ジ・エンプティ×Maki「これからもヤバい景色を作っていこう」、新代田FEVERが揺れ続けた熱狂の『覚醒少女ツアー2025』最終公演
Text:ヤコウリュウジPhoto:稲垣ルリコ
福岡県久留米市発のロックバンド、ジ・エンプティが3rd EP『覚醒少女 e.p.』を引っ提げた『覚醒少女ツアー2025』の最終公演を2025年10月31日、東京・新代田FEVERで開催した。全21カ所、長丁場のツアーに対して拭いきれない不安もあったようだが、メンバー全員が作詞・作曲に参加した新曲たちによってライブの幅も広がり、仲間のバンドや観客と共にステップアップ。そのツアーファイナルとなったこの日は、先輩でもあり、敬愛するMakiとガチンコツーマン。お互いにロックバンドとしての誇りやプライドをぶつけ合い、満員御礼の新代田FEVERが常に揺れ続けるほど煮えたぎる夜となった。
「ツアーファイナルってことで、Makiしかいないっしょ、と呼んでもらいました。少女だけじゃなく、男のオレも覚醒して帰りますんで」と山本響(b/vo)の宣言から「ストレンジ」を投下したMakiは、とにかく熱量と音圧と音量がすさまじい。始まった瞬間からハンマーをぶん回してるような迫力だ。「見せてくれ!」と山本がフロアを焚きつけ、佳大(g)とまっち(ds)も互いに感じ合いながら尋常じゃないグルーヴを生み出す。
先輩として、仲間としてカッコ悪い姿は見せられない。青いライトに照らされて、蒼炎の如く燃え上がった「フタリ」と続けば、呼応した観客が大きなシンガロングを起こし、最高のスタートダッシュを決めていく。
Maki
ただ、そんなもんじゃ満足しないのもMakiらしいところ。「ロックバンドっていうのがどんなもんか、教えてやるわ」と山本が煽って「銀河鉄道」を突きつけ、フロアは大盛況になっていくが、そこで生まれたエネルギーを喰らい、さらに巨大なエネルギーとしてステージから放つ。言わば、力ずくで起こすライブマジック。現場の最前線で戦い続けているバンドにしかできないアプローチだ。
MCを挟んでも勢いが衰えることなく、ついてこれないヤツは置いていくと「虎」、まだまだいくぞという意思表示にしか見えない「sea you letter」と疾走していく中で圧巻だったのが「斜陽」。もっとこい、と佳大が大きく手を広げ、鋭く音を降らしてダイバーも続出していくが、山本が「全然足りない」と言い放ち、再び「斜陽」へ。
ジ・エンプティのツアーファイナル、こんなもんでいいのか、お前らは満足なのか、と問いただし、頼りがいと懐の深さを見せつけていく。
そういった流れでひと際異彩を放っていたのが「Lucky」だ。普段の生活の中から希望を見出すスローナンバーであり、NIRVANAをオマージュしたサウンドアプローチもいい。テンポを落としての温度は下げず、日頃の鬱憤を晴らすように山本と声を合わす観客の姿もまた印象的だった。「オレ、ジ・エンプティのこと好きなんですよ。理由はたくさんあるんだけど、人もいいし、曲もいいし……今の超売れてるロックバンドってホントにロックなのかな、って思ってるヤツじゃん、オレらって。一緒にそれをどうにかしていけたらいいな、って思う仲間です」と山本が胸の内を語り、「会いてえヤツがいるときには歌う曲を」と「平凡の愛し方」をプレイ。Makiが持つジ・エンプティへの、ロックへの思いを共有した観客が起こす大合唱はすさまじく、佳大は足を蹴り上げながらギターを引き倒し、まっちもフルスイングでリズムを叩き出す。
そこから会場にいる全員で「1、2!」と盛大なカウントを決めて始まった「シモツキ」を高温かつ高濃度で鳴らし、この熱気を噛みしめるようにジ・エンプティは同士だと改めて山本が語り、最後は「憧憬へ」を華々しく炸裂させていった。
Maki
Maki
激闘と言えるようなMakiのライブを受け、いよいよ主役であるジ・エンプティの登場だ。「カントリー・ロード(耳をすませば)」が流れ、大きなクラップが起こる中、トクナガシンノスケ(g)、クガケンノスケ(b)、カワカミタイキ(ds)、そしてハルモトヒナ(vo)が姿を表し、「覚醒少女ツアー、ツアーファイナル。やれるヤツ、どんだけおるのか?」と声を張り上げて、まず『覚醒少女 e.p.』のタイトル曲でもある「覚醒少女」で口火を切る。いろんなスタートの仕方があるであろうが、やはりリリースツアーは新作の曲で始まるのがグッとくる。待ってました、とダイバーも瞬時に生まれ、思いっきり拳を突き上げる観客。ヒナが歌う愛らしいメロディー、活力みなぎるサウンド、寂しげな言葉が並ぶところで〈覚醒の火をつけるわ〉と希望を見出す歌詞もいい。ジ・エンプティの真骨頂とも言える曲だ。
