【ライブレポート】w.o.d. 熱狂のツアーファイナルで見せた新旧織り交ぜたロックの世界観
Photo:小杉歩
w.o.d.は最新作4thアルバム『感情』の制作にあたって、自らの過去作を更新するべくそれまでの“3ピースバンドが一度に鳴らせる音”へのこだわりを置き、より幅広く豊かな音楽性を求めた。一方で録音方法は、それまでのデジタル機材でのベーシックトラック一発録りから、あえてテクノロジーを後退させアナログテープを選択。その結果、現在のモードと過去のレガシーとのシナジーが爆発し、サイトウタクヤ(Vo/Gt)がMCで「自分らのアルバム、めっちゃ聴いてます。今年一番いいアルバムちゃうかな」と少し恐縮しながらも自画自賛するほどの、進化的なロックを生み出す。
そして、そんなニューアルバムを引っ提げたツアーのファイナルもまた、w.o.d.の新章の始まりを告げるような進化に満ちたパフォーマンスを披露した。
まずはニューアルバムの冒頭を飾る「リビド」からスタート。サイトウの<馬鹿にしてよ 馬鹿にしてよ もっと馬鹿にしてくれ>という自暴自棄かつスリリングな独唱に観客は息を飲む。そこからサイトウが<リビド>と叫んだ瞬間に彼のギターとKen Mackay(Ba)、中島元良(Ds)によるグランジ直系のサウンドが響き、場内の温度は一気に沸騰する。
会場をぶっ壊しそうな太いベースと宙を舞う瓦礫が見えるようなドラムに耳を刺すギター。ありえないほどの爆音だ。しかし、それでいてどこか心地良く、もっと欲しくなる柔らかさを兼ね備えており、ラウドながらも嫌な角の取れた優しい味の出せるアナログテープを用いた、アルバムの世界観とリンクする。そこに酩酊感を煽るサイケデリックなコーラスが加わればw.o.d.オリジナルの完成。1曲目にしてこの日の勝利を確信させてくれる演奏だった。
サイトウタクヤ(Vo/Gt)
2曲目は「イカロス」。そのタフネスとスピードでハイになった観客のテンションをさらに引っ張る。続いてUKのマッドチェスターとUSのミクスチャーロック、すなわち80年代後半~90年代初頭のロックのグルーヴ革命を融合させたような「Kill your idols, Kiss me baby」で横ノリを生み出し、「バニラ・スカイ」の爽快感でカタルシスを演出。
序盤はすべてニューアルバムからのセレクトで、縦横無尽、剛と柔を兼ね備えた持ち前のグルーヴを圧倒的なレベルに押し上げ拡張した、今のw.o.d.の名刺代わりとなるようなセットを展開した。
中島元良(Ds)
軽くMCを挟み1stアルバム『webbing off duckling』から「Vital Signs」、2ndアルバム『1994』から「THE CHAIR」、3rdアルバム『LIFE IS TOO LONG』から「sodalite」と続けて過去曲を披露。以前に聴いたそれらよりも明らかにパワーアップしており、各曲が終わるたびに場内は驚きからいったん静まり返ったあとに大きな拍手が湧いた。そしてニューアルバムから「白昼夢」へ。オルタナティブロック直系のダイナミズムとエモーショナルな日本語詞とメロディに、w.o.d.にとっては新しいチャンネル、シューゲイザー譲りの轟音が重なり夢見心地な世界へと誘う。
Ken Mackay(Ba)
続いてはローファイな揺れが心地いい「みみなり」、Kenのアメリカンな哀愁漂うベースリフが印象的な「relay」、Nine Inch Nailsの「March Of The Pigs」をオマージュしたという変拍子のダンスチューン「失神」、Kenと元良を中心にJack Whiteから着想を得て作ったというこちらも変拍子の「Dodamba」、初期の“ネオグランジ・w.o.d.”の代名詞的「Fullface」と、新旧織り交ぜてディープなオルタナティブロックの世界観を展開した。
そしてここからの展開が凄まじかった。サイケデリックロックとダンスミュージックを融合させた「モーニング・グローリー」とシャープなリズムギターから始まる「Mayday」、ニューアルバムをリードするロックンロールパレード「馬鹿と虎馬」とストレートなパンク「1994」を、DJのカットインのように繋ぐ。
別に誰も退屈していないと思うが退屈を吹き飛ばすような流れ。鮮やかさとともに変化に対する気概を感じる、終盤にもっとも欲しい予想だにしない展開によって、潜在的な体力をすべて引き出されたかのように踊る観客の波は絶景だった。そこから明け方のサンライズのような「オレンジ」での大団円はパーティーの粋と言っていいだろう。
それぞれひょんなことからロックの歴史に触れバンドの道を志し、ロックで未来を切り拓くことを選択した3人。「映画の“バック・トゥ・ザ・フューチャー”は3回で終わるけど、僕らの“バック・トゥ・ザ・フューチャー”はまだ続きます」と言うサイトウ。ラストの「Sunflower」で轟いたホワイトノイズの向こうには何が見えるのだろうか。これからの動きがますます楽しみになった。
Text:岩見泰志Photo:小杉歩
<公演情報>
w.o.d. ONE MAN TOUR “バック・トゥー・ザ・フューチャーIV”
2022年11月17日(木) Zepp DiverCity TOKYO