観客の歌声がコーラス隊のように響いた『のんぴー 「一日一生」 Tour 2024』最終公演レポート
(Photo:Shohei Katada)
Text:ヤコウリュウジPhoto:Shohei Katada
シンガーソングライター・のんぴーが1st EP『一日一笑』を引っ提げての全国ライブハウスツアー『のんぴー 「一日一生」 Tour 2024』の最終公演を6月28日にshibuya eggmanにて開催した。まだ音楽活動を始めて2年ながら路上ライヴを中心にその輪をどんどん広げ、最終的には1200人もの観衆を集めるようにもなったほど、多方面から大注目を集めているのんぴー。昨年は全国各地で路上ライブを重ねながらチケットを手売りして恵比寿LIQUIDROOMでの初ワンマンをソールドさせたが、今年は全21本のライブハウスツアーを敢行。この日は積み重ねてきたモノを存分に発揮したフィナーレとなった。
生憎の雨模様とはなったが、会場に漂うのはお祭りを待ちわびているような賑やかさ。“人間パワースポット”という異名も持つのんぴーの放つポジティブなエネルギーを受け止めようとするファンが各地から訪れ、歌を聴きに来ているというよりもライブというお祭りに参加しに来ているようなムードが充満。そこに鮮烈なファンファーレが鳴り、大きな拍手を浴びながら登場したのんぴーは、まず鋭いロックナンバー「ウロボロス」をハンドマイク片手に大きく響かせていく。ひとりでステージに立ち、シンガーソングライターや路上ライブという言葉からアコギをかき鳴らすサウンドをイメージしがちだが、それはのんぴーの魅力のひとつに過ぎない。
枠組みにとらわれず、多彩なサウンドアプローチを誇っているのだ。ライブへ懸ける想いが投影されているような<どうしても作りたい場所があるの>というリリックも幕開けにふさわしく、一気に温度が上がる会場。観客も盛大なシンガロングでその気持ちに応えていく。
「はじめまして、のんぴーです!」と大きく声を上げ、「近くに見えなさそうなお子様がいたら前に」と細やかな気遣いも見せた後、アコギをかき鳴らして歌い上げたのが「たら福」。吐息混じりであったり時に震わせるような歌声、アコギのストロークのニュアンス、弾き語りならではのタイム感の操り方、どれもが絶妙でとてもキャリア2年ほどとは思えないほどの表現力だ。
軽快なリフから「何の為に今週、頑張ってきたんですか?」「もっと高く(手拍子)できる?」といたずらっ子ぽく問いかけ、大きな盛り上がりになった「楽笑」は驚愕の1曲。掛け合いというより、観客の歌声がもはやのんぴーのコーラス隊のように響き、生まれるのは素晴らしき一体感。<笑えば 大概なことはOKじゃん>というメッセージもいい。
逃げるわけでも目を背けることでもなく、笑うというのは乗り越えることでもあるのだ。
アイスの実をテーマにして書いたという「Eye’s on Me」で深い夜に沈み込みそうなトラックに麗しい歌声を乗せるという新たな側面へフォーカスした後、「皆様の中にもやりたいこと、やるべきこと、やらないといけないことの葛藤があると思います。今のあなたへ歌います」と「Perfect」へ。アコギ1本ながら、ルーパーを巧みに使ってビートやフレーズを重ね、滑らかにフロウを紡ぎ、未完成な今だって、誰かにとってはパーフェクトなんだと思いの丈を沁み渡らせる。
そして、ツアータイトルにも掲げた「一日一生」はグッとライブの空気を引き締め、のんぴーの生き方やポテンシャルを存分に知れた印象的なシーンになった。自分に嘘をつくことなく1日だけでも過ごしてみよう、そうやって明日へ繋いでいこうと呼びかけると同時に自分自身の背筋を伸ばす。曲が進むにつれてストロークも激しくなり、増すスケール感。コーラスをループさせながらみんなでその想いを抱きしめた間奏も惹きつけられるポイントになっていた。
終盤戦に入り、「このツアーでいちばんの盛り上がりをできますか?」と語りかけ、まさしくその通りの光景が広がったのが「でんせん」。ラップ調の歌を畳み掛けながら、必ずできるんだと力強く響かせる。観客のコーラスとオートチューンをかけた歌声のマッチングもいい浮遊感を生み出していた。
その勢いを加速させるようにシンプルにアコギを鳴らしながら再び「楽笑」で会場全体の熱を高め、「足を運ぼうと思ったあなたがいなかったらここにはいません。今日は来てくれてありがとう、出会ってくれてありがとう」と謝辞を述べてから、本編ラストとして「てんさい」をセレクト。月明かりに照らされて歌っているようなライティングの中、隅々まで視線を飛ばし、ムードたっぷりに少しハスキーがかった歌声で届けていく。観客も感謝と愛を伝えようとより大きな声を上げ、目を閉じながらすべてを噛みしめるのんぴーの表情は非常に胸を打つモノがあった。
曲が終わり、音が止まっても歌い続ける観客に呼び戻されたのんぴーは「ワンマンライブのチケット代は最後の曲を持ちまして終わっております。
皆様が呼び出しことにより、今はいわゆる残業中でございます」とおどけつつ、熱心に足を運んでくれる観客にリクエストに応え、アカペラで「はじめての記念日」と「For now」と披露。温かな空気に包まれたところ、ここでのんぴーが代表曲でもある「せんせい」を封印するという決意を打ち明けていく。
「路上ライブツアーをしてるときに、ちょっと歌えなくなっちゃって。初めてギターで作った曲で凄く好きな曲なんですけど、賛否両論ある言葉を聞くと心は大丈夫だと思ってても体は大丈夫じゃなかったみたで声がなかなかでなくて。それを隠し続け、言わなくて……“せんせい”、あなたに頼るのはもうやめた。私の大好きな歌で大好きな曲で今、社会に飛び出してみたよ、っていうのを武道館に立ったその日に歌わせせていただければと思います」
そんな悔しさから生まれた「へいよう」を熱っぽくプレイし、歌った人は誰でも主人公になれるという、花村想太(Da-iCE)と共作した新曲「オレダノミ」を初歌唱。ダンサブルなロックサウンドでグッと背中を押してくれる曲であり、観客も想いを重ねるように飛び跳ね、ヒートアップしていく。
締めくくりとしては、「今日いる人たちが明日、何かひとつでも頑張れたら本望ですよ」とのんぴーが口にして「ヲレら」。
輝かしく温かい空気がどこまで広がっていき、最後の最後までのんぴーと観客が一体となり、共に作り上げた最高の空間は幕を閉じた。<公演情報>
全国ライブハウスツアー『のんぴー「一日一生」 Tour 2024』
2024年6月28日 東京・shibuya eggman