渡辺大知が語る『道行き』――時空間を超える独創的な映画体験
撮影:源賀津己
第28回PFFプロデュース作品『道行き』が2月13日(金)より公開となる。奈良の古い家が集まる町を舞台に、土地の歴史、人の歴史、そして時間にまつわる物語が時空間を行き来しながら描かれる傑作だ。主演を務めた渡辺大知は俳優、ミュージシャン、映画制作者の顔をもつ人物で、なぜ本作に自分が参加するのか?自分に何ができるのか?を繰り返し考えながら、作品づくりに伴走したようだ。
本作は『おばけ』でPFFアワード2019グランプリを受賞した中尾広道監督の最新作で、本作はすでにJAPAN CUTS(ジャパン・カッツ)最優秀作品にあたる「大林賞」を受賞するなど海外でも注目を集めている。渡辺が中尾監督に出会ったのは、『おばけ』がPFF(ぴあフィルムフェスティバル)で上映された時のことだ。
『道行き』(C)2025 ぴあ、ホリプロ、日活、電通、博報堂、一般社団法人 PFF
「映画を観て気に入って、上映後にご挨拶させていただきました。感想も伝えられましたし、面白い監督が出てきたな、と思っていました。今回、声をかけていただいて、最初に脚本を読んだ時は、自分がこれまで読んできた“脚本の型”にはまっていない内容で、ワクワクしながら読みました。
まず脚本の1ページ目に、古い時計の説明が書いてあったんです。物語を読む前から“自分にとって時間とはどういう存在なのだろう?”って考えながら、物語を読み出していって。その段階から“道行き”に誘われている感覚がありました」
この映画を成立させるために必要な“ストレンジャーの目線”
渡辺が演じる駒井は、奈良の穏やかな町に建つ古い家を購入して、改装を進めている。家の元の所有者だった梅本は、時おり彼のもとにやってきて、駒井にこの町の歴史や過去について語りはじめる。「昔、ここに」と梅本が話し出した瞬間、語りは時間を超え、空間を超えていく。かつてそこにあったもの、今もそこにあるもの。駒井が人から話を聞き、歩き、観察する中で、静かな町に幾重にも折り畳まれた時間が少しずつ顔を見せ始める。2022年から奈良県御所市に移り住んだ中尾監督が、そこで得たものをベースに作り上げた作品だ。
「まだ監督と話す前でしたけど、脚本を読んでいるだけで、相当な取材を重ねてこの脚本が書かれていることがすごく伝わってきたので、その段階から絶対に良い作品になると思っていました。ただ脚本を読んだ段階では、僕のようなドラマや映画で演技をしてきた俳優がこの役を演じる意義みたいなものを見出せなかったんです。監督本人が出演した方が面白いんじゃないか?と思った時もありました。そこで、自分が出なくても良いのであれば降板する覚悟、というか、作品のためになるのであれば望んでそうしたいと思って監督と事前に話をしました。
そこでわかったのは、この映画を成立させるためには、この町のことを知らない“ストレンジャーの目線”が必要、ということでした。町のことを知らない、その町に思い入れがないからこそ、町の人とのコミュニケーションが生きてくる。町の方も、すでに奈良に移住して、町のことを知っている監督に対する話し方と、僕みたいに町にフラッとやってきた人に対する話し方は変わるでしょうし。だからこの映画では僕は浮いて見えることが必要というか、浮いて見える構造をつくることで、お客さんと一緒にこの町を見つめることができる、と思いました」
そこで本作で渡辺が挑んだのは、見つめること。
何かを演じ、何かを語りかけるよりも、町を見つめ、相手の話に耳を傾けることに力を注いだ。
「僕は町の人にインタビューをする役なんですけど、町の人は本当にいきいきと話していて、僕はその言葉に自分の意見をぶつけるのではなく、ただただ受け入れていく。僕の役割は町や人を見つめて記録していくことなんですよね。だから、ある意味でカメラが持っているドライな感じというか、自分の思いや意見を語るのではなくて、眼差しは温かいんだけど、そこにあるものをジャッジすることなく受け入れていく。そういう意味で自分がカメラそのものになったつもりでやっていました。だからこそこの映画ではある種、自分が異質な存在として写っていてもいいと思いましたし、何なら演技が下手に見えてもいい、観客から“渡辺の演技はあんまりだったね”って言われても、それこそがこの映画のためには必要なことなんじゃないか、と言えるような関わり方をしたいと思っていました」
渡辺はそう振り返るが、本作での彼の演技は圧倒的だ。確かに本作に登場する駒井は多くを語らないし、何か派手なアクションを起こすわけではない。しかし、彼は町の人の語りを受け止め、細やかに反応し、ちょっとした動きと佇まいから感情が伝わってくる。
古い家々が並ぶ町に彼が立っているだけで、思わず画面を観てしまう。そこにある感情を読み取りたくなるのだ。
舞台経験が活かされた“居ずまい”
「この映画の出演オファーをいただいた時にちょうど、舞台『ねじまき鳥クロニクル』に出演していたんですけど、あの舞台が自分の役者人生の中でもすごく大きかった。立ち方、動き方もそうですけど、人の話を聞く時の“居ずまい”みたいなものについてすごく考えましたし、表情だけじゃなくて、立ち方や居ずまい、歩き方から何かを得て、次の演技につなげよう、と思うようになった。その点は『道行き』にもつながっています」
私たち観客は、渡辺が演じる駒井の視点、身体を経由して、町の風景を観察し、町の人の語りを聞き、時間と空間を縦横無尽に行き来する。ノンフィクションでも純粋なフィクションでもない、豊かな語りとドラマに満ちた唯一無二の作品が完成した。
『道行き』(C)2025 ぴあ、ホリプロ、日活、電通、博報堂、一般社団法人 PFF
「すごくシンプルに見えて、複雑な構造の作品になっていて、映画が好きな方にも観ていただきたいと思います。新しい感覚をもらえて僕もすごい刺激になりました。
自分の演技に対してもそうですけど、映画を観る視点についても新しい視野ができたと思っていて、すごく勉強になりましたね。中尾さんは他の映画にはない構造で映画をつくる人で、そこがすごく面白いんですけど、最初から意図してやっているのではなくて、結果としてこういう映画ができている。作為的なわけではなくて、すごく温かみがあるのがいいなと思うんです」
渡辺が語る通り、本作はとても奇妙な構造をもつ作品なのに、観終わった時には“複雑”でも“不思議”でもなく“温かみ”を感じる作品だ。映画でしか語り得ない豊かな“時間の物語”を堪能してほしい。
取材・文:中谷祐介(ぴあ編集部)
撮影:源賀津己
『道行き』
2月13日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、テアトル新宿ほか全国順次公開