休憩なし! MCなし! BRAHMAN4時間ぶっ続けの結成30周年記念ライブをレポート
Photo:Tsukasa Miyoshi(Showcase)
Text:阿部慎一郎Photo:Tsukasa Miyoshi(Showcase)
4時間、ぶっ続けでライブを見た経験が、過去何度あるだろうか。
映画や演劇で、休憩を挟みながらは思いつくものの、ライブで、しかもパンクバンドでは思いつかない。ネットを検索してみても、やっている人自体も多くない。当たり前ではあるが。
BRAHMANが、横浜BUNTAIで開催する結成30周年記念ライブは、これまで発表したアルバム収録曲全72曲を、4時間にわたって披露するという企画である。
どんなセットリストなんだ?
曲は時系列順?
休憩は?
いつものテンションでライブして4時間保つのか?
など、いろいろ考えさせられ、参加者に心持ちの準備までさせてしまう時点で、すでに彼らの試みは成功なのかもしれない。そう、この日のライブは見る側にかつてない覚悟が求められ、そして当然、やる側にはそれ以上のとんでもない覚悟が求められる、そんなステージなのだ。なのに横浜BUNTAIに5,000人、チケットも即完売、当日券は抽選(結果的に全当選!)だったというのだから、驚くほかない。
形容しがたい期待感と緊張感に満ちた会場は、定刻から少し遅れて暗転、いつものオープニングSEが終わり、ステージに4人が登場した。ここから4時間、ほとんどの人にとって初めての、そして、ステージに立つメンバーにとっても、もちろん初のフルマラソンがはじまった。
オープニングナンバーは「真善美」。<幕が開くとは終わりが来ることだ一度きりの意味をお前が問う番だ>今日はこの歌詞が、また違った意味を持って響く。そして曲の最後にMCが入る。「30年は、30年っていう塊じゃねぇ。72曲は、72曲っていう塊じゃねぇ。1曲1曲の大事な物語だ。
4時間後、俺たちがここに立っているかはわからねぇ。あんたらもそうだ。でも、そんなこと知ったこっちゃねぇよ!六梵全書、30年分のBRAHMANはじめます!」。続いて響くギターリフは「雷同」。現状の最新アルバムである6thアルバム『梵唄』からの2曲が続く。アルバムを現在から過去へ振り返っていくのか?いつものことながら、アリーナクラスの広いステージの中央に、ギュッとタイトに編成されたライブハウスそのままのパフォーマンス、それでいてスケール感をまったく失わない彼らの存在感は本当に素晴らしい。「今夜」「ナミノウタゲ」「満月の夕」等、比較的ミドルテンポナンバーが多く収録されているアルバムだけに、バランスの取れた立ち上がり。ということは後半になればなるほど……いや、それはまたそのとき考えよう。
アルバムラストナンバーの「満月の夕」で初めてメンバーがモニターに大写しになり、『梵唄』のパートは終了した。
暗転ののち、再びオープニングSE。そして始まるのは「初期衝動」。なるほど、アルバムごとにパートを区切っていくわけか。ここからは5thアルバム『超克』のパートである。現在、ライブで演奏される楽曲が多く含まれた作品ではあるが、アルバム収録順に聞くことで、こちらもまたイメージの変化に驚く。そしてオーディエンスのテンションは、ライブ開始からずっとマックス状態だ。なによりステージの4人も、4時間ライブという計算や打算は一切なし。
頭からずっと全力疾走である。まだ前半だが大丈夫なのか?
続いて4thアルバム『ANTINOMY』。しかし、アルバム再現ライブを一回のパフォーマンスで3枚分も聴けてしまうなんて、なんて贅沢な空間なんだ。『超克』に対し、『ANTINOMY』はライブではあまり披露されなくなった楽曲も多く、この場の貴重さ、希少さが増していく。この日の客層はいつも以上に年齢層の幅広く、自分の席のまわりには本作に思い入れの強い世代が多かった。明らかなテンションの違いが伝わってくる。そして、ときおりモニターに映し出されるメンバーの姿には、少しずつ悲壮さが増していく。だが、まだ折り返し地点、ここからはBRAHMANもファンも未体験の領域だ。
4度目の暗転〜オープニングSE。さらにアルバムを遡り……という安易な予想はすぐに裏切られた。ここからは『THE MIDDLE WAY』以前の楽曲でセットリストを組む、要するに“あの頃”のBRAHMANが再現されたステージとなった。もう先を予想するとか、終わり方を想像することも馬鹿馬鹿しい、演奏される曲、一曲一曲をただ楽しむだけだ。恐ろしいことに、ファンのテンションも開始当初とまったく変わらない。彼らも30周年を祝福する声を止めるわけにはいかないのだ。ライブは3時間を越えようとしている。人間の集中力は90分が限界、なんて言った人はいったい誰だ。
メンバーは常軌を逸した集中力で、ブレることなくビートを刻み続ける。ファンも次々披露される曲に集中し、引き込まれ、パフォーマンスに呼応する。モニターに映るメンバーの姿は悲壮さを通り越し、もう笑顔もない。後半をこんなセットリストにしたら、それはそうだろう。しかし、肉体的にも精神的にも追い込まれているかもしらない彼らには、ある種の尊さが宿っていた。見せ方や虚勢など、不必要なものを持つ余裕はなく、無駄なものが削ぎ落とされた美しさ。ただただ、楽曲をパフォーマンスすることに徹するシンプルでストイックな姿は、辿ってきた30年の足跡、そのままのようにも映った。
「ラスト!TONGFARR!生きてっか?」ついにメンバーもファンも走りきった。
いつも以上に神々しいギターフレーズに彩られ、4時間72曲は劇的な終幕を告げる。しかし大団円と思いきや、RONZIが突然、激しいドラミングを開始する。TOSHI-LOWは「マジかよ!?」というジェスチャー。でも明らかにまんざらでもない表情。なんてBRAHMANらしい展開だ。初期にリリースしたミニアルバム収録の「FLYING SAUCER」、そして「BEYOND THE MOUNTAIN」「ARTMAN」と、なんと3曲を追加。最後は楽器を放り投げ、ステージを去った。やっぱり綺麗には終わらない、いや、4時間75曲を繰り広げても、まだまだ終わりは来ていないのだ。その後は、余韻冷めやらぬなか新曲「順風満帆」のPV、そしてニュー・アルバムとツアーが発表され、会場は大きな歓声に包まれた。
MCも、休憩も、ほぼなし。終わってみれば、まさに4時間ぶっ続けのライブ。
30年間の活動で、アルバム曲72曲が多いのか少ないのか。それはわからない。しかし、すべてが必要不可欠なピースで、そのすべてがあって彼らもファンも、今ここにいる。それをメンバー、スタッフ、ファンで作り上げ、体感し、共有する。かつてない高揚感と余韻と心地いい疲労感を残した、鮮烈な4時間だった。
<公演情報>
『BRAHMAN 六梵全書 Six full albums of all songs』
2024年11月4日(月・祝) 横浜BUNTAI