やっぱり、天海祐希はカッコいいのである。 演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『広島ジャンゴ2022』【ネタバレあり!】
撮影:引地信彦
やっぱり、天海祐希は格好いい。様々な場面風景の中でもカッコ良かった。
耳が痛くなる轟音と共に開演した第1幕。そこは大きな牡蠣工場。牡蠣といえば広島。多くの男女が働き、広島といえばプロ野球の広島カープ。やがて応援歌、「カープ、カープ、カープ広島」の大合唱。ところが唯一、場違いのように黙々と牡蠣をむき出す作業を続ける女性、それが天海が演じる山本。
従業員仲間の誘いに耳をかさず、口数が少ない。天海は作業着で静かな佇まいからして、カッコいいのである。
撮影:引地信彦
「すいません、明日はせっかくの休みの日」。こんな台詞から始まった。娘がいるシングルマザーでパートタイマー。これまでの役柄と大違いのごく普通の主婦だ。しかし、そんな訳はない。天海本来の弾ける役どころがあるはずだ。
この女性は、亭主を殺したというのである。
作・演出の蓬莱竜太は主に等身大の家族、家庭、人物や集団を書いてきた。ただし、登場人物は心に一物、背に荷物を持つような背景がある人々だった。
母親の山本は突然、ガラリと別人になる。鈴木亮平が演じる工場のシフト担当・木村が見た夢の中に登場した。そこは西部の町ヒロシマ。それぞれが西部劇の世界と交錯する、という破天荒な仕掛け。天海の山本は何と、子連れのガンマン・ジャンゴ。
ここからが格好いい第2章。ジャンゴの愛馬ディカプリオになってしまった木村に「馬だろ!」と怒鳴りつけてから、ようやく台詞は激しく、多く、あの暴れる天海に向かっていった。
撮影:引地信彦
ピストルの一撃で悪党をやっつけ、多人数との決闘シーン、あるいは荒くれどもにリンチされる。笑顔がほとんどない演技、ジーンズにカウボーイハット。まるでマカロニウエスタンのクリント・イーストウッドじゃないか。舞台奥に去っていく姿なんぞ、拍手を送りたくなった。
亭主を殺したとされるヒロイン天海。しかしー。
実は娘の仕業だった。母を殴っていた父のDV。母をかばっていたのだった。母は娘をかばい、娘は母を慕う。蓬莱の母と娘の愛情物語だと分かるのである。
撮影:引地信彦
マイク片手に歌いまくる鈴木、悪徳工場長と町のボスの仲村トオル、猛烈なカープファンの従業員。とにかく騒々しいドタバタ劇でご都合主義とも見えるエンタテインメント芝居。その演劇世界でも天海のガンマンぶりはスカッとさせるカッコ良さだった。
(4/6所見)
『広島ジャンゴ 2022』
4月30日(土)まで、東京・渋谷Bunkamuraシアターコクーンにて上演中。
【ライブ配信】4月14日(木)23:59までアーカイブ配信あり
詳細は下記サイトにてご確認ください。
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/22_django/topics/5886.html
プロフィール
大島幸久(おおしま・ゆきひさ)
東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。
著書には「名優の食卓」(演劇出版社)など。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。「毎日が劇場通い」という。
提供元の記事
- 舞台女優としての存在感をみせた大竹しのぶ、吉右衛門最後の石川五右衛門など 演劇ジャーナリスト・大島幸久が振り返る、2021年お芝居myベスト
- 「一」に安蘭、「二」に石丸、「三」に日澤。演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『蜘蛛女のキス』 【ネタバレあり】
- 吉沢亮の舞台俳優としての力量をみた 演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『マーキュリー・ファー』
- ユーモアと皮肉と醜さのスパイスを効かせた人間喜劇―演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『冬のライオン』
- 天海祐希×鈴木亮平がダブル主演。 異色の西部劇エンタテインメントで、現代に希望を見せる!ーCOCOON PRODUCTION 2022『広島ジャンゴ2022』
関連リンク
-
new
北村匠海『NHK紅白歌合戦』の曲目発表にない…ひそかに熱唱が決まった不朽の“名曲”とコラボする“超人気アーティスト”
-
new
彼とのドライブデートで…“ナビの履歴”に違和感。直後⇒クロ確定の【物的証拠】が出てきて…顔面蒼白!?
-
new
《超高級サウナで死亡の30代夫婦》誕生時には「この子がドレスを着るまで生きたい」と…ドアガラス叩き、通風口からも助け求めた“脱出の痕跡”に広がる悲痛な声
-
new
「あなたの意見を語る場所ではない」小野田大臣 旧統一教会めぐる記者の質問に静かに怒り…眉間にシワ寄せ「はぁ」とため息
-
new
『良いこと悪いこと』“すべて”明らかに 間宮祥太朗&新木優子がコメント「前半はほとんど4カット」