有島コレスケのソロプロジェクト・arko lemmingが7年ぶりのワンマンで魅せた、弾き語りからノイジーなファンクまでの実験的ステージをレポート!
Photo:タイコウクニヨシ
Text:黒田隆太朗Photo:タイコウクニヨシ
なんと7年ぶりのワンマンライブである。アルバムに至っては8年ぶりのリリース、前作(『satellite-3』)が出た時には小学生だった人も、今では立派な大学生や社会人になったということで、それなりの歳月が経ったと言えるだろう。じゃあその間に有島コレスケは何をしていたのかというと、ドレスコーズや崎山蒼志でベースを弾いたり、yamaでギターを弾いたり、Nikoんでドラムを叩いたりと、まあとにかく色んなところで色んなことをしてきたのである。
そんな多方面での活躍を見せてきた有島コレスケが、久しぶりに自身のソロプロジェクト・arko lemmingとして大きなアクションを起こした。昨年発表したシングルに端を発する、この度のアルバム&ツアーである。年明けすぐにリリースされた新作『浮遊都市にて』、そしてその作品を携えてのライブが好調だ。
ライブのMCで有島コレスケはこんなことを言っていた。「音楽活動もSDGsだと思う。
持続可能な活動をする。続けていく方が楽しいので、SDGsミュージシャンとして無理をせず頑張ります」。なんとも独特なユーモア......でも、マイペースな活動を続けてきた彼らしい言葉ではないだろうか。時代のスピードに合わせるのではなく、自分の歩幅で生きること。それはミュージシャンだけでなく、この時代を生きる誰にとっても必要なことだろう。世界中の音楽がそうであるように、生き方はひとつじゃないし、その人なりのリズムがあるのだから。
1週間前には雪が降っていたというのに、2月にしてはずいぶん暖かい一日。下北沢SHELTERに着くとThe Pains Of Being Pure at HeartやAlvvaysなどが流れており、会場には爽やかな空気が漂っている。
どことなく『浮遊都市にて』にも通じる清涼感を思わせるBGMだ、なんてことを思っているととんでもない。ザクザクと刻まれる痛快なカッティング......音源よりもうんとノイジーになった印象のファンクロック、「swifter」でライブが始まった。
ステージに立つメンバーは3名。ギターを弾く有島に、ドラムはtoldでも活動を共にした赤羽進互、そしてベースを担うのが自身もシンガーソングライターとして活動する中川昌利である(有島とは互いの作品に参加する仲。ちなみにアルバムを購入すると、中川がインタビュアーを務めたアルバム解説動画を入手できる)。いかにも肩の力の抜けた佇まいの3人だが、練達のアンサンブルである。どの曲も小技が効いており、内臓に響くような厚みを感じる演奏が堪らない。ポップだが癖のあるギターフレーズが飛び出す楽曲たちを、洒脱で小気味の良い演奏でスイスイと聴かせていく。
「swifter」「とうめいにんげんの10じ」「ムーンライド」とアルバムの冒頭3曲と同じ構成で始まったが、挨拶を含んだMCを挟んで古い楽曲へと移っていく。アルコールが欲しくなるような酩酊感のあるアンサンブルを聴かせる「Avec」から、引き締まったドラムとドライブ感のあるベースに乗って駆け抜けていく「stop!」。そしてうっとりするような詩情を感じるスローテンポの「恋する惑星」である。淡々としたドラムとふんわりと流れるようなベースの上で、ギターだけが景色の移ろいを感じさせるように心くすぐるフレーズを差し込んでいく。シンプルだが滋味深いというか、素朴さの中に豊かさを感じる演奏であり、arko lemming屈指の1曲と言えるのではないだろうか。
ここからはサポートのふたりがステージからはけ、ガットギターとルーパーを使った有島コレスケの弾き語りである。「しっぽりお酒を飲みながら聴いてください」と告げてスタートしたが、何もポロンポロンと弾きながら静かに歌うような演奏ではない。穏やかなのに、どこか鋭さを感じさせる音色と声。
どうやってもエモーショナルな響きを内在させてしまうのが、彼の演奏の良いところだろう。オリエンタルな要素を感じる「水槽の脳」に始まり、「カランカラン」「稀ないもの」と計3曲をソロ演奏。とりわけ「稀ないもの」は良かった。彼の歌はひびの入ったガラス細工のようで、透き通るような声色だがどこか緊張感を抱かせる。その声で歌われる<拝啓 僕らの正義 とても苦しいのはどうして?>という冒頭のフレーズが完璧だ。弾き語りになったことで言葉が前景化し、メロディの良さも相まって歌詞は力強く迫ってくる。
再びサポートメンバーふたりを招き、件の「SDGs」についてのMCを挟んで「炎天」へ。哀愁漂うメロディと、少ない音数ながらツボを抑えた音の差し引きが気持ち良い。
ミステリアスで、どこか上がりきらない禁欲的なアンサンブルに吸い込まれる楽曲だ。「薄明」を機にライブのギアが切り替わる。すこぶる爽快なオルタナティブ/インディロックの「星に願いを」でフロアの熱を上げ、むっちりとしたベースが牽引する「flashback」へと移行。間違いなくこの日のハイライトだろう。脅迫的なリズムが確固たる迫力を持って腰を刺激してくる。“踊る”というより、居ても立っても居られないくらい“身体”が動く”というような、とびきり魅力的なポストパンク風味のダンス・ミュージックである。ライブ毎にアレンジが変わっていきそうな予感もあり、楽曲として奥行きを感じるところも含めて非常に好感を持つ。
最後は「日々の泡」を演奏し、アンコールには快いロックンロール・ナンバー「AIM!」で応えて終演。
「お酒でも飲んで帰ってください」と告げて、久しぶりのワンマンツアーが幕を閉じた。
それにしてもarko lemmingとは不思議な存在である。ポップだがストレンジで、爽やかなのに影があり、情熱的なのにどこか冷たい。制作においては作詞・作曲・演奏の全てを自身でこなすというのも特徴的で、たぶんarko lemmingは有島にとっての実験部屋であり、ひとり遊びの集大成のようなものではないだろうか。強いて言えばオルタナティブロックやインディロックと言えるのだろうが、作品毎に少しずつ軸をズラしていき、様々な音楽を溶解させて取り込んでいく。実態を掴まれることを華麗に拒んでいるようにも感じるし、しかしだからこそ次に何が出てくるのかが楽しみなのである。
何より有島コレスケという音楽家の、活動それ自体がおもしろい。本名義を始動させてからの10年強、彼は様々なミュージシャンの制作・ライブに参加しながら、ソロの身軽さを活かして気ままな活動を展開してきた。
そう、彼はどこにでも行けるが、どこにも属さない。そんな活動を貫き、自分だけのペースで表現を続けているのである。「無理せず頑張る」ーーその抱負を支持しつつ、次の作品(及びツアー)がまた近々聴けるとうれしい。
<公演概要>
arko lemming『浮遊都市にて』
2月15日(日)東京・下北沢SHELTER