は毎回やっていますからね。今回は『#フックよし』にしようかな(笑)」
ミュージカルを通じて感じる、俳優・内海啓貴の変化
『ロミオ&ジュリエット』『ミセン』『1789―バスティーユの恋人たち―』など、ミュージカル作品での活躍も目覚ましい内海。最近の出演作を通して、自身の成長や変化はどのように感じているのだろう。
「これまでは“新人”の枠でやってきましたけど、だんだんと新しい役者が出てきて、もちろん先輩方も大勢いますが、客観的に見て“中堅”になってきたのかなと感じます。
『ロミオ&ジュリエット』のベンヴォーリオも『1789』のデムーランも、そうした後輩と先輩の間でうまくバランスをとることを求められるような役どころでした。例えばベンヴォーリオだったら、突っ走って行っちゃうマーキューシオと天然でロマンスを語っているロミオとの間で『もう、いい加減にして!』と言いながらバランスをとっている。どちらか片方に寄りすぎても良くないし、そのバランスも(ダブルキャストで)キャストが変わると違う面白さがあるんです。自然と人の芝居をより見るようになったし、芝居を受ける側としてはどうやって受け取るかというセンサーも敏感になったような気がします。前以上に広い視野で現場を見て、自分の役の立ち位置などもより明確に見えるようになってきました」。
確かに、そうした“バランサー”としてのセンスのよさは今後の内海の大きな武器になるはずだ。そして、あらためて「ミュージカルの魅力とは何か」と尋ねてみた。
「それは、お芝居あり、歌あり、ダンスあり、すべてのエンターテイメントが詰まっている面白さじゃないでしょうか。
そのなかでわかりやすく、リアリティーから少し離れてやや大げさに演じてはいますけど、感情が芝居だけでなくメロディーから、歌から蠢いている感じを、観て、聴いて、五感全部で楽しめることがミュージカルの魅力じゃないかと思います。ミュージカルは“非日常”。そこで非日常を体験したら『また明日も頑張ってみようかな』と思える、日常生活の活力になるエンターテイメントだと思います。特に『ピーター・パン』は、そういう作品ですよね」。
では、ミュージカルというジャンルにおいて「こういうことを表現していきたい」「こういう作品に出てみたい」「こういう方とご一緒してみたい」といった目標や希望、展望は?
「フック船長もそうですけど、何かの役を演じて、それを観に来てくれたお客様や関係者の方たちに『あの役、内海に合うんじゃないか』といろいろな想像をしてもらえる役者になっていきたいですね。『ピーター・パン』のような歴史ある作品にもどんどん出ていきたいし、例えばホリプロ作品であれば『メリー・ポピンズ』や『ジキル&ハイド』のような作品にも出ていけるように頑張っていきたいと思っています。それに、オリジナルの新作でイチからものづくりもしてみたいですね」
今後の出演作を楽しみにしつつ、最後に『ピーター・パン』に向けて意気込みとメッセージを語ってもらった。
「今演じている役(『レイディ・ベス』フェリペ)もそうですけど、これまで積み上げてきたものを活かして、よりアダルティな役どころに挑戦したいですし、フック船長もそういう色気みたいな部分も出していけたらいいなと思っています。30代になって、これまでの自分にはなかったものを発見できたらと思いますし、そのなかで『ピーター・パン』を届けるにあたって、子どもには夢を与えたいし、観に来てくださったお母様はメロメロにしたい(笑)。大人も子どもも楽しんでいただける作品にしたいと思っています。楽しみにしてください」。
取材・文:金井まゆみ撮影:藤田亜弓
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詳細は こちら(https://lp.p.pia.jp/article/news/460905/index.html) から
<公演情報>
青山メインランドファンタジースペシャル
ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』
原作:サー・J・M・バリによる作品を元にしたミュージカル
作詞:キャロリン・リー
作曲:モリス(ムース)・チャーラップ
翻訳・訳詞:福田響志
演出・振付:長谷川寧
音楽監督:宮川彬良
美術:BLANk R&D
照明:齋藤茂男
音響:井上正弘
衣裳:高橋毅
ヘアメイク:河村陽子
アクション・パルクール:HAYATE
映像:anno lab
フライング:松藤和広
歌唱指導:福井小百合
パペット操演指導:黒谷都
振付助手:溝上瑞季/仙石孝太朗
アクション・パルクール助手:ASUKA/木村光
稽古ピアノ:井出幸子
演出助手:坂本聖子/三浦栞優
舞台監督:小澤久明/瀧原寿子
エグゼクティブ・プロデューサー:堀威夫
【キャスト】
ピーター・パン:山﨑玲奈
フック船長:内海啓貴
ウェンディ:山口乃々華
タイガー・リリー:七瀬恋彩
ダーリング夫人:皆本麻帆
ロストボーイズ*:梶みなみ、栗原沙也加、角田萌夏、西田杏奈、松尾音音
パイレーツ*:池田遼、鈴木真之介、高木裕和、武井雷俊、松本涼真、横山祥子
モリビト*:ASUKA、小原睦希、庄田あかる、杉本栞太郎、住玲衣奈、髙中梨生、堤絆兎、中川友里江
スウィング:三井夕萌、木村光
*五十音順
※子役キャストは今後発表
【東京公演】
2026年7月27日(月)~8月7日(金)
会場:東京国際フォーラム ホールC
【大阪公演】
2026年8月16日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール
【愛知公演】
2026年8月22日(土)~23日(日)
会場:御園座
【山梨公演】
2026年8月29日(土)~30日(日)
会場:YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
公式サイト:
https://horipro-stage.jp/stage/peterpan/