w.o.d.が歌舞伎町の夜に比類なき音楽愛を奏でたワンマンツアーファイナル【オフィシャルレポート】
Photo:小杉歩
2023年12月2日、ソールドアウトのZepp Shinjuku。開演時間の18時を3分ほど回ったとき、楽器と機材とPA以外何もない殺風景なステージに「Ticket to Ride」の出囃子が流れ、中島元良(ドラムス)、Ken Mackay(ベース)、サイトウタクヤ(ギター、ヴォーカル)の3人がそぞろ歩くように現れる。Tシャツに短パン、ホッケーシャツ、バンドTに前開きのパジャマシャツというそれぞれの代名詞的なスタイル、ケアフリーなたたずまい。それでも隠しようもなく立ち昇る、繊細と粗野の同居した色気。そうそう、これこれ。これがw.o.d.だ。
歓声や口笛が止んだ一瞬の静寂を狙い澄ましたかのようにギターのリフが切り裂き、ドラムとベースがなだれ込むと、なつかしい音圧が鼓膜を、体を震わせる。約1か月にわたって繰り広げてきたワンマンツアー “バック・トゥ・ザ・フューチャーVI” の最終公演は、9月にリリースされたメジャーデビューシングル「STARS」で始まった。
ステージの背後にサイケデリックな映像が映し出される。映像はショー全体にわたり、具象抽象を問わず効果的に使われていた。
「w.o.d.です。よろしく」
必要最少限の挨拶に続いて「楽園」「Fullface」「QUADROPHENIA」「HOAX」「THE CHAIR」と比較的初期のアグレッシヴな曲をMCなしで畳みかけ、1曲ごとに照明が彩りを増していく。かつてはまったくMCをせず、この調子でひたすら演奏して早々に立ち去っていたな……と思い出していたら、短いMCタイム。
「東京(ボソッ)」「イェー!」「新宿(ボソッ)」「イェー!」といった、コール&レスポンスというより照れ屋さん同士で感情を分かち合おうとするような応答に続いて、サイトウはかつて西新宿に住んでいたことを明かし、「煙たい部屋」「relay」「バニラ・スカイ」「オレンジ」と、歌詞とメロディの立ったリリカルな曲を続けた。この叙情性は「押し」の強いロックサウンドと並ぶ彼らの「引き」の魅力だ。「バニラ・スカイ」では海辺の映像が情感をさらに高めていた。
「歌舞伎町なんでパーティやろうと思ってたんすけど、ファイナルっぽさでグッときてる」と感慨を語り、「バニラ・スカイ」の映像は、ツアーで金沢に行った際に、同曲のミュージックビデオを撮影した海を再訪して撮ったと明かした。なんでもライヴの打ち上げでアウターとカバンをなくしたのだそう。「そんときはベロベロやからしゃあないけど、今日も新幹線に荷物忘れたからね。病気やと思う」と話すと、フロアからの「大丈夫!」の声に「何が?」と返して笑わせた。
「俺、いま無敵の人なんすよ。携帯以外何も持ってない。音楽しかないんで、音楽で遊びましょう」と意外に感動的な着地を見せて、「モーニング・グローリー」「Kill your idols, Kiss me baby」「lala」「1994」を続けて演奏した。フロアからは「楽しいぞー!」「ありがとう!」などと声が上がったが、このときはステージの上下でどんどんエモーションが高まっていくのが実感できたものだ。
「こんなバカみたいにでかい音でライヴやって、スタジオも入るから、毎日でかい音聴いてんのよ。 “疲れた、もう音楽聴きたくない” と思いながら家帰って、音楽流すねん。どんだけ音楽好きやねんって思うけど、やっぱ最高ですね。ライヴやるにも曲作るにも、いろんな意図があったりするけど、そういうんじゃなくて、ただ音楽やりたいねん、俺は」
そう話すと、印象的なベースのイントロから「イカロス」、続けて「Mayday」を披露するころにはフロアも興奮の坩堝と化し、フロアのあちこちから感極まったような叫び声があがる。さらに「踊る阿呆に見る阿呆」「My Generation」とw.o.d.流のダンスナンバー連打で、興奮はクライマックスに達した。
「この曲は希望と憧れの歌やってずっと言ってきました。音楽はもちろん希望で、憧れもあったりするし、俺らにとってライヴはめちゃくちゃ特別なものです。やればやるほどライヴ自体が希望やなと思うし、みんなが来てくれたからめちゃくちゃ楽しくやれてます。
ありがとう。俺らにとってはみんなが希望です。希望と憧れの歌です。聴いてください」
サイトウがそう話して、最新シングル「陽炎」をこのあと公開されたMVをバックに演奏し、アンコールなしの約90分でショーは幕を閉じた。「陽炎」はフックのアレンジから歌詞まで彼らの新たなアンセムになりそうで、今後ライヴで育っていくのが──それこそ《グライダー》が《どこまで飛べる》のか──楽しみな曲だ。
「ありがとう。また遊ぼう。バイバイ」
僕が最後に彼らのライヴを見た2年前からすると、フェイズが変わったと言いたいぐらい飛躍的に成長していた。
MCを増やしてフロアとのコミュニケーションが上手になったのもそうだし、タイトさを増しつつピュアな興奮を感じさせる演奏、何より会場全体の一体感が熱かった。終演後に少しメンバーと話したのだが、それは彼らも感じていたようだ。
「コロナが明けてから、初めて全国を周ったワンマンツアーで、お客さんが声を出せて、フルキャパでソールドで」(Ken)、「制限がゆるくなったのもあると思うんすけど、ステージ対客席じゃなくて、ハコ全体でグルーヴする感じでできました」(サイトウ)、「ツアーするなかで自分たちのメンタリティも変わっていった気がする。本当にいいツアーができたと思います」(元良)と、3人の笑顔には屈託がなく、充実感がみなぎっていた。メジャーデビューに関しては「世代のせいもあるかもしれないすけど、あんま実感ないんすよね」(サイトウ)とのことだが、活躍の場はさらに広がるはず。《グライダー》をどこまで飛ばしてくれるか、ますます楽しみだ。
Text:高岡洋詞Photo:小杉歩