よりブーストをかけるべく、「福岡県久留米市、フロムWEST POINT、ジ・エンプティ始めます!」とヒナが改めて宣誓して「飛べ! 飛べ! 飛べ!」と、シンノスケもモニターに飛び乗ってアジテートしまくった「MY SWEETIE」、観客ひとりひとりに呼びかけるように歌い、「革命」と序盤から破竹の勢いを見せる。観客の大シンガロングに対して「受け取ったぞ!」と叫び、さらに前へ踏み込んでいくヒナ、シンノスケもケンノスケもぶっ倒れそうなノリで引き倒し、そんな狂乱でもブレない土台を支えるタイキ。ツアーで培ってきた力も見せつけてくれる。
Makiの大熱演に対して「(山本)響くん、ロックスターすぎ!」と賛辞を送りつつ、「いや、オレもカッコいいし!」とヒナが見得を切ってから始めた「テイクミーアウト」もド迫力。ツアーファイナルだから、ということでもないだろうが、やるか・やらないか、の2択ではなく、どれだけやれるか、という1択しかないのがジ・エンプティたる所以。後ろで観ているMakiのTシャツを着てる観客の顔が物理的に見たい、とヒナ、シンノスケ、ケンノスケは観客の上に乗ってフロア中央まで進み、「おやすみレイディ」を炸裂させたのが何よりの証だろう。
ジ・エンプティ
ジ・エンプティ
シャトルランを繰り返していたようなライブもここでひと呼吸。「マジで今週1週間、お疲れさま。
みんな来てくれてありがとうね」と観客を労うヒナ。そこからツアーを振り返り、「21本とかさ、こんな大層なもん、やったことがなかったけん、クソ心配でどうしようもなかったけど、みんなの顔を見たらいいツアーを回らせてもらってたんだな、と心から思いました」と語ってから、陶酔するように弾くケンノスケや〈うまく言えずに〉というフレーズで声を合わせる観客の姿も記憶に残る「曖昧」、高揚感のあるメロディーと軽快なリズムで心を弾ませる「ウルトラロマンティック」を続け、音に重みは持たせたまま優しく包み込む「とまらない愛を」をプレイ。勢いだけじゃない、奥深さを見せつける中盤ブロックであった。
「21カ所、たくさんバンドに力を借りて、覚醒を超えちゃってるぐらいの、目がバッキバキのみんながフロアにいたことが何より誇らしくて。これからもMakiと、みんなと、ライブハウスで、アイツが好きだとか、アイツのこんなところが嫌だとか、そんなことをグチグチ言いながら……でも、ちゃんと根底にあるモノは変わらないまま、ヤバい景色を作っていこうと心から思いました」ーーハルモトヒナ
そうライブに懸ける思いを口にし、「そんなみんなと今日はやらかしたいわけよ。FEVERを壊したいわけよ。オレたちならできる!」と共闘を呼びかけて放った「ラブソング」は実に鮮烈だった。Makiへの愛情も込め、ここにきてさらに描く上昇気流。
ヒナもグルーヴの中に身を投じるように歌い、本気でのめり込む大切さを伝えてから「連れ出してやるぜ今夜」をドロップ。喜びを爆発させたり、煽ったりするときとは違う目で真摯に歌うヒナ。任せておけ、そんなことを語らずとも伝えるようにも見える姿だった。
ジ・エンプティ
ジ・エンプティ
ヒナ、シンノスケ、ケンノスケ、タイキがしっかり前を見据えて音を飛ばした「俺たち大人になれるかな」をプレイした後、壮大にヒナが歌い始め、「ライブハウス、やりませんか?」と心をくすぐる投げかけからバンドインして猛烈に駆け出した「輝き」、メロディックパンクとスカを融合させたハイブリットナンバー「笑っておくれよ」と続け、最終盤に向けて少し間を開けるかと思いきや、速度を緩めず「バチコイ」、そして本編ラストとして「さよなら涙」を叩きつける。フロアはダイブ、ジャンプ、シンガロングが混じり合い、もうグチャグチャ。だが、その決まり切った形じゃない、まとまりのなさが美しかった。
そして、当然のように起こったアンコールではあったが、ヒナが登場したときに手に持つのはバースデーケーキ。この日、山本が誕生日だったということで、サプライズのお祝いだ。
山本を呼び出し、みんなで「Happy Birthday to You」を大合唱。自分たちが主役のままで終わっていいツアーファイナル。でも、そんなところが情に厚いジ・エンプティらしいところでもある。
ライブ本編、サプライズという重責を果たしたからなのか、アンコールで予定していた曲目を忘れたとヒナが笑い、だったらとシンノスケが観客からリクエストを募って「銀河高速に乗って」を披露し、冒頭に童謡「きらきら星」のメロディーをサンプリングした「BE FINE」、締め括りには本日2回目となった「笑っておくれよ」をセレクト。観客へエールを送るようでもあり、笑顔と熱気に包まれた最高のフィナーレだった。
ライブ中に発表があったように、このツアーを経て進化したジ・エンプティは来年2月1日(日)、地元である福岡・BEAT STATIONにて約2年ぶりとなるワンマン『FROM WEST POINT』を開催する。全国各地を旅してきたジ・エンプティが地元で行う真っ向勝負。きっとこの夜を越えるような狂騒が広がるに違いない。
ジ・エンプティ
ジ・エンプティ&Maki
<公演概要>
『覚醒少女ツアー2025』
2025年10月31日(金) 東京・新代田FEVER
出演:ジ・エンプティ / Maki