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河竹黙阿弥による様式美と濃密な人間ドラマを存分に堪能。「三月大歌舞伎」開幕レポート

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河竹黙阿弥による様式美と濃密な人間ドラマを存分に堪能。「三月大歌舞伎」開幕レポート


2026年3月5日、歌舞伎座3月公演「三月大歌舞伎」が初日の幕を開けた。昼夜ともに河竹黙阿弥による「通し狂言」が並び、歌舞伎の醍醐味を存分に味わえるプログラムが揃った本公演を、オフィシャルレポートをもとにお伝えする。

河竹黙阿弥による様式美と濃密な人間ドラマを存分に堪能。「三月大歌舞伎」開幕レポート


開演前から、春の訪れを寿ぐような明るい高揚感に包まれたロビー。昼の部は、歌舞伎座では実に13年ぶりの通し上演となる、黙阿弥らしいケレン味と趣向に富んだ演出『加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)』。初日は「Aプロ」として、坂東巳之助が岩藤の霊と忠臣・鳥井又助の二役を鮮やかに演じ分けた。

河竹黙阿弥による様式美と濃密な人間ドラマを存分に堪能。「三月大歌舞伎」開幕レポート

昼の部『加賀見山再岩藤』より鳥居又助=坂東巳之助
物語は、加賀百万石で起きた加賀藩の御家騒動を題材にした名作『鏡山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』で描かれたかつての御家騒動から数年後の多賀家下館から始まる。当主・多賀大領(七代目尾上菊五郎)が、側室・お柳の方(中村扇雀)に心を奪われるなか、執権・望月弾正(中村芝翫)らの陰謀によって御家には再び不穏な空気が漂う。

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昼の部『加賀見山再岩藤』左より)望月弾正=中村芝翫、花房求女=中村萬太郎、安田帯刀=中村又五郎、安田の若党勝平=中村虎之介、蟹江主税=中村歌之助
八丁畷三昧の場では、かつてお初に討たれた岩藤の執念が、野晒しにされていた白骨を呼び寄せ、バラバラと音を立てるように不気味に動き出し岩藤の亡霊が現れる。
ケレン味溢れる怪奇的な演出に、客席からはどよめきが起こった。

ところ変わって桜満開の春山。寄り集まった骨が岩藤の姿へと変わり、桜の花びらが舞い散るなか、美しくどこか怪しげな笑みを浮かべた岩藤(巳之助)が蝶と戯れながらふわふわと宙を舞う「宙乗り」が披露されると、場内は華やかな空気に包まれた。

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昼の部『加賀見山再岩藤』より岩藤の霊=坂東巳之助
物語は佳境に入り、亡霊となった岩藤が多賀家の奥殿へ姿を現す。かつてのお初であり、今は家を支える中老となった二代目尾上(中村時蔵)を、生前と同じ局姿の岩藤が五年前の因縁そのままに草履で打ち据える「草履打ち」の場面。憎々しさをはらむ冷徹な表情を浮かべる岩藤と凛とした気品をたたえ耐え忍ぶ二代目尾上の姿の対比には、黙阿弥らしい様式美が漂う。

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昼の部『加賀見山再岩藤』左より)又助妹おつゆ=中村莟玉、又助弟志賀市=中村種太郎、鳥井又助=坂東巳之助、安田帯刀=中村又五郎、花房求女=中村萬太郎
続く場面では、もうひとりの主役ともいえる鳥井又助(巳之助/二役目)の物語が展開。主君・花房求女(中村萬太郎)への忠義ゆえに誤って正室・梅の方(坂東新悟)を殺めてしまうという悲劇が描かれる。
盲目の弟・志賀市(中村種太郎)が、兄の覚悟を知らずに奏でる琴の曲「妹背川」を背に、又助が壮絶な「切腹」を遂げる幕切れには、場内からすすり泣く声も漏れ、深い感動に包まれた。

大詰は再び多賀家下館の奥庭。岩藤の怨念を退け、悪人たちが裁かれるなか、多賀大領(七代目菊五郎)の威風堂々とした登場によって御家の騒動は収まり、晴れやかな大団円を迎える。

黙阿弥文学の真髄である七五調の台詞回しと、通し上演ならではの壮大な物語を堪能した観客の拍手とともに、初日の昼の部が幕となった。

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昼の部『加賀見山再岩藤』より多賀大領=七代目尾上菊五郎
Bプロでは、岩藤の霊/鳥井又助を尾上松緑が、二代目尾上を中村萬壽が勤める。それぞれ、「菊五郎兄さんをはじめ先輩方の胸をお借りして、敵役の岩藤と善良な又助と、対照的な二役をきっちりお見せしたい」(松緑)、「(長男の時蔵とのWキャストについて)私が出演した当時と今とでは、台本も違います。時蔵と台詞が違うのも、面白いかもしれません」(萬壽)(共に歌舞伎座筋書内「ひと役ひと言」より)と話している。

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昼の部『加賀見山再岩藤』Bプロ左より)二代目尾上=中村萬壽、岩藤の霊=尾上松緑

