柄本時生「かなりの自信作です」 KERA CROSS第7弾『シャープさんフラットさん』開幕
ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)がこれまで発表した戯曲を、新たな演出家、キャストにより再創作するシリーズ「KERA CROSS」。第7弾に選ばれたのは、2008年にナイロン100℃の本公演として上演された『シャープさんフラットさん』。その東京公演が、6月19日、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて初日の幕を開けた。前日に実施された囲み取材には、演出のマギーのほか、キャストの柄本時生、高梨臨、安達祐実、トリンドル玲奈が登壇。合わせて行われた、公開ゲネプロの模様とともにレポートする。
舞台は1990年代初めの高級サナトリウム。日本がバブル経済に浮かれる中、劇団主宰者の辻煙は、2年前に本番直前の舞台を投げ出し、それ以来このサナトリウムに引きこもっている。コメディアンとその妻、娘との面会だけが楽しみな中年男性など、入所者の顔ぶれは実にさまざま。
と、そこに煙の劇団で俳優をしている小柱力が、煙の元恋人・日田美果とともにサナトリウムを訪れて……。
本作はKERAの半自伝的作品でもあり、主人公の煙は劇団で作・演出を手がけている人物。幼少期にバスター・キートンに魅せられ、その“悪夢のような笑い”が彼の生き方を大きく変えてしまう。自分の身に起こる辛いこと、悲しいことはすべて脳内で笑いに転化。その妄想の世界が、唯一彼にとって信じられる世界になっていく。
そんな煙が身を置いているのが、まるでホテルのような高級サナトリウム。そこでは入所者、スタッフ、面会者など、それぞれ事情を抱えた者たちが交錯していく。煙と同じく笑いを追求する者、常に明るく笑顔の者、ひたすら夫を愛する者。
それは煙が作り出した世界にはいない、リアルな毎日をもがきつつも必死に生きる人々だ。
主人公の煙を演じるのは、今年読売演劇大賞優秀男優賞を受賞し、その味わい深い演技に改めて評価が高まる柄本時生。自らの笑いに対する絶対的な自信と、それが認められない怒りと、諦めのような悲しみ。それらが混然一体となった難しい役どころを、繊細に、それでいて大胆に表現していく。高梨臨が演じるのは、煙の劇団に所属し、かつては彼のパートナーでもあった美果。煙を理解しようと努力しながらも、結果的に心身ともに傷つけられた女性である。高梨はこれが約15年ぶりの舞台出演。だがそのブランクを全く感じさせない、堂々たる演技を披露している。
マキタスポーツ演じる園田研々の妻・春奈を演じるのは安達祐実。心の病を抱えながらも、彼女をなんとか生きさせているのは、とにもかくにも研々への愛。演出のマギーが、「安達さんで毎回泣いている。びっくりするくらい泣いている」と語るように、彼女の存在が本作の大きなカギとなっている。
登場人物の中で最も笑っているのが、トリンドル玲奈演じるサナトリウムスタッフの成瀬南。その笑い声と全身から放たれる陽の雰囲気は、その場の空気を一変させてしまうほど。そんなトリンドルのことを安達は、「想像もつかないお芝居にいつも驚かされます。でも役であるところからは絶対に外れなくて。
すごくチャーミングで魅力的です」と絶賛する。
研々役のマキタスポーツ、音波究二役の堀部圭亮はさすがの存在感。笑いのツボもおさえており、絶対的な安心感をもたらす。唯一初演に引き続きの参加となるのが、赤坂弥生役のナイロン100℃の松永玲子。KERAの世界観を知り尽くしている彼女だけに、なんともいえないおかしみを生み出し、さらに初演から年齢を重ねたことが、この役に大きな説得力を与えている。巧者ぞろいのカンパニーの中、目を引かれたのは音波の娘・小骨役の小野晴子。すっとぼけた声がなんともキュートで、笑いの間も抜群。若干18歳、今後が大いに楽しみな逸材だ。
「素晴らしいメンバーと、素晴らしい作品ができた」、「全部ずっと面白い」と作品の出来にかなりの手応えを感じているマギー。また柄本も、「めったにこんなことは言わないんですが、かなりの自信作です」と声を弾ませる。そんなふたりのコメントが、決して自己満足ではなく、なるほど納得と思える良作。初見の方はもちろん、ナイロン100℃版をご覧の方にも、ぜひ今一度劇場に足をお運びいただきたい。作品に対する印象がガラッと変わるはずだ。
舞台『シャープさんフラットさん』囲み取材より、左から)トリンドル玲奈、高梨臨、柄本時生、安達祐実、マギー(撮影:石阪大輔)
取材・文:野上瑠美子
<公演情報>
KERA CROSS 第七弾『シャープさんフラットさん』
作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:マギー
出演:
柄本時生 高梨 臨 安達祐実 田中俊介 トリンドル玲奈
森 準人 岩男海史 白石優愛 土屋 翔 小野晴子
松永玲子 マキタスポーツ 堀部圭亮
【東京公演】
2026年6月19日(金)〜7月5日(日)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
【名古屋公演】
2026年7月11日(土)・12日(日)
会場:Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【大阪公演】
2026年7月18日(土)・19日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ
関連リンク
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/sharp-flat/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2666418&afid=P66)
公式サイト:
https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/keracross_7