『BUCK-TICK TOUR 2025 スブロサ SUBROSA』追加公演のオフィシャルレポート到着 「BUCK∞TICKはアートです」
Photo:田中聖太郎
BUCK∞TICKの全国ツアー『BUCK-TICK TOUR 2025 スブロサ SUBROSA』の追加公演が、7月9日東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でファイナルを迎えた。
4月から5月にかけてライブハウスを巡った本ツアーは、熱いエネルギーの応酬で各地を熱狂させたが、群馬、大阪、東京の3カ所10公演による追加公演は会場をホールに移し、新たなセットリストで『スブロサ SUBROSA』の世界観をじっくりと観せた。
東京公演はバンド史上初のLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)6デイズ。その公演の中盤、今井寿(vo&g)はバンドの核心を突く言葉を放った。「BUCK∞TICKはアートです」これは、シュルレアリスムをテーマに掲げたアルバム『或いはアナーキー』(2014年)の1曲目を飾った、「DADA DISCO -GJTHBKHTD-」を演奏する直前の言葉だ。これまで、多様な音楽性や詩的な歌詞世界、シアトリカルな身体表現、こだわり抜いたステージ演出で、“BUCK-TICKのコンサートは総合芸術だ”と評されることはあったが、メンバーがはっきりと明言したのは初めてではないだろうか。2023年12月のコンサートから、試行錯誤しながら押し進めてきた4人体制のBUCK∞TICKは、さらなる破壊と創造を企てているのではないか。そんなことを思い巡らせていると、「DADA DISCO〜」を歌い終えた今井が、「デストローイ!」とデスボイスを響かせたのである。
絶妙なタイミングであった。
幕開けはアルバムと同様に「百万那由多ノ塵SCUM」。衣装は本公演のものにアレンジが加わり、スパンコールが付けられていて、今井、星野英彦(vo&g)、樋口豊(b)、ヤガミ・トール(ds)と順に演奏に加わっていくその動きに合わせて、キラキラと小さな光を放っていた。それはまるでオープニングSEでスクリーンに流れていた光の粒子を全身にまとっているようで、尊くてまばゆい。温かでたおやかな演奏を終えると、ギラギラに輝く軍帽を被った今井が「さあ始めようぜ、スブロサだ!」と高らかに宣言。ハンドマイクで「スブロサ SUBROSA」を歌い始めると、会場のボルテージは一気に上昇した。ステージのバックドロップには大輪の薔薇が一輪。ライトが当たるたびに表情を変え、ステージを見守ってくれているような、大きな愛で包んでくれているような、そんな気配を感じずにはいられなかった。
会場の熱気をさらに煽るように、間奏で何度も繰り返し「スブロッサ!」と叫んでいた今井の姿は、このツアー中、初めて観る姿だった。
思えば『スブロサ SUBROSA』のリリースから約7カ月。第二期BUCK∞TICKが本格始動したのもほぼ同時期である。楽曲も4人体制でのパフォーマンスも、なんというスピードと密度で進化してきたのだろう。「夢遊猫 SLEEP WALK」の間奏で今井と星野が繰り出すノイズ音は日に日に激しさを増し、「雷神 風神 -レゾナンス #rising」では今井がキーボードで、音源とは違うフレーズを鳴らしていて、一期一会の音に出会う楽しみが増えた。インスト曲「ストレリチア」や「神経質な階段」では、音と映像が織りなすダイナミズムに酔いしれた。「絶望という名の君へ」の星野のボーカルは優しさの中に強さが宿り、後半を盛り上げる「冥王星で死ね」や「paradeno mori」は軽快なリズムで会場の一体感を生んだ。
一方で、新しいアレンジを施された既存曲への期待値も高い。
この追加公演で初披露されたのは今井作曲の「キラメキの中で…」と、星野作曲の「女神」。「キラメキの中で…」は、以前と同じように「白鳥の湖」のフレーズを爪弾く今井のイントロダクションから始まったが、今井と星野がアコースティックギターを力強くかき鳴らすアレンジで、歌が始まるまでそれと気づかなかった人もいたのではないだろうか。自分自身と主人公の男を重ねて紡いだストーリーを、ダークでアバンギャルドで、今にも消えそうだという意味で軽やかに歌っていた櫻井敦司の歌を、今井は少し後ろに重心を置いて、昔話を語り継ぐように歌っていた。“踊りましょう”と両手を繋いでいたはずなのに、相手はどんどん空に昇っていってしまう。そんな切なさが募るパフォーマンスや、終盤から激情があふれ出るように強くなっていくアンサンブルがなんともドラマチックだった。
「ほら見えるか、天使が喇叭を吹いている」。今井の短い語りから始まった、本編ラストの「ガブリエルのラッパ」。背景のスクリーンには暗雲が立ち込め、終末世界のような不穏な空気を生み出していく。今井は軍帽を深く被り、杖を掲げて、重厚なビートにフロウを乗せる。その何物も寄せ付けないような気迫に圧倒された。
ヤガミのドラムソロから始まったアンコールは、1曲目は日替わり曲で「FUTURE SONG -未来が通る-」、アルバムからは「TIKI TIKI BOOM」「プシュケー - PSYCHE - 」の2曲を披露。そして「3000年後の約束の地で会おう、必ずだ」と、力強い今井の言葉とともに「黄昏のハウリング」が届けられた。生まれ変わっても、また会いたい人がいる。
感情の高ぶりとともに激しくなっていくバンドアンサンブル。眩い光がステージを照らす中、今井のギターがオオーンオオーンと哭いているように咆えていた。
余韻の中、今井は「最高のライブができました。最高の乾杯ができます。また会いましょう」と笑顔を見せ、「この後、ユータが渋谷公会堂の思い出話をします。聞いてやってください。チャオース!」と、樋口に無茶ぶりをしてステージを降りた。続いて「まだパレードは続きます。
楽しもうぜ。秋に会いましょう」と星野が、「また会いましょう」とヤガミがステージを後にすると、無茶ぶりをされた樋口は「初めてやった時は、ここでドリフターズが(番組の収録を)やってたのかなと思いました」と思い出を語り、6デイズの6日目だからと投げキッスを6回、おまけに「渋公だーいすき!」と愛を飛ばして、笑顔で手を振って帰っていった。突然の無茶ぶりにもちゃんと応える樋口。そんなほのぼのとしたやり取りに、ほっこりとした気持ちで帰途についたのだった。
BUCK∞TICKは、10月16日(木)千葉公演を皮切りに、全国ホールツアー『BUCK∞TICK TOUR 2025 -ナイショの薔薇の下-』を開催する。ファイナルは年末恒例の12月29日(月)、東京・日本武道館公演。さらに11月には3本の大型音楽フェスに出演することも決定している。“BUCK∞TICKはアートです”というと、どこか敷居が高いように思えるかもしれないが、感じ方に正解はなく、その入り口は無限にあるということだ。
五感を研ぎ澄ますBUCK∞TICKのステージを、ぜひ見逃さないでほしい。
Text:大窪由香Photo:田中聖太郎
<公演概要>
『BUCK-TICK TOUR 2025 スブロサ SUBROSA』追加公演
7月9日 東京:LINE CUBE SHIBUYA