様式美、絵画美、叙情美豊かな夜の部


夜の部の幕開きは華やかな舞踊、『壽春鳳凰祭(いわうはるこびきのにぎわい)』から。


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夜の部『壽春鳳凰祭』後列左より)女御=市川門之助、大臣=坂東彦三郎、女御=市村萬次郎、女御=中村雀右衛門、帝=中村梅玉、女御=中村魁春、大臣=大谷友右衛門、女御=市川高麗蔵、大臣=河原崎権十郎前列左より)女御=市川男寅、大臣=大谷廣太郎、女御=坂東新悟、大臣=中村歌昇、女御=中村種之助、大臣=中村橋之助
幕が開くと宮中の庭園。大臣や女御が、爽やかに風情溢れる舞を舞うと、客席の雰囲気も春が訪れたように明るくなる。そこへさらに艶やかな女御や、貫禄のある大臣が現れ、より一層舞台は賑やかに。そして中国の故事を織り込んだ長唄と共に、若い大臣や女御が手踊りを披露する。

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夜の部『壽春鳳凰祭』左より)女御=中村雀右衛門、帝=中村梅玉、女御=中村魁春
やがて、厳かな太鼓の音と共に場面が宮中深くの御内庭に移ると、帝(中村梅玉)とふたりの女御(中村魁春、中村雀右衛門)が現れる。殊更に華やかな雰囲気に包まれ客席からは思わずため息が溢れる。最後は天下泰平と歌舞伎の発展を願っての総踊りに満開の拍手が送られ、幕となった。

続いては、河竹黙阿弥作『三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)』を通し狂言として上演。
幕末から明治時代にかけて活躍し、盗賊が活躍する「白浪物」を得意とした名作者・黙阿弥が、同じ「吉三」の名を持つ三人の盗賊と百両の金を巡る因果話を、独特の絵画美と叙情美豊かに描き出した代表作のひとつだ。今月は、和尚吉三を尾上松緑(Aプロ)、坂東巳之助(Bプロ)のWキャストで上演する。

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夜の部『三人吉三巴白浪』(Aプロ)和尚吉三=尾上松緑
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夜の部『三人吉三巴白浪』(Bプロ)和尚吉三=坂東巳之助
初日は「Aプロ」として、尾上松緑が、情に厚く責任感の強い兄貴分、和尚吉三を演じた。

節分の宵、大川(隅田川)の川端にある庚申塚で、女に化けて盗みを働くお嬢吉三(中村時蔵)が、夜鷹のおとせ(尾上左近)から百両の金を奪い取る。道を尋ねるふりをして華麗に盗みを働くお嬢が「月もおぼろに白魚の……」から始まり「こいつぁ春から縁起がいいわえ」でしまる黙阿弥独特の七五調の名台詞を披露すると、心地よい響きが、観客を一気に作品の世界へと引き込む。

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夜の部『三人吉三巴白浪』左より、お嬢吉三=中村時蔵、伝吉娘おとせ=尾上左近
その様子を見ていた御家人崩れの悪党、お坊吉三(中村隼人)が駕籠の中から現れ、お嬢吉三と百両の金を巡って争うところ、ふたりの仲裁に入ったのは、吉祥院の所化あがりの盗賊・和尚吉三(松緑)。貫禄ある和尚の取りなしにより、同じ「吉三」の名を名乗る縁から義兄弟の契りを結ぶことに。

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夜の部『三人吉三巴白浪』(Aプロ)左より)お嬢吉三=中村時蔵、和尚吉三=尾上松緑、お坊吉三=中村隼人
一方、和尚・おとせの父である土左衛門伝吉(中村歌六)は、おとせの行方を探すうち、自分がかくまっていた十三郎(市川染五郎)が、自分がかつて忌み子と捨てた、おとせと双子の兄妹ということに気づく。
しかしふたりは互いに惹かれ合っていて……。やがて和尚もこの事実を知るとある覚悟を決める。過去の因縁が複雑に絡み合い、身動きが取れずに苦しむ人々の姿が、黙阿弥ならではの様式美とともにドラマチックに描かれる。

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夜の部『三人吉三巴白浪』左より)手代十三郎=市川染五郎、伝吉娘おとせ=尾上左近、土左衛門伝吉=中村歌六
数々の悪事を重ね、追われる身となった和尚吉三、お嬢吉三、お坊吉三。いよいよ追い詰められ、降りしきる雪の中、過去の悪事と向き合い覚悟を決めて立廻る三人に、観客も息をのんで注目。松緑、時蔵、隼人が織り成す三人三様の盗賊の姿が観客の心を掴み、大きな拍手に包まれるなか幕を閉じた。

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夜の部『三人吉三巴白浪』(Aプロ)左より)お嬢吉三=中村時蔵、和尚吉三=尾上松緑、お坊吉三=中村隼人
「三月大歌舞伎」の上演は3月26日(木)まで、東京・歌舞伎座にて。

<公演情報>
「三月大歌舞伎」

【昼の部】11:00〜
加賀見山再岩藤

【夜の部】16:30〜
一、壽春鳳凰祭
二、三人吉三巴白浪

2026年3月5日(木)~26日(木)
会場:東京・歌舞伎座

【休演】11日(水)、19日(木)
※昼の部:6日(金)、9日(月)、10日(火)、12日(木)、13日(金)、16日(月)は学校団体来観

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関連リンク
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2666296(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2666296&afid=P66)
公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/970/

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