【ライブレポート】「TRIAL GATE Vol.4」海外にもルーツや所縁を持つグローバルな活動が期待できるアーティストが登場
Photo:板場俊
ライブシーンで注目となる、次世代を担うニューカマーたちによる完全招待制ライブ「Invitation to TRIAL GATE」の第4弾が、1月21日に渋谷・TOKIO TOKYOで開催された。
今回の出演は、LMYK(エルエムワイケー)、Hana Hope(ハナ ホープ)、由薫(ゆうか)、Foi(フォイ)という女性シンガーソングライター4組。それぞれ海外にもルーツや所縁を持ちグローバルな活動が期待できるアーティストが揃う一夜ということで、会場はたくさんの観客が詰めかけた。
最初に登場したのは、ドイツ人の父と日本人の母を持つシンガーソングライターLMYK。その音楽、歌声を聴いたジャム&ルイス(ジャネット・ジャクソンやビヨンセ、宇多田ヒカルを手がける)がプロデュースを申し出た注目のアーティストだ。
LMYK
2021年にリリースしたシングル「0(zero)」は日本語ver、英語verがあり国内外でリスナーを獲得。ライブではこの「0(zero)」からスタート。鍵盤&マニピュレーターとのミニマルなセットで、クールな打ち込みのビートに歌を響かせていく。
そのボーカルはエアリーで物語性を帯びていて、大きな音が鳴っているのにも関わらず、会場に静謐な時を運んでくる不思議な味わいがある。
この日が今年初めてのライブで、緊張はしていると語りながらも楽しみに来たと笑顔をのぞかせながら、まだリリースはされていない「It’s so fun」や「Tendency」「Sorakara」等美しいメロディと言葉とを紡ぐ。観客はじっくりと言葉ひとつをかみしめるように聴き入っている。
また後半には、現在アニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 2のエンディングテーマに起用され2月に配信リリース予定の新曲「Without Love」を披露した。遥かな時間を想起させるフォーキーなメロディ、歌心にフロアから大きな拍手が湧く。一転してトリップホップ的な「Little bit lonely」、そしてあたたかに語りかけるデビューシングル「Unity」をそっと手渡すように歌い上げた。続いて登場したのは、昨年16歳でデビューし、1stシングル「Sentiment/Your Song」がさまざまな音楽プレイリストで紹介され、またFM局を中心にパワープレイされた、Hana Hope。ソロデビュー以前から、高橋幸宏や細野晴臣らとの共演を果たし、TOWA TEI、ROTH BART BARON等の曲ではゲストボーカルとして招かれ、TVCMでの歌唱、また細田守監督の映画『竜とそばかすの姫』には声優で起用されるなど、どこかでそのピュアでオーガニックな“声”に触れているかもしれない。
Hana Hope
この日のステージでは、ウクレレをポロポロと奏でながら16歳の等身大の心情やこれからへの思いを綴った「16〜Sixteen」からスタートして、ROTH BART BARONによる「Dawn Dancer」、1stシングルの「Your Song」へと続いていった。
Hana Hopeもまた鍵盤&マニピュレーターによるセットで、歌声に熱心に耳をすます観客を前に緊張の色をにじませながらも、1曲、1曲を丁寧に編み上げていく。ウクレレという素朴な生の音でも、ファンタジックなサウンドやポップワールドの住人になったようなキラキラとしたサウンドの中でも、そのボーカルはしなやかで凛とした印象を残す。この歌声だからこそ、続く「きみはもうひとりじゃない」のような曲がとても似合う。
加藤登紀子が詞を江崎文武(WONK、millenium parade)が作曲を手がけたシンプルにして深遠な心の哲学を、微笑みのような柔らかさで伝えられる歌声は大きな強みだ。「それでも明日は」の冒頭でのアカペラパートの引力もあり、そのステージにはフロアから大きな拍手が贈られた。
イベントも後半に突入して、転換中「軽くリハーサルをします」とギターをかき鳴らして「Fish」を歌ったり、「みなさん立ちっぱなしで大変だと思うので、またすぐに出てきます!」と場を和ませてくれたのは、由薫。
幼少期をアメリカやスイスで過ごし、テイラー・スウィフトを入り口にギターを手に取り10代からオリジナル曲を作りはじめて、昨年、映画主題歌に抜擢された「lullaby」でメジャーデビューを果たしたシンガーソングライターだ。
このライブでは、ギタリストとマニピュレーターとの3人のステージで、より歌に焦点を当てたパフォーマンスで魅せた。ルーツにある洋楽的なメロディラインとJ-POPのキャッチーさが混じり合った、ノリやグルーヴがあるメロディと憂いを帯びているがあたたかな温度感があるボーカルが、シンプルなサウンドに映える。
由薫
メロウに紡ぎあげる「my friend」では観客にもゆったりと手を振らせ、「No Stars」では静かに心の火を灯し続けるエネルギーをフロアに注いでいく。デビュー曲である「lullaby」や冬のラブソング「ヒヤシンス」に続いて披露したのは、現在、テレビ朝日系ドラマ「星降る夜に」の主題歌として作品を彩る「星月夜」。ONE OK ROCKのToruがプロデュースを手掛けるこの曲についてはもちろん、ドラマについても熱っぽく語る姿に観客も思わず笑顔になっている。
主題歌をはじめ今年は3月にはアメリカでのショーケース「2023 SXSW Music Festival」出演が決まるなど、活動の密度が増していくとのこと。ぐっとボルテージを上げたラストの「gold」は、そんな希望に満ちた2023年へのエールとして響き、会場は大きな手拍子で包まれた。
この日、ラストは唯一のバンドセットで登場した、日中にルーツを持ったシンガーソングライターFoi。
池田優太(Key/BREIMEN)、土器大洋(G/MO MOMA)、萩原知也(B/Absolute Area)、阿部優樹(Ds/Mellow Youth)というメンバーで、Foi曰く気合いを入れようと全員お揃いでネイルをしたという。その甲斐あってか、いやもともとFoiの陽性のキャラクターもあってか、そのステージはパワフルでエモーショナルで、晴れやかだ。
Foi
イントロダクションとなる「HER」から「Bad Friend」、そして「Countman」へと、前半は透明度の高いボーカルが切なさを加速させる曲でぐっと観客をつかんだと思うと、中盤はバンド・アンサンブルのボリューム感と躍動感のある歌を存分に味わうブロックへ。
グルーヴィな演奏に自ずと観客がリズムをとる「婆娑羅」では、Foiはさらに手拍子を求めて「楽しんで」と声を上げる。サポートを務める土器がアレンジャーで参加し、昨年11月にリリースした疾走感のあるシングル「さよなら」では、キレのあるロックなサウンドの上を自由にはね回るようなボーカルを聴かせる。クールで抑えたトーンからハイトーンまで、軽々と行き来するボーカルが曲のスピードをあげる。
クライマックス感もあって盛り上がる会場に、「まだ帰せません」と最後にプレイしたのは、「愛」。再びビター&スウィートな雰囲気で会場を包み込んで、繊細な歌声を響かせる。
一筋縄でいかないキャラクターとその音楽とで最後まで観客を翻弄しながら、全4組による充実した「TRIAL GATE Vol.4」を締めくくった。
Text:吉羽さおりPhoto:板場俊
<公演情報>
「TRIAL GATE Vol.4」
1月21日(土) 東京・TOKIO TOKYO