【レポート】映画『大統領のケーキ』カンヌ2冠の監督が来日「数字ではなく人間の物語を描いた」

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【レポート】映画『大統領のケーキ』カンヌ2冠の監督が来日「数字ではなく人間の物語を描いた」


6月11日、カンヌ国際映画祭新人監督賞(カメラ・ドール)と監督週間観客賞をダブル受賞した映画『大統領のケーキ』の日本最速試写会が行われ、来日中のハサン・ハーディ監督によるトークイベントが実施された。

トークイベントの冒頭、ハーディ監督は観客に向けて感謝の言葉を述べ、「映画作家として一番うれしいのは、自分の作品を観るために皆さんが足を運んでくださること。制作中の苦労や疲れがすべて吹き飛ぶ」と笑顔を見せた。

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カンヌでの快挙について問われると、「1本目であれ最後の作品であれ、カンヌで賞を受賞することは特別なこと。それがふたつも受賞できたことは光栄だった」と振り返る一方、「同時に期待も高まるので責任を感じた」と率直な心境を明かした。授賞式では、同じくカメラドール受賞経験を持つイランの映画監督ジャファル・パナヒから「30年前僕もカメラドールを獲ったけど、その次の作品は周りの期待が大きすぎて大変だった。だからこそ好きなものを好きに撮ればいい」と助言を受けたというエピソードを披露。しかし続けて「でもあなたは、今パルムドール(最高賞)を獲ったばかりですから言うのは容易いですよねと心の中で思っていました」と語り、会場の笑いを誘った。


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本作の原点となったのは、監督自身の幼少期の記憶だった。サダム・フセイン政権下の学校では、大統領の誕生日を祝う行事のために小学生たちが役割を割り振られ、監督は花を持参する係を担当した。一方、ケーキを準備する役目を担った友人は任務を果たせず、学校を退学させられた末にサダム少年軍へ送られてしまったという。

「なぜ彼で、自分ではなかったのか。その罪悪感をずっと抱えていました」と語るハーディ監督。「この映画を作ることは、自分にとってセラピーのような体験だった。自分自身だけでなく、周囲の人々をも癒やす作品になったと思う」と振り返った。

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主人公を子どもにした理由については、「子どもの視点から描くことで、政治的なメッセージが前面に出過ぎることを避けたかった」と説明。
子どもは最も主観的な存在である一方で、社会的なフィルターや偏見を持たずに世界を見つめていると考えたという。さらに本作には、初恋を描いた青春映画や冒険譚としての側面もある。「兵士や将軍ではなく、市井の人々をヒーローとして描きたかった」と監督は語る。歴史の中で名もなく消費され、ニュースでは単なる数字として扱われがちな人々に声を与えたいという思いがあったという。「彼らは数字ではなく、ひとりひとりの人生を持つ人間なんだということを伝えたかった」と力を込めた。

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映画づくりにおいては、イタリアのネオリアリズモ映画から大きな影響を受けたという。演技未経験者を積極的に起用し、日常に根差したリアリティを追求した。また、日本映画からの影響についても触れ、「ある場面では溝口健二監督の作品に強く心を動かされ、その演出を取り入れている」と明かした。
さらにイラクの詩や文学から受けたインスピレーションも映像表現に反映されているという。

美しい映像も高く評価されている本作だが、撮影監督には今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『Fjord(原題)』でも撮影を担当したルーマニア出身のトゥードル・ヴラディミール・パンドゥルを起用。ハーディ監督は以前からルーマニア映画のファンだったといい、彼が手掛けた作品に魅了されたことがきっかけだった。「脚本を送り、その後Zoomで話し始めて10分で、自分のビジョンを完全に理解してくれていると感じた。絶対に一緒に仕事をしたいと思った」と信頼関係の強さを語った。

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観客との質疑応答では、主人公ラミアを演じた少女バニーン・アハマド・ナーイフについても言及。監督は学校やスポーツクラブなどいろんな場所で根気強く、ラミア役を探し続けたという。最終的に起用されたバニーンについて自己紹介動画を見た瞬間、「この作品を背負える存在だ」と確信したと明かした。


撮影前には子どもたちとワークショップを重ね、歌やダンス、ジョークを交わしながら信頼関係を築いた。そのうえで「カットがかかるまで役を生きること」「演技に正解も不正解もないこと」というふたつのルールを伝えたという。ラミアが紙に書かれたケーキの材料を読み上げるシーンでは、雄鶏が突然紙を奪うという予想外のハプニングが起きたが、バニーンは動じることなく自然に演技を続けた。監督は「まさに彼女が役として存在していた証拠だった」と称賛した。
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また、ラミアが常に抱えている雄鶏にも重要な意味が込められている。舞台となるイラク南部の湿地帯では、人々と動物が密接な関係を築いているという。監督は「ラミアにとっては冒険に親友を連れて行くような感覚」と説明する一方で、雄鶏には象徴的な役割も持たせた。イラクには「雄鶏は天使や悪魔を見たときに鳴く」という言い伝えがあり、映画の中では不吉な出来事の前触れとして雄鶏が鳴くよう意図的に演出しているという。


さらに、劇中で使用される音響にも監督自身の記憶が色濃く反映されている。実際にバグダッド空爆時に記録された音を取り入れ、「子どもの頃に聞いていた音を再現したかった」と説明した。また、今後2000年代以降のイラクを描く可能性にも言及。「イラクには物語になる出来事があまりにも多い」と語りながらも、「今回はまず自分の少年時代である90年代を振り返りたかった」と述べた。

戦争や独裁政権という重い歴史を背景にしながらも、本作が見つめるのは名もなき子どもたちの日常と希望。ハーディ監督は、激動の時代を生きた人々の記憶を未来へつなぐように、「数字ではなく、人間の物語」としてスクリーンに刻み込んでいる。

<作品情報>
『大統領のケーキ』

7月10日(金)公開

公式サイト:
https://movies.shochiku.co.jp/presidentscake/

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